バングラデシュ人材の特徴や日系企業が雇用で気をつけるべき点とは?現地企業CEOにインタビュー

バングラデシュの求人プラットフォームの中で最大の求人掲載数を誇るatB-Jobs。
atB-Jobsを運営するatB Ltd. のCEOである菅谷さんに、バングラデシュ現地の採用市場やバングラデシュ人の雇用、良好な関係を築くためのポイントまで、幅広くお話を伺いました。

バングラデシュ最大の求人数を誇る求人サイトatB-Jobs CEO

atB-Jobについて

(西川) 本日はよろしくお願いいたします。まず、貴社の求人サイトサービスの特徴と、日系企業が求人掲載をする際のサポート体制についてお聞かせいただけますでしょうか?

(菅谷氏) atB-Jobsは日本人の私が代表を務めています。また、COOの高橋は日本の政府関連事業でのサポート経験があり、私が2年口説き続けてジョインしてもらったメンバーです。
我々が直接お客様を担当させていただく事もあって、日本企業が安心して利用できるサポート体制が整っています。

バングラデシュの求人媒体サービスについてですが、日本では当たり前のことがまだ実現されていないことも多いです。例えば、採用プロセスの管理、不適切な履歴書の除外、リファレンスチェックなどです。
これら基本的な機能は、弊社のサイトには既に実装しています。そのため、求職者情報の質の高さが弊社サービスの特徴です。

また、求職者にとっては、ベネフィット面が分かりやすいという特徴も挙げられます。
福利厚生でのフィルタリングが可能など、強力なフィルター機能を有しているのも弊社の一つの強みです。

atb-job CEO対談

(西川)そういったサポート体制があると、日系企業にとって頼りになりますね。COOを2年間かけて口説いたという話ですが、私も今まで東南アジアを中心に現地で事業を立ち上げてきましたが、現地で信用できる方がいるかどうかでビジネスが大きく変わりますよね。

(菅谷氏) そうですね。本当にそこは重要です。どれだけ優秀な方にナンバー2を担っていただけるかが鍵です。

(西川) 非常に共感します。新しい国で事業を立ち上げる際に、信頼できる現地のメンバーを必ず1人見つけて人間関係を築くことを心がけています。イメージとしては、お財布をお預けても何も心配いらないくらいの関係値です。

バングラデシュの多くの企業が求人広告で給与を明示しない現状

(西川) バングラデシュの人材市場はどのような状況でしょうか。例えば課題などはどういったものがありますか?

(菅谷氏) 色々ありすぎてお伝えするのが難しいですが……(笑)、まずは給与面についてです。バングラデシュでは多くの企業が給与をネゴシエイブルと呼ばれる交渉制で提示しています。そのため、求人票に給与情報がないのが一番の課題です。
弊社の求人媒体では、なるべく給与が提示されている求人から順に掲載するようにしています。それでも、現状では約90%の企業が給与を明示していないのが実情です。

(西川) バングラデシュの多くの企業が求人内容と共に給与を提示しない理由は何でしょう?

(菅谷氏) 企業側が給与レンジを提示すると、そのレンジでオファーしなければならないからです。バングラデシュはまだ雇用者に対して雇用主のパワーが圧倒的に強く、求人を出すと求職者が多く集まるため、企業はできるだけ低い給与でオファーしたがる傾向にあります。

(西川) 給与提示がないと求職者も求人媒体も困りますよね。

(菅谷氏) その通りです。求職者に対してアンフェアなので、各企業に給与を提示することを依頼しています。そうすれば、お互いにミスマッチもなくなります。

(西川) 求人掲載企業に給与提示をお願いするのですか?

(菅谷氏) はい、その通りです。

(西川) すぐに応じてくれるものなのでしょうか?

(菅谷氏) なかなか難しいと言うのが本音です。しかしこれは応募者はもちろん企業にとっても必要な事だと思うので、給与提示をしている企業のポジティブな事例を増やすなどし、解決していきたいと考えています。

atB Ltd. のCEOである菅谷さん

働きかたや休暇、昇給幅など、日本のやり方を押し付けないこと

(西川) 雇用面についてもお伺いしたいです。バングラデシュの方々を雇用する上で、気をつけるべき点などあれば教えていただきたいです。

(菅谷氏) はい。まず当然のこととして彼らの文化を尊重し守ることです。バングラデシュの多くの方がイスラム教を信仰しています。また、彼らは家族をとても大切にします。
例えば、家族が病気や怪我をした時や出産時などは、早退や休暇に対して寛容に対応するなど、現地の価値観に合わせて配慮することは大事だと思います。

また、連休も日本とは異なります。1週間程度の長期休暇を取得できるよう配慮するなども必要です。給与面に関しても、バングラデシュの物価上昇率が高いことを考慮し、日本よりも大きな昇給幅を設定することが重要です。これは従業員のモチベーション維持にも繋がります。

ただし、昇給に関しては従業員のパフォーマンスに応じて差をつけることが組織にとって効果的ですし、本人に対しても誠実だと考えます。優秀な従業員には大幅な昇給を行う事が、その人の成長やエンパワーメントに繋がるのではないでしょうか。

(西川) 確かにその点は日本とは異なりますね。日本では依然として一律の昇給や小幅な昇給が一般的なように思いますが、バングラデシュの年間の昇給率はどの程度でしょうか。

(菅谷氏) バングラデシュの物価上昇率が約9%、GDP成長率が約6%〜であることを踏まえ、年間平均で10%程度となっています。日本では給与が据え置かれる一方で物価が上昇し、実質的な減収となっている状況がありますが、バングラデシュでも同様の状況を回避するため、適切な昇給を実施することが重要だと考えています。

(西川) よくバングラデシュと比較されるインドやベトナムの人件費上昇率も同程度かと思いますが、いかんせんベースの金額が異なるので5年10年スパンで見ると企業側のコストが大きく変わりますよね。

国民性は真面目で英語話者も豊富。しかし常識が異なることも

日本やバングラデシュ現地でバングラデシュ人の雇用を検討している企業に向けてアドバイスを頂きたいのですが、バングラデシュ人材の特徴からお伺いしても宜しいでしょうか。

(菅谷氏) バングラデシュの方は真面目です。多くの方が持つ強い信仰心が誠実な労働態度の基盤となっているように感じます。
また、ベトナムなどと比較して英語を話せる人材が多いため、企業に英語が堪能な担当者がいる場合は特に相性が良いと考えられます。

とはいえバングラデシュはまだ開発途上国ですので、先進国とは常識が異なる事もあります。許容されない行為には、こちらが明確にNOを伝える事も必要です。

(西川) 日本人同士のコミュニケーションでは暗黙の了解ですませることも、海外では意思や判断を言葉にして明確に伝えることが重要ですよね。バングラデシュでも同様でしょうか。

(菅谷氏) その通りです。これは英語と日本語のコミュニケーションの違いかもしれません。私自身も従業員から「YESなのかNOなのか」と明確な回答を求められることがあります。曖昧な返答では理解されず、逆に不満を招くこともあります。

atB Ltd. のCEOである菅谷さんとの対談

(西川) 現地の方々と良好な関係を築くために必要な点や留意すべき点を教えてください。

(菅谷氏)正直なところ、初期段階では困難を伴うことが多いかもしれません。外国人との交流に慣れている方であれば容易かもしれませんが、そうでない場合は工夫が必要です。
例えば、現地の言語を学んだり、一緒に旅行に行くなど、共通点や交流の機会を見出す努力が重要です。バングラデシュで訪れた場所を話題にするなども効果的です。

私自身の経験としては、従業員の自宅を訪問して、その生活環境や家族構成を理解するよう努めていました。

(西川)それはなかなかハードルが高いように思いますが(笑)、どのように従業員にアプローチするのでしょうか。今日君のお家行っても良い?みたいな感じでしょうか。

(菅谷氏) 明日家行くから!とかですね(笑)。実際に訪問する際は、ご家族と食事を共にし、交流を深めます。確かに私のアプローチは少し変わっているかもしれないですね。

ビジネスマナーから生成AIまで、幅広いトレーニングを提供し成長を促進する

(西川)新しい国で現地の方を雇用して事業を開始する際、初めは相互の信頼関係が構築されていないため双方のパフォーマンスが低くなりがちなように思います。
私の経験上、真の信頼関係を築くには1年程度必要だと思っているのですが、バングラデシュではどうでしょうか?

(菅谷氏) バングラデシュでも同様です。
少し話は変わりますが、私はこれまでミャンマーやアフリカなど様々な国を訪れてきました。それこそスラム街などでも多くの現地の方と会話を交わしましたが、そういう方々と話すのが私自身好きなんですよね。こういう体験から、信頼関係を築くにはオープンマインドでの会話が大事だと思っています。

(西川) 以前バングラデシュを訪れた際、スラムやローカルなマーケットなどを歩いて回りました。いわゆる貧困層の方も多いエリアですが、外国人に対する物乞いなどもなく、皆さん非常に優しく親切だった記憶があります。
オフィス街のホワイトカラー層も、基本的に謙虚で親切な方が多いという印象を受けました。バングラデシュの方との信頼関係を築くには、オープンマインドかつ相手の気持ちに寄り添ったコミュニケーションが大事になるのかもしれませんね。

マネジメントや従業員のトレーニングにおいて、特に心がけていることはありますか?

(菅谷氏) 基本的なマナーとして、挨拶は重視しています。バングラデシュは人見知りの方も多いですが、挨拶はどの国でも重要です。従業員が礼儀正しく、失礼のない行動を心がけるようマネジメントしています。

また、生成AIなどの新技術を活用し、業務効率化を図ることも推進しています。これは日本に限らず、バングラデシュでも競争力を高める重要な要素となります。例えば、プレゼンテーション資料や動画制作に生成AIを活用することで、従業員の理解促進を図っています。

(西川) ありがとうございます。文化面で特に注意すべき点はありますか?

(菅谷氏) 最も重要なのは現地文化の尊重です。これは基本中の基本です。日本からの出張時などで、現地の方に対して横柄な態度をとる方がごく稀にいますが、そういった行為は慎むべきです。

(西川) その通りですね。私も様々なアジア諸国でそのような場面を目にしてきましたが、そのたびに現地の方々に対して申し訳ない気持ちになります。日本人として、この点は特に心がけるべきだと改めて認識しました。

バングラデシュで優秀な人材を獲得するために、企業が取るべき行動について伺えますか?

(菅谷氏) 人材採用のプロセスを適切に実施することが重要です。例えば、複数の面接官による360°評価なども有効です。
また、人材への投資を惜しまないことも大切です。人件費を過度に抑制しようとして優秀な人材を逃すのは本末転倒です。給与レンジを引き上げることで、応募者数と採用数、採用できる人材の質を向上させることができます。

(西川) 日本市場と同じ考え方で海外での採用を行うのは困難ですよね。成熟市場と成長市場では給与の上昇率も大きく異なり、日本の終身雇用を前提とした考え方では、成長市場での雇用の流動性に対応できません。
日系企業が自社のやり方をそのまま適用しようとすると、優秀な人材からは給与のベースや昇給率が低いため応募するメリットがないと判断されてしまいがちです。ここについては競争力の向上が必要です。

次の目標は、バングラデシュ最大の求人プラットフォーム

離職率を低下させるための効果的な取り組みはありますか?

(菅谷氏)正直なところ、 バングラデシュでは従業員を大切にできていない企業もまだ多いと感じています。個人的には、1on1面談の実施や月1回の食事会の開催などが有効だと考えています。バングラデシュではこれらにかかるコストが低いため、このような取り組みを削減すべきではないと思います。
当社の従業員は他社からオファーを受けることがありますが、ビジョンやミッション、想いの共有が強いため、定着率が高いです。

(西川) 従業員を大切にできていない企業もまだ多いということは、バングラデシュの労働基準法は、雇用者にそれほど有利ではないのでしょうか?

(菅谷氏) まだ雇用主の方が優位な状況です。代替が効かない人材が増えてくると雇用者に有利になってくると思いますが、バングラデシュはまだそのフェーズには達していません。

(西川) 今後の市場動向に関する見通しをお聞かせください。

(菅谷氏) 人材採用市場に関しては、企業規模が拡大していくため、市場規模は上昇すると予想されます。採用に投資する企業が増え、当社のような求人プラットフォーム事業者も増加するでしょう。ヘッドハンティングや採用後のHRマネジメントシステムの市場も拡大すると考えています。

個人的には、日本で流行しているダイレクトリクルーティングのような、人材紹介やヘッドハンティング分野のデジタル化に注力したいと考えています。

(西川) 最後に、貴社の今後のビジョンや目標についてお聞かせください。

(菅谷氏) まずはバングラデシュで最大の求人プラットフォームを構築することが目標です。それが達成できたら、同様の課題を抱える他の国にも展開していきたいと考えています。また、ATS(採用管理システム)領域も拡大していく予定です。

現在、求人掲載数ではバングラデシュ最大で競合の3倍の差をつけていますが、今後は登録者数をさらに増やしていきたいと考えています。多額の費用をかけるのではなく、メディアなどを効果的に活用し、マーケティングを工夫しながら拡大していく方針です。

(西川) atB-Jobsの成長が楽しみです。本日は貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございました。

対談企業情報

atB Ltd.

atB Ltd. は、採用プロセスを再定義することを目指して設立された企業です。同社はバングラデシュ最大の求人数を誇る求人プラットフォームatB-Jobsを運営しています。
atB-Jobsは、優れたテクノロジーと人間中心のアプローチを融合させ、企業と求職者双方にとって最適なマッチングを実現します。
特にデータドリブンな手法を用いることで、精度の高い採用を可能にし、企業の成長をサポートします。
また、求職者に対しては、キャリアアップを支援するための包括的なサポートを提供し、彼らが最適な職場環境で才能を発揮できるよう努めています。

https://atb-jobs.com

Social Zero株式会社

“Social Zero”は「社会的なゼロ地点」を象徴し、新しい社会的な動きや変化の始点を意味します。 数多くの海外事業立ち上げを経験したメンバーやDX Agencyで長年の経験を積んだエンジニア、デザイナー、マーケターが在籍しており、多様な文化への理解と尊重を基に、海外進出支援サービスや海外プロモーションなど世界中のビジネスと文化を繋ぐサービスを提供します。
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