ベトナム店舗出店 ~気を付けるべき事項を専門家が指南~

ベトナム店舗出店

1,はじめに

 外務省の「海外進出日系企業実態調査」によると、現在7万を超える日本企業の海外拠点があるとされており、ベトナムには2,500社前後の日系企業が存在するとみられます。【外務省の「海外進出日系企業拠点数調査(2022年10月調査)」では2,373社】

また、今後もベトナム進出での売り上げ拡大やコストダウンを目的とした企業は増加する見込みで、当社への問い合わせもベトナム進出関連が最多となります。

更に、VnEconomy調査データによると、ベトナムには2023年時点でミリオネアが19,400名居り、2013年から2023年までの10年間の増加率は98%となり、ミリオネアの増加率は世界一となります。

その中で、ベトナムの経済発展と共に消費市場が成長する事を予想し、飲食店や小売店舗を構える事業形態にてベトナム進出をする企業が増えております。

一方で、事前の調査不足が要因で店舗を構えてもその後の集客に苦戦し、撤退を余儀なくされる店舗も一定数見受けられます。店舗事業でのベトナム進出において、事前調査を行いベトナムの商習慣や店舗を構える上での不動産事情や現地ベトナム人の嗜好、競合店舗情報、集客施策を理解した上で事業計画を作り、本格的な進出に備える事が事業成功において重要な要素となります。

本記事では、10年以上にわたりベトナム進出に携わる当社が、現地の店舗事業での進出において気を付けるべき点や対策を解説していきます。

2,日系企業のベトナム進出が加速している理由とは?

・国内市場の衰退

ベトナムへの進出のきっかけとなる理由として挙げられるのが、日本国内市場の衰退による新たな市場開拓が挙げられます。人口減少、内需の低下に伴いこれまで日本国内で成長してきた企業も成長が鈍化、あるいは売上が減少してきている企業も多いと思われ、国内市場の脱却と新たな成長市場への参入と事業拡大を目的に衰退市場から成長市場へと移行してきている背景があると見られます。

・豊富な労働人口と安価な人件費

人口1億人を超えるベトナムでは、平均年齢が31歳と日本の49歳と比較すると若い労働者層が豊富にいる市場である事が見て取れる。昨今の経済発展に伴う人件費の上昇はあるものの、日本と比較するとまだ安価な人件費も製造業の生産拠点の設立等の進出においては大きなアドバンテージとなりえます。

・政治の安定と親日国

ベトナムと日本は外交関係もよく、国民感情も非常に親日的でベトナム現地には日本食ブームもあり、多くの日本食レストランや日本製品を目にする事も多く、また政治的にも安定している事や日本との外交関係も良い事からカントリーリスクが低い事も挙げられます。また、日本語人材も比較的多い事から、海外進出時の語学障壁が高い日本人にとっては日本語人材が比較的多いベトナムへの進出はハードルを下げる要因にもなり得ます。

・インフラ環境

外資系企業が後進国へ進出する際に現地事業を行う上で、インフラ環境は非常に重要となります。その点、ベトナムは大都市のホーチミンやハノイを始め、製造拠点が多い郊外のエリア含めインフラ環境が整ってきており、大都市圏では日本と大きく変わりないインフラ環境があると言えます。

・顕著な経済成長

ベトナム統計局の発表によると(2025年4月6日)、2025年第一四半期(1〜3月)の実質GDP成長率は前年度期比6.93%と発表されています。特に製造業9.28%・サービス業7.7%と大きな伸びを見せています。また、ベトナムの首相は政府及び国会が定めた(通年のGDP成長率8%以上)という目標を堅持する方針を打ち出している事から、今後も中長期的な経済成長が見込まれる市場と言えます。

3,ベトナム消費市場の拡大と貴社のターゲット層

以下のグラフはVnEconomyのベトナムの世帯収入調査結果を基に当社でグラフ化したものです。

冒頭でも記載した通り、2023年時点で19,400名のミリオネアがベトナムにおり、また2013年からの10年間で98%増加しています。これは、中国・インド・アメリカを抜いてその増加速度は世界一となっています。

ベトナムへの進出を検討する際に、ミリオネアの増加率世界一というワードは非常に魅力的と言えますが、実際に上記の様にベトナムの月間世帯収入をグラフ化してみると、その中で貴社の日本製品を購入する層はどの位居るのか、日用品であればどの程度頻繁に購入できる購買力があるのか、ある程度貴社の製品やサービスの市場規模が見て取れると思われます。

当社にお問い合わせを頂く企業様の中でもベトナムへの進出を検討する企業は多く、その多くが進出の理由を、(高い経済成長により今後自社の製品やサービスの利用者が増える)という予想を立てられる企業様が大半となりますが、その経済成長により今後(具体的にいつ?)購入者層・利用者層が伸びるというタイムラインを見間違えている傾向が多く見受けられます。

ベトナム進出をされる際に、市場全体を面で捉え、点の消費者・利用者の部分を見落としている為、人口規模=自社のターゲットと捉える傾向がありますが、この点が海外進出において注意すべき初歩的な部分となります。

ベトナムの今後の経済成長幅が大きく消費者市場が拡大していく事は、各統計を見てもほぼ間違いないと言えますが、日本のように中間層が大半を占めどの層でも一定の購買力がある人口1億人を超える市場は世界的に見ても稀で、一部の先進国のみが該当します。

その為、日本で広くターゲットや消費者層を設定している企業にとって、同等の人口規模のベトナムにおいて、日本と同じターゲットの設定は難しい上に、経済成長と共にターゲット層が広がっていくタイムラインを計算できていないが為に、進出後に集客や売上に苦労をする企業が見受けられます。

対して同じアセアン圏内のシンガポールと比較してみます。人口約600万人のシンガポールの月間世帯収入平均は2023年時点で約101万円となります。また、「Singapore Census of Population 2020」の調査結果によると、全世帯の約97%がベトナムの世帯収入「Aクラス:1,580USD」以上の世帯収入があり、これを世帯人口で比較するとシンガポール約146万世帯、ベトナム約3,000万世帯で「Aクラス:1,580USD」以上の世帯収入の両国の比較を以下のグラフにて見て取れます。

上記のグラフで見てとれるように、シンガポールとベトナムでは人口が16倍以上の差がありますが、仮に「Aクラス:1,580USD」以上の月間世帯収入層をターゲットとした場合には、シンガポールの方が約50万世帯多く、現時点において貴社ターゲット層となる人口規模はシンガポールの方が大きいと言えます。

これはあくまで世帯収入のみで比較した場合となる為、一概にこのデータのみで判断は出来ませんが、ベトナム進出を検討する際に判断材料としてこのようなターゲット層の割り出しを行う事が有効となります。

この様に、高所得者層をより広くターゲット層とする製品やサービスの展開を検討している場合は、ベトナムでのターゲットを見極める必要があり、一方でより低所得者層をターゲットとする日用品や消費財を展開する場合には、ベトナムの方が市場規模のアドバンテージは高くなり、その市場規模の加速度や成長性は高いと言えます。

【筆者撮影:ホーチミン市レタントンの日本人街】

4,ベトナムへの店舗事業展開の注意点と対策

・店舗物件の不動産賃貸動向

ベトナムに店舗を初めて出店する場合には、最大都市ホーチミンか首都ハノイのどちらかに限定されると言えますが、最大都市ホーチミンの方がトレンドの発信源としても商業の発展の観点からもアドバンテージが大きい一方で不動産の高騰による中心部の賃貸価格の上昇がネックとなります。

ホーチミン市中心の㎡あたりの賃貸価格は東京平均と変わりなく、店舗物件においては需要が高い為人気エリアは空室率も低く価格もより高くなる傾向があります。

ベトナムで不動産賃貸契約を行う場合には、不動産仲介会社を通しても各物件のオーナーとの交渉が必要となります。その際にいくつかの注意点があります。

まず、交渉時には以下のポイントを確認しましょう。

・契約内容

契約年数と家賃、修復条件や店舗営業許可物件の可否、法人契約可否、前借主の事業内容、デポジット額(*通常は4か月分が契約時に必要)やデポジット返金条件、保険、そして最も重要なチェックポイントは【契約期間中に一方的な賃貸価格の変更がなされないか】となります。

ベトナムでは不動産オーナーの権限が非常に強い為、店舗事業ではオーナーと契約関連で揉めるケースがよくあります。特に、契約期間中にも関わらずオーナー側が一方的に家賃の価格を上げてきたりするケースがあります。このようなケースでは借主側は権限が弱い為、交渉する以外には策は無く、大半はオーナーの要求を呑むか、移転するしかなくなります。

 この様なケースを避けるためにも、仲介する不動産やこのオーナーが所有する物件で事業を営む店舗企業にそのような事例や傾向が無いかヒアリングする事も重要な判断材料となり、事前にトラブルを防ぐ事にもつながります。

・店舗の立地(エリア)

ベトナムに進出する際に、最有力候補となるのが最大都市ホーチミンになると思われますが、多くの場合はレタントンという日本人街に店舗を構える事を検討されるでしょう。レタントンは多くの日本食レストランや日本人専用大型コンドミニアム、日系コンビニエンスストア、日系ホテル等の多くの日本人コミュニティや日本のサービスでエリアが構成されているエリアです。

 しかし、レストランは賃貸価格が高く、最も競争も激しいエリアとなります。当社でも過去10年以上このレタントンのエリアの遍歴を現地で見てきておりますが、特に飲食店の入れ替わりが激しく、訪問するたびに無くなる店と新たな店が見て取れます。

 例として、多くの店舗事業者はベトナム進出前にホーチミンに訪問視察を行い、レタントンの日本人街の同様の日本食レストラン等を色々回りエリアを決める傾向があり、現地事情をよく理解しないままエリアを決めて出店しまったのだろうと思われる飲食店や店舗事業者を現地でよく見かけます。そのような店舗では1年経たないうちに閉店をする店舗も見かけます。

 人件費が安いベトナムであれば、日本と同等の価格で販売していければ家賃が日本と変わらなくても日本人街なら集客できるからやっていけると安易な判断をしてしまいがちですが、現実的にそのように簡単ではなく、実際にレタントンの日本人街の飲食店はどこの同じような価格帯で同じようなメニュー構成の店舗が多く、ローカルのベトナム人の集客が出来ていない店は淘汰されていきます。

このプロダクトアウト側の日本企業の典型的な(出せばなんとかなる)方法でのマーケットインが、海外進出において大きなリスクとなり得ます。事前にコストをかけてでも現地事情に精通した企業等に市場調査の依頼をする事が結果的に安く済むことにも繋がります。店舗の立地は重要ですが、昨今の経済発展により開発エリアが急拡大しているホーチミンにおいて、レッドオーシャンのレタントンの日本人街以外にも多くの候補エリアがあります。それらエリアは日本食レストランや日本のサービスを提供する店舗事業ではブルーオーシャンで競争が激しくない段階のエリアも多い為、これらの事前の市場調査を行う事は後のベトナムへの事業展開においてリスクヘッジの観点からも非常に重要な情報源となります。

・店舗の内装

ベトナムで店舗を出店する場合には、店舗物件を借りる以外にも内装を整える必要があります。昨今では日系の内装施工を請け負う事業者も増えてきている一方で、ベトナムのローカル内装施工業者のスキルも上がってきており、貴社の店舗事業がどこまでの内装のクオリティを重視するのかをコストとクオリティを天秤にかけ判断する必要があります。

例えば、日系とローカルでは内装施工費用も1.5倍〜2倍の差がありますが、非常に繊細なデザインや内装施工のクオリティを求め日系業者に頼る場合は施工費用が高くなる為、店舗事業を運営する上で投資コストの回収ハードルが上がります。

レタントンの日本人街等で非常に内装にコストをかけている大型の飲食店をたまに見かけますが、現地に精通する当社から見てもどう見ても回収できないであろうと容易に想像がつく店舗もあります。これらの店舗はそもそも事業投資の回収を見込んでいない場合もあります

では、なぜそのような店舗事業が成り立つのか。

これは、この店舗単体で事業収支を見ているわけではなく、ブランディング観点で立派な店舗を海外で運営しているケースがあります。例えば大手商社商社等の資本であったり、大手飲食店資本でブランディング目的で一等地の店舗に豪華な内装施工を施している等です。このような店舗を視察して、背景を理解していないと、自社でもこのように投資をしても回収できると勘違いをしてしまうケースがあります。

実際に、一等地で豪華な内装の店舗で回収するのは、当社で細かな事業計画を立てて計算しても、とても回収できない試算が成り立ちます。結論としては、よほどクオリティを求められる店舗でない場合は、その後の投資回収や店舗運営上の損益分岐点が低くなる為、内装にあまり大きなコストをかけない方が良いと言えます。

5,ベトナムへの店舗事業展開の成功へのステップ

・事前の市場調査

事前の市場調査はリスクヘッジの観点からも、現地の市況感を把握する為にも非常に重要な要素となります。

特に、海外進出が初めての場合は文化・商習慣・嗜好・競合の情報・不動産・集客・価格帯・人気の製品やメニュー構成・トレンドや規制等々のあらゆる状況が日本とは異なる為、自社で必ず現地に訪れる視察及び、現地に精通した企業への調査依頼をする事で、見えていなかったリスクや有益な情報収集を行う事に繋がります。

よくある日本企業のプロダクトアウト型の【出せばなんとかなる】や【売れなければ対策を考える】という思考は時に手遅れに繋がりかねない為、事前に防げるリスクや事業成功確率を高める事前の投資としての調査や専門家へのコンサルティング依頼を検討する事をお勧めします。

・精緻な事業計画の作成

初めての海外進出企業によくありがちな例として、事業計画が楽観視しすぎている傾向があり、上記のプロダクトアウト型の志向により、損益計算書が到底達成できないような数字であったり、現地の市況感やさまざまなコスト等が抜け落ちている事が当社が支援に入る際にもよくあります。

事業計画はそもそもの進出可否判断を行う上で重要な判断要素となり、精緻に損益計画を立てる事でコストの見直しや営業数値の修正、集客施策の練り直し等を行い現実的な計画シミュレーションを行い、3年後、5年後の未来を数字ベースである程度可視化し予想する事が出来ます。当社では、この初期の事業計画作成フェーズを現実的な数字で計算し、ベトナム進出を検討する企業に対し【進出しない】というオプションを含めて検討する事をお伝えしています。これは、安易な計画で進出して、仮に早期撤退する事になった場合に企業に大きな損失が生まれる為、それを防ぐために初期段階からの事業計画作成や調査のご支援を承っています。

・集客施策

最後に店舗運営において最も重要と言える集客についてですが、初めてのベトナム進出で未知の国での集客をどう成功させるかが成功のキーポイントの1つと言えます。

ベトナムは平均年齢31歳と若く、消費者層はデジタルネイティブ世代となります。その為、各SNSでのブランディングや集客施策は欠かせない要素となり、立地条件やサービス・商品・メニュー構成等以外の必須での取り組みとなります。

他にもベトナムの各媒体(オンライン・紙媒体)への広告出稿やキャンペーン施策等も有効な施策となり得ます。

レタントンの日本人街へ行くと、次々に新しい飲食店やサービス業店舗を見かけますが、立地は良くても開店当初から全く客が入らない店舗も見かけます。一等地の繁華街に店舗を構えると集客の自然流入を見込んで施策をしていないとこのような状況になりかねません。

また、開店当初から客が入らない店舗は残念ながらその後客足が増える事はほぼ無く、そのまま運転資金が出ていくだけになり得ます。集客施策を行う上で、誰をターゲットに何を売るのかを事前によく分析を行い、施策を立てていく事が重要となります。

6,最後に

今後の経済発展にともない、より多くの企業のベトナム進出が予想される中で、日系企業だけでなくその他の外資やローカル企業との競争が増えていきます。

当社では、多くの企業の海外進出実績のあるコンサルタントが、事前の市場調査やコンサルティング、具体的な進出の包括支援等、貴社の海外進出をサポートします。

まずは、初回無料カウンセリングを通じて、貴社がまず何をすべきかという、次のステップを共に整理しましょう。是非お気軽にお問い合わせください。

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