グローバル化が進む現代のビジネス環境において、中小企業の海外進出は新たな成長機会となり得ます。一方で、準備不足のまま進めれば大きなリスクも伴うのが現実です。
海外進出は単なる事業拡大の手段ではありません。それは、貴社の経営理念やビジョンを世界規模で実現する機会でもあります。しかし、十分な準備なしに進出すれば、大きな損失を被る可能性もあります。
本記事では、日本の中小企業の経営者の皆様に向けて、海外進出を検討するにあたり、そもそも自社が海外進出に適しているかを判断するためのチェックリストをご紹介します。
Contents
なぜ海外進出するのか?理由が明確か
まず最初に、海外進出の目的をしっかりと定めることが大切です。単に「売上を増やしたい」という理由では、これから直面する多くの不確実な要素に対応するための動機としては少し弱いかもしれません。
海外進出のビジョン
- 大まかでも良いので、海外進出した10年後の会社の姿が描けるか
- グローバル展開によって実現したい具体的な目標は何か
進出の具体的理由
- 国内市場の飽和や縮小への対応なのか
- 海外の優秀な人材の獲得なのか
ミッション・ビジョンとの整合性
- 海外進出が会社のミッション・ビジョンにどう貢献するか
- 従業員や取引先にどのように説明できるか
経営陣の合意形成
- 海外進出のリスクと機会について全役員が理解しているか
- 長期的なコミットメントについて合意できているか
中小企業の場合、付き合いのある経営者や取引先から海外進出をおすすめされ、それをきっかけに進出検討を進める企業も少なくありません。
それ自体は良いきっかけなのですが、具体的に検討を進める前に、まずは上記の項目を明確にすることが大切です。
「売上を増やしたい」などのシンプルな理由だけでなく、上記の中長期的な将来像や、ミッション・ビジョンとの関連性を明確にしておくことで、今後の組織としての意思決定が一貫性のあるものになり、かつ意思決定のスピードも上がります。
また、社内外への説明も容易になり周りからの納得感も得られやすくなるなど、他にも様々なメリットがあります。
中小企業の場合、海外進出をオーナー経営者だけの判断で進めることもありますが、これはあまりおすすめできません。進出を成功させるためには、他の経営陣との早い段階での合意が重要です。全員が共通の理解を持ち、協力し合える状態を作ることで、より効果的にプロジェクトを進めることができます。海外進出は一人の判断ではなく、チーム全体で進めるべき重要な取り組みです。
市場・ターゲットがイメージが描けるか
海外進出を成功させるためには、ターゲット市場を明確に定義し、十分な調査を行うことが重要です。以下の項目について考えてみてください。
ターゲット市場の選定
- 進出を検討している国や地域がイメージだけでも挙げられるか
- その市場を選んだ理由が明確であるか
- 自社の製品・サービスが適合する具体的なターゲットのイメージはあるか
対象市場の将来性
- 進出候補の国や市場の人口は成長あるいは横ばいになっているか
- 現地の市場規模や成長率に伸び代はあるか
具体的に市場調査に取り組む場合、外部パートナーとの連携が一般的です。市場性に関する詳細な数値は、後から検討を進める中で明確にしていけば問題ありません。
この段階でお尋ねしたいのは、対象としている市場が「海外」というキーワードだけになってしまってはいないか?ということです。
「東南アジアの30代以上のビジネスマン」といったようなざっくりとした内容で構いませんので、このタイミングでご自身のイメージを言語化してみてください。
また、対象市場の将来性については、必ずしも成長フェーズである必要はありませんが、初めての海外進出であれば、国や市場が着実に成長していることが成功確率を高める要因となります。
経営基盤が安定しており投資の余地があるか
海外進出を検討する前に、自社の経営基盤が十分に安定しているかを確認することが重要です。以下の点をチェックしてください。
国内事業の安定性
- 過去数年の売上と利益の推移は安定しているか
- 主要顧客との取引は長期的に継続する見込みがあるか
- 国内市場でのシェアは安定または拡大傾向にあるか
財務状況
- 借入金の返済に問題はないか
- 緊急時の資金調達手段は確保されているか
海外進出のための資金
- 資金調達をする場合、方法(自己資金、融資、補助金など)のあてはあるか
海外事業は、短期的には赤字になることも多いため、国内事業からの安定した収益で支える必要があります。また、予期せぬ事態に備えて、十分な資金的余裕を持つことが重要です。
海外での事業となると、リスク管理も重要になります。例えば、日本国内だけでは考えなくても良い為替リスクなども、海外事業の場合は考慮する必要があります。また、海外事業が失敗した場合の国内事業への影響なども早い段階で検討しておくことが大切です。
おそらくこの記事を読まれているのは、本格的に海外進出を検討すべきか?とお悩みの中小企業の経営層の方々だと思います。
現時点では細かい数値を出すのではなく、まずは「経営基盤が安定しており、資金的に新しい事業に挑戦できる余裕があると胸を張って言えるか」を考えてみてください。この問いに対して明確に「イエス」と答えられるなら、検討を進めていくのは良い判断でしょう。
社内から適切な担当者をアサインできるか
海外事業を成功させるためには、適切な人材の確保と組織体制の整備が不可欠です。以下の点について検討してください。
海外事業担当の人員確保
- 海外事業を担当できる人材はいるか
- 海外事業の責任者として最適な人材はいるか
- 経営陣が協力的な体制・姿勢で取り組めるか
人材の確保と育成は時間がかかるため、早い段階から計画的に取り組む必要があります。また、すべてを自社で賄おうとせず、外部の専門家やパートナーを適切に活用することも重要です。
具体的な組織体制は追って考えるとしても、このタイミングで理解が必要なのは「最終責任をとるのは自社である」という事です。
海外進出の際、市場調査や現地法人の登記、現地企業との商談設定などの具体的な業務を外部に委託することは一般的ですが、意思決定だけは外部に移譲することができません。
海外進出が初めての試みであれば、社内体制を工夫することが大事です。
例えば、上級役職者を責任者にして迅速な意思決定が行えるようにするなどです。しかし、取締役などの上級役職者が常時関与するのは現実的には難しいため、メンバークラスの専任者を配置し、経営層の責任者とともに進めるのも効果的でしょう。
また、海外進出プロジェクトの規模感によっては、まずは外部コンサルタントやパートナー企業と、責任者が連携して二人三脚で進めるのも一案です。
よく中小企業の経営者がおっしゃるのは「社内に海外に精通した人材がいないため海外進出ができない」ということです。しかし、海外進出については、国ごとに特殊な事情があったり、専門家にしかわからないことも多いのが現状です。そのため、海外進出に精通している人材を社内から選び配置するのは、現実的ではありません。
弊社としては、海外の知見の有無よりも、自社のことをよく理解しており、初めてのことや不確実性の高い問題に果敢にチャレンジできる人材をアサインすることが何より大切だと考えています。
こうした人材であれば、外部の専門家の助言を受けながら、自社の強みを活かした海外展開戦略を立案・実行できる可能性が高まります。
現地ニーズに製品・サービスが合致しそうか
海外市場で成功するためには、自社の製品やサービスが現地のニーズに合致しているか、あるいは合致させられる余地があるかが重要です。以下の点を考えてみてください。
自社の特徴や強み
- 組織としての強み、弱みが明確であるか
- 海外進出を考えている製品・サービスの強み、弱みは何か
- その強みは海外市場でも通用しそうか
- 海外進出を考えている製品・サービスの模倣困難性はあるか
製品・サービスの現地化
- 製品・サービスの現地の嗜好に合わせた調整(味、デザインなど)は可能か
- 現地の言語対応(マニュアル、パッケージなど)は可能か
中小企業の強みは、大企業に比べて迅速かつ柔軟な対応が可能な点にあります。市場ニーズに応じて製品やサービスを柔軟に調整することで、ニッチ市場での成功率が高まります。
一方で、現行の製品やサービスをそのまま展開するという選択肢もありますが、この場合、中小企業では資金面などの関係から、ターゲット市場の選定やマーケティング戦略をより綿密に計画して動いた方が良いです。
そのため、実際どの程度現地に合わせた対応ができるのか、あるいは対応するつもりなのかについて、事前に社内で話し合っておくと良いでしょう。
時流を読み、迅速に対応することが海外進出成功のカギ
中小企業の経営者にとって、海外進出は非常に大きな意思決定です。誰しもが慎重に取り組み、着実な成功を収めたいと考えることでしょう。しかし、その成功のためには、時流を読みながら必要に応じて迅速に対応することが求められます。
特に「小規模でテスト的にまずは海外進出に取り組んでみたい」というニーズは中小企業の経営者からよくお伺いしますが、それこそスピード感を持つことが重要です。このアプローチにより、人件費や外注費を抑えやすくなり、失敗した際の痛手も軽減されます。また、うまくいった場合には先行者利益を得やすくなります。
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