外国人エンジニア採用の特徴とメリット、注意点や対策について。外国人エンジニアのマネジメント経験を有する日本人エンジニアが解説

現在、日本企業は深刻な人材不足に直面しています。特にIT分野においては、国内の人材供給だけでは企業の需要を満たせない状況が続いています。
エンジニアについても、多くの日本企業が適切なスキルと経験を持つ人材の採用に苦戦しており、企業の競争力に影響を及ぼしています。
このような背景から、海外からのIT人材採用を積極的に検討、実施する企業が増加しています。

本記事では、実際に外国人エンジニアの採用やマネジメントに全面的に携わった経験を有する筆者が、外国人エンジニアの採用におけるメリットや、注意点への対策について解説します。

日本企業が外国人エンジニア採用に踏み切る背景

日本企業が外国人エンジニアの採用を検討する主な理由には、以下のようなものがあります。

深刻な人材不足の加速

日本では少子高齢化や需給バランスの関係からIT関連人材の深刻な人材不足が進んでいます。
経済産業省が公表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」では、平成28年時点で既に以下のように述べられていました。

今後IT人材の供給力が低下するにもかかわらず、ITニーズの拡大によってIT市場は今後も拡大を続けることが見込まれるため、IT人材不足は今後ますます深刻化し、2030年には、(中位シナリオの場合で)約59万人程度まで人材の不足規模が拡大するとの推計結果が得られた。

IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果

ちなみに、高位シナリオでは約79万人もの人材不足に陥る可能性があると試算されています。この問題は、量だけでなく質の面でも深刻です。
独立行政法人情報処理推進機構の「IT人材白書2020」内にある、ユーザー企業のIT人材の質に対する不足感の5年間の変化を見ると、「大幅に不足している」割合が2016年度から2018年度までは33%前後となっていたのが、2019年度調査では39・5%にまで上昇していることがわかります。

これまで多くの日本企業ではシステム開発をITベンダーに外注してきましたが、DXを推進するには、デジタル技術知見やプロジェクトマネジメント能力のある人材をアサインする必要があります。
しかし、外注に頼ってきたため社内に対応できる人材が育っておらず、その上、高度なスキルを持つ人材の競争が激化していることから、このような結果になっていると予想されます。

深刻な人材不足の加速

国内のIT人材の人件費高騰

先述した需給バランスなどの要因からIT人材の給与の上昇が顕著です。

人材派遣会社のヒューマンリソシアが推計した「ITエンジニアの給与の増減率(2023年)」によると、各国の現地通貨ベースで比較した給与の伸び率は日本は0.4%となっています。日本のITエンジニアの給与の伸び率は海外諸国に比べて緩やかではあるものの、確実に上昇傾向にあります。

 日本のIT技術革新の遅れ

日本は他の先進国と比べてIT技術革新の速度が相対的に遅れていると言われています。この遅れは複数の要因が複雑に絡み合った結果です。

例えば、ICT教育の遅れなどが要因として挙げられます。2018年に実施された「生徒の学習到達度調査(PISA)」の結果は、この状況を明確に示しています。この調査によると、日本の学校での授業におけるパソコンやタブレットなどのデジタル機器の利用時間は、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で最下位でした。この結果は、日本の教育現場におけるICT活用の遅れを如実に表しています。

また、リスク回避的で新技術の導入に慎重な日本企業の文化的特性や、言語の壁も技術革新が遅れている要因として挙げられます。

外国人エンジニア採用のメリット

このような背景から外国人エンジニアの採用が増加しています。
外国人エンジニアを採用することで、企業は具体的にどのようなメリットがあるでしょうか。

若くて質の高いIT人材の確保

若くて質の高いIT人材の確保

外国人エンジニアの採用は、国内で確保するのが難しい若くて優秀なエンジニアを獲得するための有力な手段です。グローバルな広い採用市場を活用することで、より優れた技術力や経験を持つエンジニアを自社に迎え入れることが可能となります。
海外では、IT教育が充実しており、若い世代が早い段階からプログラミングやソフトウェア開発のスキルを学ぶ環境が整っている国も多いです。

また、新興国は人口増加が続いており、若い労働力が豊富です。これにより、多くの若いエンジニアが国際的なキャリアを志向し、自国以外での就職や経験を積むことに積極的です。

バングラデシュを例に出すと、人口が1.7億人に上っている中、平均年齢も27歳と非常に若いです。若い頃からエンジニアを志す人も多く、現地開発会社でも20代や30代のメンバーが多く活躍しています。

組織の技術力の強化

海外のエンジニアは、日本ではまだ普及していない最先端の技術やツールに精通している場合が多くあります。彼らの知識や経験を活用することで、最先端の技術や、開発手法や品質管理プロセスを社内に導入する事に繋がります。

また、外国人エンジニアとの協働を通じて、既存の日本人エンジニアも新しい技術や開発手法、考え方に触れることができるため、エンジニアの個々人のモチベーションやスキルのベースアップも期待できます。

筆者の経験としてもフィリピンのエンジニアとの協働をした際、フィリピンメンバーからの技術提案を受けることが多かったです。また、スクラム開発におけるチームでの振り返り手法も、彼ら自らMiroを活用しKPT法やYWT法など多くの手法を積極的に活用していたことが印象に残っています。こうした取り組みや提案を日本でも応用すべく、日本の開発チームで共有したこともあります。

 企業のダイバーシティの促進

異なる文化的背景を持つエンジニアを採用することで、組織内の多様性が高まります。この多様性は企業に様々な利点をもたらします。
多様な視点を持つチームは、意思決定や新市場の開拓において優れた成果を上げる傾向があり、また優れた業績を上げる可能性が高いというデータも存在します。

また、多様性を尊重する職場環境は、従業員の帰属意識や満足度を高め、個人の成長にもつながります。異なる文化や考え方に日常的に触れることで、社員の視野が広がり、柔軟な思考力が養われます。このような環境は、イノベーションを促進し、急速に変化するグローバル市場での競争力を強化することにもつながります。

外国人エンジニアを採用することによる企業ダイバーシティの促進

スタートアップ企業でも外国人エンジニアと協働できるような体制や文化を早期から作るため、オフショアを活用したという事例もあります。外国人エンジニアにチームへ参画してもらうことで、グローバルでの考え方やコミュニケーション方法を組織として身につけることができます。これにより中長期的に開発チームのグローバル化へ移行しやすくなり、成長フェーズにおけるチーム拡張性も非常に向上します。

外国人エンジニア採用の注意点への対策

外国人エンジニアの採用には多くのメリットがありますが、同時にいくつかの課題も存在します。以下に主な注意点への対策を挙げます。

言語の壁

日本語でのコミュニケーションが外国人エンジニア採用における主要な課題となることが多いです。この問題に対処するため、企業はいくつかの効果的な戦略を採用することができます。

日本語学習の補助

まず、外国人社員の日本語習得をサポートすることが重要です。
例えば、企業が日本語研修を提供することで、外国人社員の日常業務や社内コミュニケーションにおける日本語使用のハードルを下げることができます。
日本語研修の提供が難しい場合は、日本語能力検定試験の受験料を企業側が負担するなども一つの策となるでしょう。

こうした取り組みは、外国人社員の日本語能力向上への意欲を高め、長期的にはコミュニケーションの質を向上させることにつながります。

通訳・翻訳サービスの活用

一方で、即時的なコミュニケーション支援として、通訳・翻訳サービスの活用も効果的です。これにより、言語の壁を迅速に乗り越え、正確なコミュニケーションを実現することができます。

常時通訳スタッフを配置することは費用や手間を考えてあまり現実的ではありませんが、例えばSlackなどの社内チャットツールに翻訳アプリを導入するといった事であればすぐに取り組めます。

筆者はChatGPTで翻訳用のGPTsを作成した上で翻訳を行っていました。機械翻訳では堅苦しくなりすぎたり、ニュアンスが適切でなかったりするケースがあります。ChatGPTの活用により「チーム内のコミュニケーションとして固くなりすぎない文章であること」「同時に複数の英訳を作成することで誤った意図になっていないかを確認し、最適な言い回しを選択できる」という状態を作り出すことができました。

ChatGPTを活用した外国人エンジニアとのコミュニケーション例

さらに、全社員が把握すべき重要な社内資料や書類については、多言語対応を行うことも有効な対策です。これにより、言語に関係なく全ての社員が重要な情報を正確に理解できるようになり、情報の共有と理解が促進されます。

文化の違い

外国人エンジニアを採用する際、仕事の進め方や価値観の違いが摩擦を生む可能性があります。
この文化的な課題に対処するため、企業は以下のような取り組みを行うことが効果的です。

 ワークショップの開催

外国人社員と日本人社員の相互文化理解を深めるためのワークショップ開催は、文化の違いから生じる課題に対処する効果的な方法です。

日本は世界有数のハイコンテクスト文化を持つ国として知られています。この文化的特徴は、要望を言葉に出さずに相手に察することを期待したり、明確に表現されていない意図を読み取ることを重視したりします。しかし、この特殊な文化的側面は、日本人が考える以上に外国人スタッフにストレスを与える要因となっています。

ワークショップを通じて、これらの文化的な違いについて互いに理解を深めることができます。
例えば、日本人社員は自分たちの文化がいかにハイコンテクストであるかを認識し、外国人社員とのコミュニケーションではより明確な表現を心がける必要性を学ぶことができます。一方、外国人社員は日本の文化的背景を理解し、非言語的なコミュニケーションの重要性や「察する」文化の意味を学ぶことができます。

外国人エンジニアを交えた相互文化理解を深めるワークショップの開催

このような相互理解を促進するワークショップは、異なる文化背景による摩擦を減らし、円滑なコミュニケーションを促進する上で有効です。日本人が他国の文化を知ることも重要です。他方で日本の特殊な文化や考え方から派生した業務への考え方、目線を伝えることも大切です。
企業によってはワークショップだけでなく研修を行い、品質の基準やコミュニケーションのポイントを伝えていることもあります。また、研修やワークショップで実施したことをステークホルダーに共有し、かつ外国人社員への接し方を伝えることでコミュニケーションにおけるコンフリクトを防ぐことも期待できます。

多文化チームのマネジメント研修の実施

多文化チームを効果的にマネジメントするための研修を実施することも重要です。リーダーやマネージャーが異文化に対応するスキルを身につけることで、チーム内の価値観の違いを理解し、調整する能力を高めることができます。これにより、多様性を強みに変え、チームの潜在能力を最大限に引き出すことが可能となります。

具体的な事例として、メルカリの取り組みが挙げられます。
外国人エンジニアの採用に積極的に取り組み、多数の採用実績を持つメルカリでは、社内のD&I(多様性の受容)推進の一環として、2019年より自社内製による独自研修プログラム「無意識バイアスワークショップ」を実施しています。2020年初めからは、このプログラムを全マネージャーの必須研修としており、組織全体で文化の多様性を理解し、受け入れる努力を行っています。
資料も公開されているので、是非参考にしてみてください。

メルカリ、「無意識(アンコンシャス)バイアス ワークショップ」の社内研修資料を無償公開

グローバル市場に目を向けて、企業の競争力を強化する

外国人エンジニアの採用には多くのメリットがあります。
一方で言語の壁や文化の違いといった課題も存在しますが、課題に対して適切な対策を講じることで、企業の競争力を向上させることができるでしょう。

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