日本へのインバウンド観光客が増加している今、この需要の波を持続可能な形で発展させることが、多くの観光地や地域コミュニティにとっての今後の重要な課題となっています。
その鍵を握る一つの施策として注目されているのが、FAMトリップ(Familiarization Trip)です。
本記事では、FAMトリップをはじめ多くのグローバルビジネスを手掛けてきた担当者が、FAMトリップを成功させるためにやるべき5つのことを詳しく解説します。
弊社の支援実績、成功事例は以下
FAMトリップ・メディア招聘のpickup実績は以下
Contents
FAMトリップとは
FAMトリップとは、Familiarization Trip(ファミリアライゼーション トリップ)の略で、自治体や観光地、観光施設などが観光客の誘致を目的として実施する取り組みを指します。
Familiarizationは、日本語では「習熟」や「慣れ親しませること」を意味します。 FAMトリップは、特定の国をターゲットにした観光業界関係者やメディア、インフルエンサーなどを現地に招待し、地域の魅力を実際に体験してもらった後、その情報を自国向けにSNSやブログなどで発信してもらうものです。
FAMトリップは、ファムトリップ、FAMツアー(ファムツアー)、モニターツアー、下見招待ツアー、海外メディア招聘事業など、さまざまな名称で呼ばれますが、基本的な内容はほぼ同じと考えて頂いて構いません。
詳しくは是非弊社の以下の記事をご覧ください。
それではFAMトリップ成功のためにチェックしたい5つのことについてそれぞれ見ていきましょう。
1.運営メンバー全員が「なぜFAMトリップを行うのか」を一言で言える状態か?
FAMトリップを成功させるためには、まず目的を明確にすることが不可欠です。多くの企業が「とりあえず現地を見ておこう」という曖昧な目的でFAMトリップを実施し、結果的に成果を得られないケースが少なくありません。
一般的には、KPI(重要業績評価指標)の設定が重要視されます。
しかし、弊社がそれ以上に重要なのは関係者間での共通認識だと考えています。参加者全員が同じ目的を理解し、共有していることが成功への鍵となります。
FAMトリップは近年、注目を集める施策で、国内外の自治体や企業が積極的に取り入れています。SNSなどのデジタルメディアとの相性も良く、適切に実施すれば大きな効果が期待できます。
しかしながら「観光地誘致をきっかけに実際に足を運んでもらい、地域への移住者を増やしたい」「より多くの観光客に来てもらい、観光収入を上げたい」といった目標は、必ずしもFAMトリップでなくても達成できる可能性があります。
なぜ数ある施策の中でFAMトリップでなければならないのか、FAMトリップで自分たちが成し遂げたいことは何なのか、そういった根本的な部分を運営メンバー全員で認識を合わせることが重要です。
2.フォロワー数に惑わされずにインフルエンサー・メディア選定ができているか?
FAMトリップの成功は、参加者選定の質に大きく左右されます。
起用するインフルエンサーやメディアは、ただフォロワー数が多いだけでなく、以下の要素なども考慮した選定が重要です。
- ターゲット市場での影響力と信頼性
- 過去の投稿内容やエンゲージメント率
- 自社の価値観やブランドとの適合性
- 専門分野(例:ラグジュアリー旅行、アドベンチャーツーリズム、ビジネス)との整合性
特に「自社の価値観やブランドとの適合性」については一番重要視すべきだと弊社は考えます。
自治体などの公的機関や企業など、組織としてFAMトリップを実施するとなると、どうしても認知度やフォロワー数など「意思決定者が安心できる数字」を基準に選定しがちです。しかし、このアプローチには注意が必要です。
圧倒的な人気とコアなファンを持つ国民的なインフルエンサーやメディアでない限り、単純な認知度やフォロワー数だけでは期待以上の効果を得ることは困難です。
FAMトリップにかかる費用対効果を考えると、ただ大きな数字を追いかけるアプローチは効率的とは言えません。
この点は、理解していても意思決定時にぶれやすいポイントです。すでにFAMトリップの計画が進行中の場合は、「なぜこの人・メディアでなければならないのか?」という問いに明確に答えられるかを今一度確認してみてください。
複数のメディアやインフルエンサーを同時に招聘する場合も同様です。
選定理由が曖昧だと、最悪の場合、地域や観光地のネガティブキャンペーンになりかねません。そのため、選定の根拠は必ず慎重に検討し、関係者間で共有しておきましょう。
その他、インフルエンサー起用にあたっての海外成功事例などは以下の記事をご覧ください。
3.ターゲット層に刺さるその土地でしか体験できないプログラムが組めているか?
FAMトリップを成功させるには、ターゲット層に刺さるその土地でしかできない体験を提供することが重要です。
例えば、以下のようなイメージです。
- 一般的な観光コースだけでなく、その土地ならではの独自の体験の提供
- 地域コミュニティや現地のキーパーソンとの交流機会の創出
- ただの見学だけでなく、体験型・参加型のアクティビティの組み込み
これらの内容自体は理解しやすいですが、実際にこれをどこまでやり切れるかが成功の可否を分けるでしょう。
ここで成功事例を一つお伝えします。
成功事例:福岡市のデジタルノマド誘致
福岡市では、日本の自治体では初といわれるデジタルノマド誘致に数年前から取り組んでいます。2024年に福岡市で開催された「Colive Fukuoka 2024」は、世界各国から200名以上のデジタルノマドが参加し、アジア最大級のノマドイベントとなりました。
期間中はカンファレンス、地元のスタートアップ企業との交流や日本文化体験など様々な取り組みが行われました。
上記の動画を見るとわかるように、IT関連の仕事をして収入を得ながら長期で旅をするライフスタイルを送る「デジタルノマド」の人々が好むであろう体験がしっかりと散りばめられています。
例えばPC作業からリフレッシュできる屋外でのバーベキューや、自然を楽しめるような旅行ツアーなどです。
このイベントの優れている点は、先述のポイントを全て抑えているところです。それぞれ照らし合わせてチェックしてみましょう。
- 一般的な観光コースだけでなく、その土地ならではの独自の体験の提供
- 屋台巡りなど、福岡での滞在を充実させる多くのサービスや体験が豊富に用意されていました。特にナイトライフは人気で、毎夜、多くの参加者が屋台ツアーやカラオケ、ゲームセンターを楽しみました。
- 地域コミュニティや現地のキーパーソンとの交流機会の創出
- メインカンファレンスでは30を超える国・地域からデジタルノマド市場を牽引するトップリーダー達が来日し、トークセッション等を実施しました。またデジタルノマドコミュニティ、福岡のスタートアップ、地元学生とのコラボレーションを促進するためのイベントも実施されました。
- ただの見学だけでなく、体験型・参加型のアクティビティの組み込み
- サンセットクルーズ、着物体験、禅体験、温泉体験など参加型のイベントが多く開催されました。福岡市は都会でありながらも海や山の自然が豊富でアクセスもよく、近隣の県には有名な温泉地もあります。地の利をフルに活用したアクティビティが開催されました。
このイベントの参加者の消費額は約2126万円、運営チームやボランティアなどを含めた事業全体の消費効果額は、約3300万円と推計されており、大成功を収めました。
このように、ターゲット層に刺さるその土地ならではの本物の体験を提供していくことは、FAMトリップ成功の鍵となります。
4.過去の資産を活用しユーザー体験をどう最大化するかを考えられているか?
FAMトリップの効果を最大化するためには、過去と未来をつなぐ中長期的な視点での設計が不可欠です。例えば、招聘を一回限りで終わらせず、2年連続での来訪依頼を行ったり、インフルエンサーのライフスタイルの変化(結婚、出産など)に応じた再訪プログラムを実施したり、季節ごとに異なる体験を提供したりすることが考えられます。
中長期的な視点での設計とは、「企業が作る三カ年計画のようなものを考えなければならない」という意味ではなく、「過去の資産をどのように活用し、ユーザー体験を最大化するか」という視点を持つことが大切です。三カ年計画を策定しても、初年度の結果次第で翌年度以降の予算や人員が変動するのは当然です。また、メディアやインフルエンサーの状況はコントロールできるものではないため、計画が絵に描いた餅になってしまうリスクもあります。
重要なのは、過去の資産を活用し、ユーザー体験を最大化することです。例えば、一度FAMトリップを実施した後は、YouTubeへのコメントなどユーザーのフィードバックを分析し、好評だった体験をさらに強化したり、新たな魅力を加えたりすることで、より満足度の高いプログラムへと進化させることができます。
また、過去の資産を活用することで、YouTubeの概要欄に前回の訪問動画へのリンクを掲載したり、メディアの紹介記事に過去の体験記事へのリンクを設置したりすることで、時系列での変化や進化を伝えるストーリーを作り出し、追加の宣伝効果を期待できます。
今回が初めてのFAMトリップであっても、将来的な資産化を見据えた設計は可能です。例えば季節ごとの特色を活かして複数回の訪問を想定したストーリーラインを構築したりするなどです。
FAMトリップを単発のプロモーションではなく、継続的な関係構築と段階的な魅力発信のプラットフォームとして捉えることで、一度の投資から得られる長期的な価値を最大化することができます。
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5. 何もかも詰め込んだ“押し付け型”プランに提供ならないよう配慮できているか?
FAMトリップで成果を出そうと奮闘する組織にありがちなミスは、各地域の体験してほしいアクティビティや味わってほしい名物料理などの要望を詰め込みすぎた結果、主催者側の意図が前面に出た“押し付け型”のプランになってしまうことです。
もちろん、地域の魅力を余すことなく伝えたいという気持ちは重要ですが、それが結果的にターゲットの興味やニーズとズレてしまっては本末転倒です。
例えば、毎日地元の名物としてお刺身を振る舞っていたものの、実はそのインフルエンサーやメディアの担当者が生魚を食べられなかった、あるいは、観光ツアーをふんだんに組み込んだものの、そのメディアはむしろゆったりとした時間を楽しむラグジュアリーなリトリート体験の方が適していた、というケースは少なくありません。
「せっかく準備したのに…」と主催者側としては思われるかもしれませんが、参加者の満足度が下がってしまえば、最終的な成果にも影響を与えてしまいます。
FAMトリップは、単に観光名所を案内するだけのツアーではなく、訪問者自身がその土地の雰囲気を感じ取り、自由に体験できる場であるべきです。
スケジュールを詰め込みすぎると、参加者が自分の視点でその場所を楽しむ余裕を失い、結果的に「やらされた」感が残ってしまいます。
特に、あまりにも「用意された特別体験」ばかりを提供すると、リアルな体験ではなくなってしまい、インフルエンサーのフォロワーにも不自然に映る可能性があるので注意してください。
FAMトリップは「リアルな体験の共有」が肝となるため、主催側の一方的な都合でコンテンツを押し付けるのではなく、参加者が自ら「発見」できるような設計が求められます。程よい余白を残すことで、彼らが本当に価値を感じた瞬間を発信できる環境を整えることが、最終的な成果につながります。
ポイントを押さえて、FAMトリップの効果を最大化する
FAMトリップ成功のためにチェックすべき5つのポイントについて説明しました。
FAMトリップは、ポイントを押さえて適切に運営することができれば、地域の魅力をターゲットにダイレクトに伝えることができる非常に効果的な施策となります。
是非これらのポイントを参考にしていただき、みなさまの地域が観光需要を持続可能な形で発展させていくための一助となれば幸いです。
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