近年、高い経済成長率を維持している国として注目を集めるバングラデシュ。
バングラデシュでは主にイスラム教徒が多数を占めており、宗教が日常生活や仕事の仕方に大きな影響を与えています。宗教的な習慣や信念を尊重し、理解することで、より良いコミュニケーションと信頼関係を築くことができます。
本記事ではバングラデシュの宗教的背景と、仕事で気を付けるべきポイントをご紹介します。
Contents
バングラデシュの宗教的背景
バングラデシュの国教・スンニ派イスラム教
バングラデシュ統計局(2022)のデータによれば、バングラデシュ国民の91%以上がイスラム教徒です。中東のイスラム国家ほどイスラム教的色彩は強くありませんが、1971年の独立以来、国の憲法においてイスラム教が国教として明記されています。
イスラム教の宗派は大きく分けてスンニ派とシーア派という二つの宗派に分かれており、現在ムスリムの大多数はスンニ派にあたります。
スンニとは、イスラム教における言行、慣習のこと。宗教指導者に求める資質として、スンニ(言行)が重要であり、イスラム教の創始者・ムハンマドの血縁であることにこだわらない宗派をスンニ派といいます。
一方のシーア派は、ムハンマドの血縁者であることが正統な宗教指導者の条件であると考える人々です。
バングラデシュのムスリムは、8-9割がスンニ派に属します。
バングラデシュのムスリムは穏健派と呼ばれることも
東南アジアに位置するバングラデシュは、中東のイスラム圏から離れていることもあり、厳格なムスリム国と比べると教義の解釈が比較的緩やかであると言われています。
例えば中東イスラム国のイランでは、外国人や異教徒もイスラム文化を尊重することが求められます。
一方バングラデシュでは憲法で宗教の自由が保障されており、他宗教の信仰者も平等な権利を持っています。
このような背景から、バングラデシュのムスリムは穏健派と呼ばれることもあります。
とはいえ多くのバングラデシュ人は、イスラム教の教義を日常生活の中で実践しながら生活しています。非イスラム教徒の日本人にとっては馴染みのない文化も多く、バングラデシュ人と日本人が一緒に働く場合、双方がギャップを感じる可能性もあるでしょう。
もしあなたがバングラデシュ人を採用しようとしている、或いはバングラデシュで働こうとしているのであれば、バングラデシュの宗教的背景を理解し、彼らの文化や価値観を尊重することが重要です。
知っておきたい、イスラム教の教義
イスラム教の「六信五行」とは?
イスラム教の特徴として、内面的な信仰と共に実際的な行動が求められることがあげられます。
啓典である「コーラン」では、神、天使、啓典、預言者、来世、定命の6つを信じること(=六信)と、信仰告白、礼拝、喜捨、断食、巡礼の5つ(=五行)を実践することが義務づけられています。
イスラム教の六信
神(アッラー) | 宇宙の創造者、唯一絶対の神 |
天使(マラーイカ) | 神(アッラー)と預言者(ムハンマド)を仲介する |
啓典(キターブ) | 神が天使の仲介により、ムハンマドを通じて人間に与えた成句 「コーラン」。「クルアーン」とも |
預言者(ナビー) | アダム、ノア、アブラハム、モーセ、イエス、ムハンマド |
来世(アーヒラ) | 最後の審判で現世の報いを受ける場 |
定命(カダル) | この世のすべては神によって定められたことである |
イスラム教の五行
信仰告白(シャハーダ) | 「アッラーは唯一神、ムハンマドは使徒(預言者)」と唱える |
礼拝(サラート) | 日の出前、正午、午後、日没、夜半の一日5回、メッカの方角に向かい礼拝する |
断食(サウム) | イスラム暦第9月(ラマダン)の1ヶ月間、日の出から日没まで、水を含む一切の飲食を断つ |
喜捨(ザカート) | 資産に応じて、貧民救済のための税金を納める |
巡礼(ハッジ) | 一生に一度は巡礼月(イスラム歴第12月)に聖地メッカに巡礼する |
イスラム教はアッラーを唯一神とする一神教です。そして「まだこの世に生まれていない人間も含め、あらゆる人の人生や、世界に起こる出来事は天地創造とともにアッラーによって既に定められており、人間には変更不能である」という宿命論的予定説の立場を取ります。
六信五行のような信仰や社会規範を守り、アッラーの定めた生き方に従うことが、来世での永遠の幸福に繋がるとされています。
唯一神アッラーは、キリスト教、ユダヤ教における唯一神ヤハウェと同一の神です。イスラム教においてムハンマドやキリストは神からの啓示を受けた預言者として位置付けられます。
そしてイスラム教において、預言者たちの中で「最後にして最高の預言者」とされるのがイスラム教の創始者であるムハンマドです。
イスラム教における「禁忌」とは?
六信五行のほか、イスラム教においてはさまざまな「禁忌」が定められています。
代表的なものでは、以下があげられます。
飲酒の禁止 |
貸付金による利子の所得は禁止 |
豚肉、異教徒が殺した動物の肉を摂食することの禁止 |
食事や物の受け渡しに左手を使用することの禁止 |
偶像崇拝の禁止 |
イスラム教における女性観
穏健派と称されることもあるバングラデシュのムスリムですが、多くのイスラム国家と同じように、女性が肌を露出することは一般的に好まれません。女性に対し伝統的な衣装の着用が義務づけられていることや、一夫多妻制が認められていることは、普遍的人権擁護の観点から、男女の不平等として問題視されることがあります。
しかしながら、ムスリマ(イスラム教の女性)にとって、伝統的な衣装を着ることや貞淑であることは、自身の神への尊敬や信仰を示す目的もあります。
バングラデシュのムスリムと働く上でイスラム文化を理解することはもちろん重要ですが、最も大切なのは、彼らの文化の背景にある信仰心を尊重することであると言えるでしょう。
宗教的背景を理解した上で、信仰と文化に敬意を払い、それを尊重する姿勢が必要です。
バングラデシュにおける女性の服装のルールについて、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
バングラデシュ人と働く上での留意点
上述のように、バングラデシュではイスラム教の教義が日常生活に大きく影響を与えています。
ビジネスの場でもイスラム教の宗教的習慣を理解し、配慮することが不可欠です。
続いて、バングラデシュ人と働く上で特に気を付けるべきポイントをご紹介します。
礼拝時間と仕事の時間の調整
イスラム教徒にとって、1日に5回行う礼拝は非常に重要です。
仕事の場においては、この礼拝の時間の会議を避けるなど、礼拝のための時間を確保することが望ましいです。
また日本との違いとして、金曜日の正午は金曜礼拝(ジュムア)と呼ばれ、祈るのに一番良い曜日とされています。
イスラム圏の国では金曜礼拝のために、木曜・金曜を休みにしたり、金曜・土曜を休みにすることが一般的です。
ラマダン(断食月)期間中の対応
ラマダンは、日の出から日没まで飲食を控える断食月です。断食によってエネルギーや生産性が低下する可能性があるため、ラマダン期間中は業務上の配慮が必要です。
また、断食明けのイード・アル=フィトルの祝祭日には、帰省のために休暇を取る人が多いことも念頭に置く必要があります。
ラマダンは、イスラム暦の第9月とされています。太陽暦では毎年同じ時期ではなく、1年ごとに約11日ずつ早くなっていきます。
2024年は、3月11日~4月9日がラマダン、その後の4月9日と10日が断食明けの祝祭日でした。
バングラデシュ独自の宗教行事への対応
また、バングラデシュには特有のイスラム教的文化があります。
その一つが「ワジ・マフィル(Waz Mahfil)」と呼ばれるイベントです。ワジ・マフィルは、バングラデシュにおいてイスラム教の宗教的知識や道徳を広めるために開催される講演会です。
著名な宗教指導者が参加し、コーランの解釈やイスラム教の教義について演説を行います。
バングラデシュ人と働く上では、このような固有の宗教行事の参加に対しても配慮を行うことが望ましいでしょう。
バングラデシュ人と働く上で、宗教への理解と尊重を深めよう
異なる文化背景を持つ相手と仕事を行うためには、宗教行事や習慣を尊重し、適切な配慮を行うことが重要です。バングラデシュ人と働く上で、イスラム文化を理解し尊重することは、信頼関係を築き、より良い協力関係を育むことに繋がります。
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