商談に対する姿勢や進め方等、海外企業と日本企業では様々な商習慣や文化の違いがある為、事前の国際ビジネスマナーや商習慣の違いの理解と準備をする事で海外での商談がより良い成果に繋がることが期待できます。どの様な準備をして商談をすすめるべきか、海外事業や商談を経験している筆者が解説します。
商談に対するスタンスの違い
まず初めに、日本企業と海外企業では商談のスタンスが根本的に違います。
日本では海外進出を検討する際に、デスクリサーチか初めて、現地出張を行い現地の企業から色々な情報をヒアリングして情報収集を行う事が多いと思います。
その為、日系企業と海外企業との商談に対するスタンスには以下のような違いがあります。
- 日系企業
- 商談=情報収集
- 海外企業
- 商談=クロージング
その為、現地での企業訪問を行い情報収集をしたいだけの日系企業担当者は決裁権を持たずに商談に臨む事が多い一方で、海外企業は自社にわざわざ日本から商談に来てくれた出張者には決裁権がある担当者と認識している為、相手は経営メンバーを同席させてくれたり当然ながら具体例なプロジェクトや料金、契約関連、スタート時期について話を進めてくるでしょう。
その際に、多くの日系企業の担当者は具体例な話に及ぶと”一旦、日本の本社にて検討します。”、”確認して後日連絡します。”というような回答に留まる事が多いですが、これではなかなかいい商談とはならずに次に繋がりにくい結果となってしまいます。
したがって、基本的には商談の場は具体例なプロジェクトや条件面、契約周りの話まで最低限はできるように準備は行い、たとえその場でクロージングまでは難しくとも相手に取引の意思がある事を示す目的で決裁権を持って臨むか、もしくはあくまで情報収集の段階であれば企業訪問の際に、事前にその旨を伝えて期待値調整を行ったうえでアポイントを取り訪問をする事を推奨致します。
商談への事前準備
実際に現地訪問をして商談をする前に、現地商談がより良い成果に繋がる為に些細な事や気遣いをするだけでも相手の印象は変わります。その点は日本人の強みでもあるので、事前に出来る事はしておきましょう。
まずは握手から
海外では始めましての挨拶の場面で、まずは相手の目をしっかり見て握手を交わす事から始めます。この際に、日本での名刺交換時のような社名やポジションの説明はいらないので、ご自身のニックネームや呼びやすい名前を相手に伝えて笑顔で握手を交わす程度で十分です。例文として、”Nice to meet you. I am Jone.” / Please call me Kate.”のようなカジュアルな挨拶で構いません。
手土産を持っていくと喜ばれる
この文化は日本でも同様ですが、出発前に空港の免税店等で訪問を受け入れてくれた企業への心遣いとして手土産を持参すると喜ばれますし、日本のおもてなしの心を海外でも見せれる良い機会となり、また日本のお土産話でアイスブレークに入るきっかけにも繋がります。
アイスブレークをしよう
すぐに会社紹介等に入るのではなく、海外でも具体的な商談に入る前にアイスブレークは一般的です。場を和ませるためにも、簡単にアイスブレークはした方が良いでしょう。例えば、初めて訪れた国の印象や現地の食事がおいしかった話、日本の時事ニュース等で冒頭で互いに少しでも笑顔が見れる話をすると良い雰囲気で商談に入れますし、海外企業であれば相手からアイスブレークの話題を持ち掛けてくれることも多いです。
TPOに合わせた服装
訪問企業がシステムオフショア開発等のIT系なのか、政府系なのか、製造業なのかでも変わりますが、東南アジアの用な熱帯気候で訪問先がIT系企業であればあまり堅苦しいスーツで行くより、オフィスカジュアルな服装で訪問する方が望ましく、相手にも堅苦しい印象を与えない事もマナーの1つといえます。
商談で心がける事
実際に現地訪問をして商談をする際には、まず初めに簡単に自己紹介や会社紹介を 行うと思いますが、会社紹介資料や自社のサービス資料の構成は日系企業向けと海外企業向けでは構成等に気を付けるポイントがいくつかありあます
名刺交換はあまり気負わずカジュアルに
名刺を丁寧に扱うのは日本以外では一般的ではなく、カジュアルに商談前後に担当者同士で交換する程度が海外では一般的となります。日本のように上席の者から両手を添えて、お辞儀して丁寧にひとり一人と名刺を交換する文化は日本独自のものですので、相手が片手で名刺をカジュアルに受け取る事は海外では一般的となり、あくまで連絡先が乗った紙程度の認識でいる事を事前に認識しておきましょう。
会社紹介は簡潔に資料1ページ程度で十分
よくあるパターンとして、自社の会社の沿革やミッション、ビジョンや想い等を長々と話してしまう事で、相手の企業担当者が冒頭から興味を無くしてしまう事があります。これを防ぐために会社紹介は、概要やサービス等の主要情報のみ簡潔伝え、何ができる会社なのかを簡潔に明確に提示してから具体例な商談アジェンダに入る事が望ましい。
訪問企業に何を求めているのかを明確に伝える
例えば、システムのオフショア開発のパートナーを探しているのであれば、どの様なスキルセットのエンジニアが、いつから何名必要なのか、また予算等を含めて相手に何を求めているのかを明確に伝えましょう。
その他、海外進出に伴う現地法人の登記をパートナー等の現地企業に依頼する場合は、法人形態、業態、スケジュール等の基本事項や相手企業が法務や現地政府機関とのコミュニケーションを含めどこまで対応できるのか等のヒアリングを細かく行う事も重要です。例えば、海外に進出したいと言っても現地法人なのか駐在員事務所なのか支店なのか、また事業に関連するライセンスの取得や弁護士や行政書士のような役割りも必要となり、その辺の対応可否を事前にすり合わせて置く事で後々のトラブルを防ぐことにもつながります。
相手のメリットを明確に伝える
商談は互いのメリットがある前提となりますので、自社の目的以外にも相手企業にとってどのようなメリットがあるかを具体的に提示する事が必要となります。
例えば、システム開発プロジェクトで相手企業とのオフショア開発をスタートして、初期は小さくとも中長期的に大きなプロジェクトを担える事が想定出来れば、相手も条件面で交渉に応じてくれたり、柔軟な対応をしてくれる事もあるので、単体のプロジェクトだけに留まらず互いに長期的パートナーとして考えている姿勢等が相手企業にも伝わるような話をするとよいでしょう。
5W1H(いつ、どこで、だれが、何を、なぜ、どのように)を明確に
例として、システムのオフショア開発をパートナーと進めたい場合は、プロジェクトのスケジュール、両社の実施場所役、各担当者、両社の明確な役割り分担、なぜそうするのか、どの様に進めるのか、相手へ期待する事を事前に明確にする事で、互いの役割りと責任の範疇をクリアにして進める事で何か些細なトラブルがあってもその辺が明確であれば対応がスムーズになります。
一方で、日本の文化として”言わずもがな”なコミュニケーションをする事は最も避けるべき事です。抽象的な表現で物事を進めると後々のトラブルでも責任の範疇が曖昧で、プロジェクトが上手く進まなくなってしまうことが在ります。
プレゼン資料は極力ビジュアルで見せて文字は最小限に
海外での商談時に用いるプレゼン資料は、極力1ページあたりの文字はすくなくしてフローやサービス等はビジュアルで見せる事を心がけると文化背景の違う商談相手にも伝わりやすくなります。また構成についても、相手のメリットや商談相手が知りたい情報を先に伝える様に戦略的に構成を考えるとよいでしょう。
自社サービスや製品等の現地での価格や詳細は日本で決めておく
良くある日系企業の海外での商談の失敗事例として、現地の海外企業があなたの会社のサービスや製品に興味を示していても、商談の場で販売価格や導入方法、ロジスティクス等が何も決まっていなく、即答できずに商談が流れてしまい、チャンスを逃してしまう例が非常に多いです。
これではせっかく海外まで出張して商談に臨んでも成果に繋がらず、商談相手からしても何しに日本から商談に来たのか分からなくなってしまいます。
最低限のマナーとしても、自社サービスや製品の価格や諸条件は事前に決めておきましょう。
表現は明確に、YES / NOをハッキリと伝える
この言葉の表現が日本人が海外で最も苦労するポイントの1つだと思います。
特に日本文化は”言わぬが花”、”秘すれば花”というような言葉があるように、物事をはっきりと伝えずに相手に察してもらう事を前提としてコミュニケーションを取りますが、これは海外ではまず通用しません。
日本だと、その場で直接的にお断りをしたりすると相手に失礼という気遣いの文化があり、後日のお断りや、やはり出来ないというようなビジネス上のコミュニケーションを取る事が多いですが、海外ではこれをする方が相手に失礼にあたり、コミュニケーションエラーの原因となってしまいます。
例えば、海外企業との商談において相手が何かを提案してきた際に、受け入れるのは難しいと思っているのに、相手の気分を害さないようにOK/Interesting/Sounds goodと言うような表現と後は愛想笑いで乗り切る。というような事は絶対に避けるべきで、これは相手からするとYES=合意という意味に受け取られがちです。YES / NOやCan / Can’tという明確な言葉で伝えてコミュニケーションを取りましょう。
これは商談のみならず、海外で現地法人を設立して事業がスタートした後の従業員とのコミュニケーションでも同様です。
日系企業の場合は海外進出をする際に、日本からの駐在員がマネジメントのポジションに就任する事が多いですが、現地の外国籍の従業員があなたに何かを聞いてきたり、承認を得ようと質問をしてきた時には、必ずYES / NOの返答をした上で、補足説明をするようにして下さい。
ここを日本人特有の抽象的で曖昧なコミュニケーションで、”言わなくても分かるでしょ”という前提でコミュニケーションを取ると、あなたの意思に反した行動を取られてしまったりしても、相手からすると曖昧な表現で誤解を与えられたにもかかわらずなぜ自分が理不尽に責められるのか、と不満が生まれ信頼関係の構築にも影響を及ぼします。
逆に明確な意思を示すコミュニケーションに慣れると、海外での仕事での環境に留まらずに、プライベートでもコミュニケーションが楽に感じることでしょう。また、人間関係もよりスムーズに意思疎通が出来ると感じる事もあると思います。
期待値調整は事前に行う
まず日本とグローバルスタンダードでは、品質やスケジュールに対するスタンダードが違います。
(品質面)
- 日本
- 最初から完璧な品質がスタンダード
- 海外
- 最初は50%位の出来で徐々に改善するがスタンダード
(スケジュール面)
- 日本
- 全てがスケジュール通りがスタンダード
- 海外
- スケジュールはあくまで目安がスタンダード
これらの違いはシステム開発のオフショア開発においても良くあるケースで、発注側の日系企業が期待する品質のアウトプットが来ないという事はがよくあり、製造業で現地のOEMで製品を製造してもらう際にも初版で期待した品質で出来上がることは非常に稀となります。
このような事が起こる原因として品質のスタンダードや意識等の文化が根本的に違う為であり、必ずしもスキルや能力が低いという理由だけではなく、期待値調整やコミュニケーションが起因で起こる事が多いです。
その為、相手に何を期待していて、品質の基準を事前に明確に伝える事で事前の目線合わせを行う事でスタンダードのギャップが埋めやすくなります。
また、スケジュール管理においてもスケジュール遅延による影響やスケジュールを守ることの重要性を事前に伝えたうえで必要なバッファを設けてスケジュール管理をする必要があります。
海外では先進国であれど日本とは違い公共交通機関が時間通りに来ることは少なく、またオフショア開発やOEM委託国に於いてはまだまだインフラが脆弱である事が多く、作業をする環境がそもそも日本ほどは整っていない事もあり、作業者がコントロールできない部分での原因がある事もある為、最初は期待値は低くして中長期的な両社の相互理解に基づく成長を見越した付き合いをする事が重要となります。
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