ベトナム進出成功の鍵 — 人材の採用・定着・給与・文化・福利厚生の実務ガイド

ベトナム進出成功の鍵 — 人材の採用・定着・給与・文化・福利厚生

2025年の最新事情を踏まえ、ベトナム進出で欠かせない人材採用・定着・給与設計・文化対応・福利厚生の実務ポイントを分かりやすく解説。リスク対策と現地マネジメントの成功事例も紹介。

 2025年現在、ベトナム進出している日系企業は約2,500社に及ぶとされていますが、チャイナリスク、第2の製造拠点、豊富な労働人材の確保、成長する消費市場等の様々な観点からベトナム進出をする企業が増えてきています。

日本企業がベトナム進出を行い現地での事業を成功させる上で、優秀なベトナム人の人材確保は非常に重要な要素となります。

特に海外に拠点を構えて経営をする際には、日本ではあまり起こりえないトラブルや不測の事態が発生することがよくあります。また、両国の文化や商習慣の違いを正確に理解し、現地従業員により活躍してもらうためにはローカライズしたマネジメント力が必要となりますが、多くの企業はこの時点で課題をかかえるケースが多く、結果的に現地従業員に適切に指示が伝わらない、認識齟齬が多い、人材の定着に課題が多く、離職率が高い等の経営上の課題に繋がります。

ベトナム進出前にこれらの事を想定し対策しておくことで、ベトナム進出後の経営上のリスクを少しでも減らし、事業成功に近づく為の要素として、またリスク等を可視化しておくことで、実際にベトナム進出後にトラブルが起こった際の臨機応変な対応やトラブル自体を未然に防ぐことにつながります。

当社がこれまでベトナムを含め、4か国5拠点で異なる事業での現地法人の立ち上げから経営、事業拡大までを行ってきた経験から、現地人材の採用・定着・給与・文化・福利厚生・コミュニケーション等の観点からベトナム進出の成功の鍵となる要素を解説していきます。

本記事をご覧になって少しでもお役に立てれば幸いです。

ベトナム人材実務

1. ベトナム人材の特徴

世代とスキルセットの傾向(若年層・デジタルスキル)

  • 世代構成(若年層の多さ)

独立行政法人労働政策研究・研修機構の情報によると、ベトナムの15歳以上の労働人口は2022年時点で5,548万人に及び、平均年齢31歳と若年層の豊富な労働力が魅力の市場となります。

  • 教育水準(理工系・英語力の傾向)

ITオフショア開発でも有名なベトナムでは、比較的高給が見込めるITエンジニア職が人気で、国としてもIT人材の育成に注力しています。特に首都のハノイ工科大学は理系の有名大学で多くのITエンジニアを輩出しており、日系ソフトウェア開発企業等と共同でのカリキュラムの提供や、海外でも活躍できる人材の輩出をしています。

また、若年層では特に外国語教育も注力され、日本語人材は約17万人とインドネシアやタイに次いで多い水準となります。さらに昨今の外資系企業の参入に伴い、英語学習者も多く、筆者が初めてビジネスでベトナムと関わり始めた11年前と比較しても大都市圏を中心に英語話者は圧倒的に増えてきております。

労働観・価値観(会社への忠誠心、昇進志向)

  • 労働意欲とキャリア志向

ベトナム人は他の東南アジア諸国人材と比較しても真面目な人材が多く、日本人と近しい労働観を持っている傾向にはありますが、他の東南アジア諸国と同様に家族を大切にする傾向もあり、日本のようなサービス残業や休日出勤を強いる事は、雇用維持のや労働基準法の観点からも推奨されません。

また、20代後半になるとキャリアをより意識した働き方や転職を考える傾向があり、これは日本とも近しい部分となりますが、より早い成長と昇進、昇給の為にパフォーマンスが高い人材はよりその環境を得られる職場に転職をしてキャリアアップを図る傾向にあります。

前提として、日本の様に終身雇用前提で同じ組織内で年功序列で出世していくイメージは世界的に見ても日本のみと言っても過言ではありません。

優秀な人材ほど、より成長欲が高い為、最適な環境を求めて転職によるキャリアアップを図る事が一般的となりますが、キャリア形成を意識した雇用形態や環境を提供する欧米系企業等はより優秀な人材の確保がしやすい傾向にあります。

  • 勤勉さと起業志向の二面性

日々成長を遂げるベトナムでは、若いうちから起業を目指す人材も多く、チャレンジ精神が高く新しい事に積極的に取り組む意識の人材も多い事も特徴として挙げられます。企業で雇用をする場合でも昨今では日本でも多くなった副業も、ベトナムでは副業禁止という概念が一般的ではない為、多くの会社員も個人の時間で副業をしていたり、起業の準備を進めている人材もおります。

特にITエンジニアなどは、常に新たな技術やスキルを身に着けたいという意識が高く、同じスキルセットで成長が見込めない単純な作業タスクを割り振るだけだと定着に結びつかないケースも多いと言えます。

コミュニケーションの特徴(間接表現・対面重視)

  • ローカル文化の影響(上下関係・顔を立てる文化)

ベトナムでは上下関係は日本と同様に尊重されるものの、職場の環境はオープンな意見が通りやすいような環境が好まれます。

  • コンテクストの違い (ローコンテクスト・ハイコンテクスト)

これはベトナムに限らずとも、日本企業が海外進出を行う際に最も重要視すべき事と言えます。

以下の図は、当社で作成したカルチャーマップとなりますが、欧米圏を中心にローコンテクストなコミュニケーションが一般的となり、日本やベトナムを含むアジア圏はよりハイコンテクストなコミュニケーションを取る傾向が強く、このギャップが多いほど業務上のコミュニケーションでも認識齟齬が生まれやすく、指示が通らない、マネジメントが上手くいかない等の課題を持つ企業が非常に多くなります。

当社でご支援に入る企業でも、課題の原因を分析すると大半の場合はこのカルチャーギャップによるコミュニケーションエラーが原因である事が非常に多く、現地法人を運営する上で人材の定着や優秀な人材の確保の観点からも必ず意識をしてコミュニケーションをとる必要があります。

ベトナムにおいても、以下の図上ですと日本と近しい位置にいますが、様々な文化背景から実際にはこの間にもコンテクストの違いは多く存在し、日本特有の曖昧な表現(空気を読む・言わずもがな)を取る事は絶対に避けるべきコミュニケーションとなります。特に業務上では、明確かつ簡潔な依頼や指示を行い、相手の理解度を確認しながら徐徐に互いの認識齟齬を埋めていく関係性の構築やコミュニケーション方法を見出していくと、より生産性の高いチームに成長していく事が可能になります。

コミュニケーションの特徴

2.ベトナムの雇用環境と法制度の基本

労働契約と試用期間の運用

  • 雇用契約の種類

ベトナムでは、雇用期間の定めがない無期限労働契約(一般的な正社員)と契約期間が36か月以内の有期労働契約の2種類が存在します。有期労働契約は36か月を過ぎると無期限雇用契約に切り替える必要がある点が留意点となります。

  • 試用期間

試用期間は業務により2種類あり、一般的には30日以内、高度な技術を要する場合には60日以内とされています。

  • 就業時間・残業

ベトナムでは8時出勤の会社が多く、所定週労働時間は48時間と定められており、休憩時間は1日8時間の勤務もしくは連続6時間の勤務に就き30分以上、深夜勤務の場合は45分以上の休憩が必要となります。一般的にはお昼に1時間、午前と午後に各自で休憩時間を設ける等の会社が多くなります。

残業は1日4時間までで、1年間に200時間以内と定められています。また、週に36時間を超える時間外労働は原則禁止となります。

  • 時間外労働は、通常賃金の150%
  • 休日出勤は、通常賃金の200%
  • 法定休日・有給休暇の時間外労働は通常賃金の300%
  • 有給・法定休暇

ベトナムでは12か月以上勤務した者に、年次有給休暇が12日付与されます。それ以降は、勤続5年毎に1日ずつ増加します。

また、法定休暇は年に8日間となります。ベトナムは祝日が少なく、日本の半分ほどしかありません。

  • 解雇ルール

労使双方が労働契約を終了させる合意した場合、その合意に基づき労働契約は終了します。

労働者が重大な違反を犯した場合、法令に則った懲戒手続を踏むことにより、懲戒解雇処分が認められる場合があります(労働法第125条)*ただし、ベトナムでは労働者側が日本より守られる傾向が強く、採用期間内で見極めて継続雇用をしない方法を取る事が一般的となります。

企業側からは、法律上定められた一定の事由(無断欠勤の連続や業務評価基準に達しない場合など)が認められる場合に限り、一方的に契約を解除することができます(労働法第36条)。

  • 社会保険

ベトナムで就業する外国人も含め、ベトナムで働く従業員は社会保険への加入義務があり、医療保険や年金保険、労災保険、失業保険があります。

3.ベトナムの給与相場と報酬設計、福利厚生

給与相場

  • 業種別

ベトナムに進出する日本企業では、約半数を占める製造業、小売・卸、金融・保険、不動産業、サービス業等がありますが、安価な労働力を求める傾向がある製造業は比較的給与相場は低い傾向にあります。一方で、金融・保険、IT業等は給与が高い傾向があり、昨今日本を含む外資の進出が多い
IT系のオフショア開発等では、ITエンジニアの給与水準は非常に高騰しており、一昔前の安い労働力のエンジニアを確保して、安いオフショア開発のビジネスモデルは崩壊しつつあります。

  • 職種別

ベトナムでは、高度な技術力を有する人材と、マネジメント人材の不足が課題となっており、ベトナム進出する企業の中でも現地経営を将来的にはベトナム人に任せたい意向の企業も多く、マネジメント人材の採用と育成は重要な経営課題となります。

  • ITエンジニア
    • ジュニアレベル:300USD~500USD/月
    • ミドルレベル:600USD~1,500USD/月
    • ハイレベル:2,000USD~4,000USD/月
  • 接客業(飲食店や店舗事業)
    • スタッフ:1USD~2USD/時給
    • 店舗マネージャー:400USD~800USD/月
  • 製造業(工場)
    • 一般作業員:200USD~350USD/月
    • リーダー:500USD~1,000USD/月
    • マネージャー:1,200USD~2,500USD/月

福利厚生

  • トレンド

ベトナムでは従業員の雇用維持やモチベーションの向上に、福利厚生の充実は非常に重要な役割を持ちます。以下に一般的な福利厚生の代表的な項目を記載します。

  • 社員旅行(年に1回の旧正月テトに実施)
  • 社員パーティー
  • 健康診断
  • 教育・育成プログラム
  • 従業員の家族イベントの手当

特にテトの社員旅行はベトナム人にとって年に1回の一大イベントとなります。この際には全従業員が国内旅行に出かけて、様々なイベントを行って交流を図り、従業員の結束やモチベーションを上げる為に、企業側は適切な投資と捉える事が重要となります。

上記でも記載した通り、祝日の少ないベトナムでは何かのイベントを行うと従業員は喜んでくれるため、些細な事でも社内でイベントをも要したり、手当の支給を行う事が人材の定着と優秀な人材の雇用機会に寄与します。


いかがでしょうか。ベトナム進出では、日本国内とは異なるさまざまなハードルがありますが、適切にベトナムのルールを理解し、リスクヘッジを行いながら事業を育てる姿勢があれば、確実な成長につながります。当社では、海外進出の初期相談からスポットでの顧問やコンサルティング、現地での事業立ち上げ支援、さらには事業拡大のための海外マーケティングまで、多くの実績を活かして貴社の海外進出をトータルサポートいたします。

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