【2024年】中小企業の海外進出のメリット。実際の支援担当者が解説

現在、日本企業の海外進出が一層加速しています。2023年から2024年にかけても、トヨタ自動車やパナソニックの海外工場設立や、ユニクロや資生堂、楽天グループの海外販路拡大など、名だたる企業が積極的に海外に進出しました。メディアではこうした大手企業の事例が多く報じられていますが、実は中小企業にとっても海外進出は、今後の成長を支える重要な戦略の一つとして注目を集めています。

本記事では、2024年における中小企業の海外進出のメリットについて、東南アジアをはじめ多くの国々で日系企業の海外展開を支援してきた経験者が、具体的な事例を交えながら解説していきます。

日本の中小企業が海外進出を検討すべき理由

日本の中小企業が海外進出を検討すべき理由について述べます。

背景にある日本の人口縮小と少子高齢化

日本の中小企業が海外進出を検討すべき理由として大きく挙げられるのが、日本国内における人口減少と高齢化です。総務省の統計によれば、2024年の日本の人口は約1億2300万人に減少し、そのうち65歳以上の高齢者が全体の29%を占めると予測されています。

このような人口動態の変化は、中小企業に以下のような影響を与えます。

地方の市場縮小

日本の人口動態の変化は、消費者層の縮小を招き、多くの産業分野で国内需要の減退をもたらすことが懸念されています。

特に地方都市や農村部では、人口減少がより進んでいます。人口減少はその分その地域での市場がシュリンクすると考えられるため、地域に根付いた中小企業にとってこの問題は深刻です。

労働力不足

地方市場の縮小は、売上減少だけでなく労働力不足にも深刻な影響を与えています

少子高齢化に伴う労働力不足はますます深刻化しており、2024年版「中小企業白書」によると、中小企業の約47%が最も優先度が高い経営課題として「人材確保の難しさ」を挙げています。

人材の売り手市場が進む中、知名度や待遇面で優位に立つ大手企業との競争は、中小企業にとって非常に厳しい状況です。この労働力不足の問題は、企業の生産性だけでなく、事業の持続性にも大きな影響を与えています。

2024年版中小企業白書>第2部 環境変化に対応する中小企業> 第1章 人への投資と省力化> 第1節 人材の確保

国内需要の質的変化

高齢化に伴い、消費パターンが変化しています。医療・介護関連サービスの需要が増加する一方で、若年層向けの商品やサービスの市場は縮小傾向にあります。高齢者をターゲットにした市場は新たなビジネスチャンスとも言えますが、自社の主要サービスが若年層向けである場合、これは大きなリスクとなる可能性があります。

このような状況下で、中小企業が持続的な成長を実現するためには、国内市場だけに依存することはリスクが高まっています。海外市場への展開は、国内市場の縮小リスクを分散し、新たな成長機会を見出すための重要な戦略となっています。

中小企業が海外進出するメリット

このように、日本人口縮小と少子高齢化による様々な中小企業への影響を踏まえると、海外進出はマイナスをゼロにするために必要、という比較的消去法的な選択に思えます。
しかし、海外進出は、実際にはそれ以上に様々なメリットがあります。よく挙げられるメリットについて説明していきます。

販路拡大による売上増加

海外進出の最大のメリットは、新たな市場へのアクセスによる販路拡大です。特に、人口減少と高齢化が進む日本に比べ、新興国市場は大きな成長ポテンシャルを秘めています。

中小企業庁による「今後の中小企業経営への提言及び中小企業政策の方向性」 (令和6年9月)の中でも以下のように中小企業の販路拡大の重要性について触れられています。 

中小企業が今後増加する国外需要の取り込みに積極的に挑戦することは、「稼ぐ力」の向上に資するものであり重要。昨今の円安基調により企業規模を問わず輸出や海外展開に挑戦する機会が拡大している中で、スケールアップを志向する中小企業や優れた技術を有する中小企業にとっては、輸出や海外展開を通じて成長する世界経済の需要を取り込み、売上や企業規模を拡大するチャンスである。

中小企業庁>今後の中小企業経営への提言及び中小企業政策の方向性

さらに、中小企業は高付加価値でありながら少量の製品やサービスを提供することができるため、ユーザーの多様なニーズにきめ細かに対応できるという強みがあります。これは、量産型のビジネスモデルに依存する大企業には難しい、中小企業ならではの競争優位性です。

特に、既存製品を現地市場に合わせて改良し、ユーザーの心に響くニッチな商品を提供することで、着実にシェアを拡大していくことが可能です。このような柔軟性は、中小企業が海外市場で成功を収めるための大きな武器となります。

日本企業の技術力と品質管理の国際的評価

日本国内でさえ自社があまり知られていない状況下で、海外への販路拡大を考えることは、多くの経営者にとって高いハードルに感じられるでしょう。しかし、現代において海外進出は、むしろ日本の中小企業にとって大きなチャンスと言えます。

たとえば、世界的な市場調査会社イプソスが発表した2023年度の国家ブランド指数(NBI)では、日本が初めて首位を獲得しました。この調査では、文化や国民性、観光、移住・投資に加え、輸出やガバナンスといった指標で評価がされます。これは、「Made in Japan」の高品質イメージが、世界中で信頼されていることを示す指標とも考えられることができ、日本の中小企業にとっても有益なデータです。

実際に、和包丁を製造する日本の伝統的な中小企業が欧米市場に進出し、高級包丁ブランドとして成功を収めた例もあります。このように、日本の製品は高い品質を武器に、グローバルなニッチ市場でブランド認知度を高めることができるのです。

海外進出は決して消極的な選択肢ではありません。むしろ、攻めの経営戦略として、海外市場において日本企業の強みを最大限に活用することで、さらなる成長機会を見出すことが可能です。

海外進出先として、より注目高まる東南アジア

人口や経済の両面で成長フェーズに入っている国が多い東南アジアは、日系企業が海外での販路拡大を検討する際の重要な候補地域です。
国ごとに市場の特徴が異なるため、自社の製品やサービスに最適な市場を慎重に選定する必要があります。

例えば、ベトナムでは中間層や富裕層が急速に拡大しており、日本製品への需要が高まっています。特に、食品や生活用品の分野で注目が集まっており、2024年3月にJETROが公表したベトナムにおける食品関連市場の報告によると、まだ市場規模は大きくないものの、日本食品が「高品質で健康的」といった点でベトナム国内で関心を引いていることが言及されています。

ベトナムにおける食品関連市場(市場概況・規制編)

また、インドネシアではEコマース市場が急成長しており、オンライン販売を通じた市場参入が日本の中小企業にとっても大きなチャンスとなっています。
現地の消費者の多様なニーズに応じた商品展開や、オンラインプラットフォームを活用したプロモーション戦略は、現地市場での成功の鍵となり得ます。

原材料費の削減によるコストダウン

海外進出により、人件費や原材料費のコストを最適化することが可能です。特に、製造業では労働集約的な工程を人件費の安い国に移転することで、大幅なコスト削減を実現することができます。このような海外進出は、コスト削減だけでなく、競争力の向上にもつながるため、多くの企業にとって魅力的な選択肢となっています。

ニュースでは依然として大手企業の海外進出が目立っていますが、実際には中小企業でも海外進出を検討する動きが着実に増加しています。

人件費

以下の図は、2023年度の製造業の給与水準について、アジア各国と日本を比較したものです。

※以下のURLをもとに作成
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2024/37977922f57e157a.html
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2023/dl/05.pdf

こちらの図は、JETROが2024年4月に発表したアジアの製造業の給与水準に関する記事から2023年のデータを参照しています。
比較に用いる日本の人件費は、厚生労働省が実施した「令和5年賃金構造基本統計調査」における製造業の平均月給306,000円を基にし、1ドル=150円で換算しています。

このように、アジアの製造業における平均月給は日本に比べて大幅に低く、円安などの課題があるものの、中小企業が人件費を削減するために海外進出を検討する強い動機となるでしょう。

原材料費

現地調達により、製品の原材料費を抑えることが可能です。現地でよりコストパフォーマンスの高い原材料を選び調達することはもちろん、これまでと同じ原材料でも、輸送コストの削減や為替リスクの軽減が実現できるため、原材料費を削減することができます。

物流コスト

原材料や製品の輸送において、物流コストを下げることが可能です。さらに、RCEPやASEANなどの自由貿易協定(FTA)を活用することで、域内での関税削減や物流の効率化が図れます。例えば、タイに生産拠点を置き、ASEAN域内に製品を供給することで、物流コストの大幅な削減に成功した中小企業の事例があります

RCEPとは

ASEANに比べてRCEPはまだあまり馴染みのない言葉かもしれません。RCEP(アールセップ)とは、Regional Comprehensive Economic Partnershipの略で、2020年11月15日に署名された地域的な包括的経済連携協定を指す自由貿易協定(FTA)です。現在、以下の15ヵ国が加盟しています。

ASEANのFTAパートナー5ヵ国
日本
中国
韓国
オーストラリア
ニュージーランド

ASEAN(東南アジア諸国連合)の10ヵ国
ベトナム
ブルネイ
カンボジア
インドネシア
ラオス
マレーシア
ミャンマー
フィリピン
シンガポール
タイ

RCEPでは、農林水産品や工業製品に対する関税の減免に加えて、輸出入手続きの簡素化やサービス、投資に関するルールなど、さまざまな分野において包括的な規定が設けられています。これにより、加盟国間での貿易の効率化が促進され、経済的な連携が強化されることを目指しています。

まずは海外進出が自社にとって最善かどうかを考える

海外市場への展開は、国内市場の縮小と少子高齢化の影響を受ける日本の中小企業にとって重要な選択肢です。市場調査や戦略立案を通じて、自社の強みを活かせる市場を見つけることや、投資によるコスト削減の可能性を考えることが必要です。

当社では、多くの企業の海外進出実績のあるコンサルタントが、貴社の海外進出をサポートします。まずは、初回無料カウンセリングを通じて、貴社がまず何をすべきかという、次のステップを共に整理しましょう。是非お気軽にお問い合わせください。

気に入ったらシェアをお願いします