海外進出に失敗する企業の特徴: 15年間の経験から見えた7つの共通点

グローバル化が加速する現代において、海外進出は多くの企業にとって成長戦略の重要な選択肢となっています。しかし、海外で成功を収めている企業の多くがそれまでに数々の苦労や険しい道のりを乗り越えた上で成功を掴んでいます。また、その成功事例の裏では、海外進出で苦戦し撤退を余儀なくされる企業も多くあります。これまで15年以上にわたり、複数の成長市場で中小企業の海外進出支援を現地で行ってきた経験から、今回は海外進出に失敗する企業の共通点を分析し、成功への道を阻む落とし穴を明らかにします。

MTG風景

現地調査不足と机上戦略の偏重:机上の空論では成功しない

多くの失敗企業に共通するのは、まず海外進出を検討した初期段階での徹底した市場調査を怠り、机上の空論に基づいた戦略を立てている点です。市場規模や成長率といった数値データ(デスクリサーチ)は重要ですが、それだけでは不十分です。平均給与水準はデスクリサーチで調べられますが、それが本当に魅力的な人材を採用できる水準でしょうか?オフィス物件の条件が良くても、従業員にとって働きやすい環境とは限りませんし、品質が良いからと言って消費者は価格の安いローカルメーカーの商品より高い日本製品を購入するとは限りません。

成功企業は、デスクリサーチに加え、現地調査を重視します。現地に赴き、消費者の購買行動を観察したり、時には直接対話し、競合製品・サービスを分析、売り場の状況や、現地の労働環境などを肌で感じ取ります。 特に、過去10年間の東南アジアにおける日韓企業の動向を比較すると、その差は歴然としています。韓国企業は、日本人よりも徹底した市場調査と戦略的なマーケティングを行い、着実に市場を構築しています。一方、多くの日本企業は、仮説に基づいたプロダクトアウト型の戦略を取りがちで、市場の反応が悪かった場合の改善策に乏しい傾向があります。これは、日本特有の失敗を避けようとする文化や、失敗を振り返る習慣の不足が影響していると考えられます。

徹底した市場調査とは、現地の消費者、競合企業、労働者と直接対話を行い、ニーズや競合状況、購買行動、労働環境などを詳細に把握することです。さらに、法規制、税制、文化、経済状況なども精査する必要があります。

消費者のイメージとブランド力の現状:品質だけでは勝負できない

特に消費財において、日本製品は「高品質だが高価格」というイメージが定着しています。一方、中国製品は「安価だが低品質」、韓国製品は「価格と品質のバランスが良い」というイメージが形成されています。東南アジアでは、経済成長に伴い可処分所得が増加しており、消費者は中国製品から韓国製品へとシフトしつつあります。将来的には、可処分所得の更なる増加によって日本製品の需要も拡大すると考えられますが、現状では韓国製品の高品質化が進み、日本製品の高品質なイメージに匹敵する勢いを見せているのが現状です。特にコスメ製品では、K-POPや韓国ドラマの影響もあり、韓国ブランドが圧倒的な人気を誇り、若年層だけでなく、年配層にも浸透しつつあります。

改善策の不足と失敗からの学習不足:PDCAサイクルの欠如

仮説検証のプロセスを丁寧に踏まず、「とりあえず出してみよう」という安易な意思決定をする傾向は、改善策の不足と失敗からの学習不足に繋がります。日本企業の中には、失敗を恐れるあまり、迅速な改善や修正を怠るケースが見られます。市場の反応が悪くても、原因究明や対策を十分に行わず、そのままだらだらと同じサービスを継続し、最終的に撤退してしまうケースも少なくありません。

成功企業は、スピーディーにPDCAサイクルを徹底的に回し、継続的な改善を繰り返します。市場のフィードバックを常に収集し、分析し、戦略を修正していきます。これらは、海外拠点をコストセンターとしてもプロフイットセンターとしても同じく必要なサイクルです。失敗を恐れず、積極的に挑戦し、失敗から学び、次のステップに活かしていく姿勢が重要です。

コミュニケーション

文化・言語の壁の軽視:異文化コミュニケーションの失敗

日本企業は、しばしば文化・言語の壁を軽視しがちです。しかし、異文化コミュニケーションの失敗は、海外進出の大きな障害となります。言葉の壁だけでなく、ビジネス慣習、価値観、コミュニケーションスタイルの違いなど、様々な点で誤解が生じやすく、関係悪化やビジネスチャンスの損失につながることがあります。

成功企業は、異文化コミュニケーション研修を実施したり、日本本社側に現地の人材を採用したり、両国のエクスチェンジプログラム等で両国の従業員を日本と海外拠点に行き来することで、文化・言語を理解し相互理解を促進し、コミュニケーションエラーの解消に努めます。これらは、同時に両国の従業員のモチベーションアップにも大きく寄与します。また、日本人特有のハイコンテクストなコミュニケーション(文脈や状況を重視するコミュニケーション。いわゆる“空気を読む”等)とローコンテクストなコミュニケーション(言葉そのものを重視するストレートなコミュニケーション)の違いを理解し、適切なコミュニケーションを心がける必要があり、俗人化しないように社内でのコミュニケーションや依頼方法のマニュアル作成も役立ちます。

コミュニケーションは相手が理解して初めて成り立ちます。この点は日本企業や日本人が海外で言語の壁以上に苦労するポイントとなります。このコミュニケーションエラーの解消は海外進出において、多くの企業が気づいていない非常に重要な成功要因の一つとなり、成果、品質、従業員のモチベーション、定着率に大きく影響します。特に、この点は定量的に示しにくいため、日本本社側の理解を得ることが難しく、多くの駐在員や企業が現地従業員とのコミュニケーションに課題を抱えています。

コミュニケーションの課題について考える

法規制への不備とコンプライアンス意識の低さ:法律を無視してはいけない

海外進出においては、現地の法規制を遵守することが不可欠です。税制、労働法、環境規制、知的財産権保護など、あらゆる法規制について専門家のアドバイスを受け、法令遵守を徹底しなければなりません。コンプライアンス違反は、多額の罰金や営業停止、さらには企業イメージの悪化につながる可能性があります。

成功企業は、進出前に現地の法律専門家と相談し、法規制に関するアドバイスを受け、法令遵守体制を構築します。また、コンプライアンス研修を実施し、従業員のコンプライアンス意識を高めます。

日系資本の企業は海外市場では外資系企業となりますが、一般的に海外市場では外資系企業の取り締まりはローカル企業より厳しく対処される事が多く、特に人事に関する事での労働関連の訴訟は気を付ける必要があります。よく起こるケースとして、問題がある現地法人の従業員を解雇するとなった際に、その従業員が現地の労働・雇用を監督する機関に訴えを起こすケースがあります。この場合には、外資系企業は不利な状況になるケースが多く、事前に弁護士に相談をした上で必要なエビデンスを残し、適切なフローで慎重に進める必要があります。

グローバルコミュニケーション

人材戦略の甘さと異文化マネジメントの未熟さ:人材は最も重要な資産

海外進出の成功は、優秀な人材の確保と育成にかかっていると言っても過言ではありません。しかし、多くの失敗企業は、人材戦略の甘さや異文化マネジメントの未熟さにより、人材確保や育成に失敗してるケースが多く見られます。

成功企業は、現地人材の採用と育成に力を入れます。適切な給与水準や福利厚生を提供し、キャリアパスを示すことで、優秀な人材の定着を図ります。また、異文化マネジメント研修を実施し、従業員の異文化コミュニケーション能力を高めます。

近年の東南アジア諸国での事例として、ASEANの先進国であるタイでは現在、現地の日本企業が採用と人材の定着に非常に苦労しており、シンガポールでも以前から同様の事例が見られます。

これらは、日本企業の終身雇用や年功序列を基にした給与設計や昇進システムをそのまま海外市場でも適用している事で、ハイパフォーマーとローパフォーマーの給与差が無い事や、成果を出す見返りが少なく、他の外資系企業と比較すると待遇面で魅力が無い為に、成長意欲が高い優秀な人材はそもそもそのような企業に就職したがらない為です。

また日本企業のマネジメントスタイルも同様に敬遠される傾向があります。細かなルールに沿って業務を行わなければならず、成果を出す前に様々なハードルがあり、モチベーションの低下に繋がる要因も多い為です。

また、意思決定スピードも同様に、日本企業の意思決定スピードの遅さは世界的に敬遠されがちです。社内の新しいチャレンジや取り組みを現地の従業員が提案しても、その確認や承認プロセスに膨大なフローやコミュニケーションが発生し、その間にチャレンジ精神や成長意欲の高い人材はそれらを実現できる環境がある企業へ移ってしまいます。

特に成長が速い東南アジア諸国では、より成長機会があり、より早くチャンスを得てキャリアアップを目指します。同企業で何十年も勤務して徐々に昇進していくという日本企業特有の文化は既に東南アジア諸国でも受け入れられる文化では無くなってきています。

考えるビジネスマン

柔軟性と適応力の欠如:変化に対応できない企業は生き残れない

海外市場は、国内市場と比べて変化が激しく、競争が激しいため、変化に柔軟に対応できる能力が求められます。特に東南アジア諸国のような経済成長スピードの速い国々は、特に変化へのスピーディーな対応が求められます。しかし、多くの失敗企業は、変化に対応できず、市場から淘汰されてしまいます。

成功企業は、市場環境の変化を常に監視し、迅速に対応できる体制を構築します。市場調査を定期的に実施し、顧客ニーズの変化を把握します。また、競合の動向を分析し、自社の戦略を修正します。必要に応じて、事業計画を変更したり、新しい製品やサービスを開発したりします。

例として、オフショア開発拠点を海外に設立した際に、現地法人の従業員エンジニアがトレンドの技術を取り入れたいと提案してきた際に、“日本ではこうだから”と言う理由で従来の手法や技術での開発を維持し毎回このような現場の提案を実現できないでいると、最新技術のキャッチアップ意欲のあるエンジニアはモチベーションをそがれてしまいます。このようなケースでは単に先端技術の取り入れ機会の損失だけでなく、従業員のモチベーションや新しいことにチャレンジをする企業の姿勢が無いという印象を与える事にも繋がります。

また、採用面においてもトレンドの福利厚生を導入する事で採用優位性が生まれたり、従業員のモチベーション向上や生産性にも寄与します。このように、サービスや製品の動向や市場トレンドをキャッチアップするだけでなく、人事・労務面での変化への対応も必要となります。

グローバル人材のMTG

経営陣のコミットメント不足と短期的な視点:長期的な視点が必要

海外進出は、長期的な視点で取り組む必要があります。しかしながら、初めて海外進出をする企業では、経営陣のコミットメント不足や短期的な視点により、失敗に陥るケースも少なくありません。

特に、“出せばなんとなる”出たとこ勝負な海外進出をする企業は大半は失敗に終わり、適切な振り返りをする事も出来ずに市場から淘汰されていきます。

海外拠点をコストセンターとして生産拠点を設立した企業の例ととて、人件費・開発コスト・生産コストの削減ばかりに目が行き、適切な人材への投資を怠って目先の利益に注目して事業計画を立てると、生産性が上がらずに結果的にコストが上がり、本来の目的の達成から遠ざかる事にもなりかねません。

現在、海外市場で成功している日本企業は、適切な進出フローを踏み、中長期的な視点での事業成長を目指して今の成功があります。成功の裏には膨大な努力と多くのトライ&エラー、着実な成長ステップを乗り越えて現在の姿が見えています。目先の利益ばかりに目が行き、重要なプロセスを省いて事業を進めると、必ずどこかに歪が生まれそこから崩れていく要因となります。

成功企業は、共通項として経営陣が海外進出に強いコミットメントを示し、長期的な視点で事業に取り組んでいます。十分な時間と資源を投資し、目先の利益に捕らわれずに着実に事業を拡大していきます。

MTG風景

意思決定スピードと精度の低さ:迅速かつ的確な判断が求められる

海外市場では、変化のスピードが非常に速く、迅速かつ的確な意思決定が求められます。しかし、海外進出で失敗する企業の多くは、意思決定プロセスが遅く、また不正確・不透明なため、商機を逃したり、大きな機会損失をするケースもあります。

成功企業は、意思決定プロセスを効率化し、迅速かつ的確な意思決定を行います。現地法人に決裁権を持たせ、情報収集・分析体制を整備し、必要な情報をタイムリーに収集・分析します。また、迅速な意思決定を行える体制構築のために現地の従業員にも適宜権限委譲を進め、現場の判断を尊重することで、迅速な対応を可能にしています。

これらは意思決定スピードや精度を上げるだけでなく、現地のマネジメント層の育成やモチベーション等にも影響を与えます。海外拠点を拡大している企業の特徴として、本社を意思決定に極力挟まない体制を構築し海外拠点全体の意思決定を行うフローを構築しています。

現地で起こる事は、物理的に遠く離れた日本本社では判断が難しく、正確な意思決定が出来ない上に時間もかかると事業へのネガティブな影響は避けられません。これらを考慮し、早期の意思決定フローの構築も海外進出をする企業には重要な要素となります。

まとめ

海外進出は、容易ではありません。成功するためには、綿密な準備と柔軟な対応、そして迅速な意思決定が不可欠です。現地調査を徹底し、文化・言語の壁を乗り越え、法規制を遵守し、優秀な人材を確保し、変化に柔軟に対応し、リスクを管理する必要があります。そして何よりも重要なのは、経営陣の強いコミットメントと長期的な視点です。

これらの点を踏まえ、慎重な計画と準備、そして現地の実情に合わせた柔軟な対応、迅速な意思決定によって、海外進出の成功を目指しましょう。  そして、失敗から学び、継続的に改善していく姿勢が重要です。

当社では、海外進出の初期構想段階からのコンサルティングやコストシミュレーション、詳細な事業計画作成、現地法人運営や事業拡大等さまざまなフェーズでの海外進出の支援を行っています。共に伴走できる海外進出のパートナーが必要な企業様は、是非お問い合わせください。

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