フィリピンに進出する際、税制優遇(インセンティブ)をどう設計するかは、投資回収期間・運転資金・キャッシュフローに直結します。
- PEZA(Philippine Economic Zone Authority:経済特区)
- BOI(Board of Investments:投資委員会)
などの投資促進機関を通じて、
- ITH(Income Tax Holiday:法人税免除期間)
- 関税免除
- VATゼロレーティング
- Enhanced Deductions(追加控除)
といった優遇を受けられる一方で、
CREATE法(RA No.11534)以降は「条件付き」「期間限定」の設計に変わり、CETI(Certificate of Entitlement to Tax Incentives)等の手続も整備されました。
そのため、申請前に
- 事業がSIPPに適格かどうか
- 輸出比率
- 立地(特区内か特区外か)
- ITH後に選ぶ税制(SCITかEnhanced Deductionsか)
を、経営としてシナリオ比較しておくことが不可欠です。
本記事では、意思決定者向けに、
- 制度の全体像
- SIPP適格性の見方
- PEZA・BOI選択のフレーム
- CETI取得〜BIR運用までの実務
- VATゼロ・関税免除のポイント
- KPI・ROIの押さえ方
を整理します。
※具体的な適用可否・数値は、必ず最新の公式情報と現地専門家の確認を前提にしてください。

Contents
制度の全体像:主要機関と最近の制度整理
CREATE法施行後の大枠は、
- IPA(Investment Promotion Agencies:PEZA/BOI 等)が投資案件を審査・登録
- CETIを発行
- BIR(税務当局)が日々の税務運用(申告・監査)を行う
という流れが基本です。
高額案件やルール整理については、FIRB(Fiscal Incentives Review Board)が調整役を担っています。
CREATE法では、
- 法人税率の見直し
- 優遇制度(ITH/SCIT/Enhanced Deductionsなど)の再編が行われ、
- 「適格な事業かどうか」(SIPPとの整合)
- 優遇取得後に条件を維持できているか(投資額・雇用・輸出比率・報告義務)
の両方が、従来以上に重要になりました。
PEZA:経済特区での登録・インセンティブ管理
- 対象:経済特区内の製造業・IT-BPM(BPO/ITサービス)など
- メリット:
- 税制優遇(ITH、一定条件下での優遇税率、VATゼロレーティング 等)
- 特区内での通関・インフラ面の利便性
- 注意点:
- CETI取得
- VATゼロレーティングに関する証憑管理
- 年次報告・監査対応
PEZAはMemorandum Circular(MC)で、CETIやVAT処理の実務ルールを随時更新しており、
最近もMC(例:MC 2025-051, MC 2025-006 等)で運用細則が整理されています。
BOI:特区外も含めたSIPPベースの投資優遇
- 対象:SIPP(Strategic Investment Priority Plan)に該当する投資案件
- 制造業、輸出志向事業、IT-BPM、高付加価値サービスなど
- 特徴:
- 経済特区外でも優遇が得られる
- 国内市場向け事業でも、SIPP要件を満たせば対象となる
BOIはSIPPを基礎としつつ、Memorandum等で適用基準をアップデートしているため、
直近のSIPPと関連通達を確認することが重要です。
FIRB:CETIテンプレ統一・高額案件の監督
- 役割:
- 一定規模以上の投資案件の承認監督
- CETIテンプレート・運用方針の標準化
- FIRB Advisoryの例(Advisory 007-2025 等)では、
- CETIの標準様式
- IPA・BIR間の連携
が示されており、“書式通りに作る”ことがより重要になっています。

SIPP適格性(誰がどの優遇を受けられるか):経営者が見るべき指標
CREATE法とSIPPの下では、「どの事業が、どの優遇を受けられるか」が、以前より明確化されました。
主な判断軸(実務的)
- 事業タイプ
- 製造/輸出志向
- IT-BPM(BPO・ITサービス)
- 高付加価値・ハイテク分野
これらはSIPPで優先度が高く、PEZA/BOIのどちらでもインセンティブ対象になりやすいカテゴリです。
- 輸出比率
- 輸出比率が高いほど、
- PEZA特区
- 「登録輸出企業」としてのVAT/関税優遇
のメリットが大きくなります。
- 雇用・投資規模
- 登録時にコミットした投資額・雇用数は、KPIとしてモニタリングされる前提です。
- 未達が続くと、優遇内容の縮小・見直しリスクがあるため、“背伸びしすぎない数字”を計画に入れることが重要です。
申請前の実務アクション
- 事業計画に「輸出比率・雇用数・投資スケジュール」を数値で明記
- 立地オプションごと(PEZA経済特区内/非特区)に
- 電力単価
- 地代・賃料
- 物流コスト
を比較し、NPVベースで「PEZA登録 vs BOI登録 vs 無インセンティブ」を試算する

PEZAとBOIの選定フレーム(意思決定の短縮式)
比較ポイント1:輸出志向か、国内販売か
- 輸出志向が強い製造・IT-BPMセンター
→ PEZAが相性が良いケースが多い - 国内市場向けの戦略拠点/SIPP該当の産業
→ BOI登録が選択肢になる
比較ポイント2:ITH年数とITH後の選択肢
CREATE法の枠組みでは、
- ITH(一定期間の所得税免除)
- その後に
- SCIT(Special Corporate Income Tax)
- Enhanced Deductions
のいずれかを選ぶ構造になっています。
どちらが有利かは、事業ごとに異なります。
- 売上構成(輸出/国内)
- 利益率構造
- 設備投資・人件費構造
を踏まえ、ITH+その後の10〜15年を通じたNPV比較が必要です。
比較ポイント3:運用負荷(コンプライアンス体制)
- PEZA特区には通関・インフラの利便性がありますが、
- 報告・監査
- 証憑管理
の実務負荷が高くなります。
- BOIでも年次報告・KPI管理は必要です。
社内でどこまでコンプライアンスを担えるか、あるいは外部専門家にどこまで頼るかを前提に、
「制度メリット > 運用コスト」となるかを見極める必要があります。

CETI取得〜BIR運用までの実務チェックリストとタイムライン
主なステップと目安
① 事前準備(2〜6週間)
- 事業計画
- 売上構成(輸出/国内)
- 輸出比率
- 雇用スケジュール
- 投資計画・キャッシュフロー見込み
- 必要な環境許可・ローカル許認可の見通し
- 会計・税務フロー設計
- VAT処理
- 証憑管理ルール
② IPA(PEZA/BOI)申請〜審査(数週間〜数カ月)
- LOI提出 → 正式申請
- 技術・経済性審査
- 補足照会対応
- 登録承認
③ CETI発行 → BIR登録 → 優遇運用開始(+1〜3カ月)
- FIRBが示すCETIテンプレートに沿って発行
- BIRへ登録し、税務システム上の設定完了後、優遇運用開始
登録後の提出・報告
- 年次報告(ATIR/ABR 等)
- 投資・雇用・輸出比率の実績報告
- BIRへの税務申告・納税
期限管理を怠ると、ペナルティやインセンティブ見直しにつながるため、FIRB/IPAの指示・フォーマットを確認し、社内プロセス/会計システムへの落とし込みが必須です。

VATゼロレーティングと関税免除の実務ポイント(BIR対応)
要点
CREATE法の枠組みでは、VATゼロレーティングは原則として、
「登録プロジェクトで直接かつ排他的に使用される」財・サービス
が対象とされ、
BIRが発出するRR/RMC(例:RR 21-2021 等)で証憑要件が厳格化されています。
- サプライヤー側の請求書フォーマット
- 取引用途の証明
が不備だと、VATゼロを否認されるリスクがあります。
実務上の対策(最低限)
- サプライヤー契約に
- VATゼロ適用用の請求書テンプレ
- 用途証明(どの登録プロジェクト向けか)
を明記しておく
- 取引ごとに
- 注文書
- 納品書
- 社内での受領記録
を紐づけて保存する
- BIRの最新RR/RMCを継続的に確認し、税務顧問と運用を同期させる

コンプライアンスKPIとよくある落とし穴
経営ダッシュボードに入れておきたいKPI
- 投資・雇用KPI
- 承認投資額に対する実行率
- 承認雇用数 vs 実績
- 輸出比率(計画 vs 実績)
- 税務・証憑KPI
- 月次のVATゼロレーティング件数
- BIRからの照会数・未解決件数
- サプライヤー請求書・用途証明の不備件数
よくある落とし穴と対処
- 採用の遅れ → 優遇KPI未達
- 対策:採用スケジュールの前倒し、代替KPIの事前協議
- サプライヤー請求書不備 → VATゼロ否認
- 対策:契約テンプレートへの明記、請求書チェックリスト運用
- CETIの解釈差 → IPAとBIRの齟齬
- 対策:申請段階から税理士・弁護士・IPA窓口を同席させる
→「法的枠組み」「税務運用」「事業実態」を最初から合わせておく
- 対策:申請段階から税理士・弁護士・IPA窓口を同席させる

意思決定に使える短期ROIの考え方(実務アプローチ)
フィリピン進出を検討する経営層としては、インセンティブを「やる/やらない」でなく、
「PEZA登録した場合と、BOI登録した場合、何もしない場合で、
3〜10年スパンのNPVがどう変わるか」
を押さえておく必要があります。
評価の流れ(サマリ)
- シナリオ設定
- シナリオA:通常税制のみ
- シナリオB:PEZA登録(ITH+その後SCIT or Enhanced Deductions)
- シナリオC:BOI登録(同上)
- キャッシュフロー項目
- 法人税負担の差額
- 関税/VATの運転資金インパクト
- 申請・維持コスト(専門家費用・内部コスト)
- 優遇失効リスク(KPI未達等)を織り込んだ「期待値」
- NPV計算と感度分析
- 輸出比率
- 電力単価
- 雇用達成率
- 為替(PHP/JPY, PHP/USD)
を変数にして、どのシナリオが最も堅実かを見るのが実務的です。
関連記事:
主要出典
- Republic Act No. 11534 (CREATE Act)
- PEZA Memorandum Circulars(CETI/VAT運用等、最新の実務指示(リンク)
- BOI — Strategic Investment Priority Plan (SIPP)、BOI-Memorandum Circular(SIPP改訂等)。(リンク)
- FIRB Advisories(CETI、Advisory 007-2025 等)。FIRB公式。(リンク)
- BIR — Revenue Regulations / Revenue Memorandum Circular。(リンク)
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