2022年度のipos調査結果によると、ベトナム全土には338,600店舗ものカフェが存在すると言われています。2021年の全日本コーヒー協会の発表では、日本のカフェの店舗数は58,669店舗であり、つまりベトナムには日本の約6倍のカフェがあるという試算になります。
2021年の日本の人口は約1億2,500万人、対する2022年のベトナムの人口は約9,950万人です。この人口比からも、ベトナムがいかに多くのカフェを有しているかが伺えます。
ここでは、ベトナムの文化となっているカフェの収支について、現地在住でローカルカフェによく通う筆者が分析しました。
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ベトナムのコーヒーの歴史
ベトナムのコーヒーはフランス統治時代に持ち込まれ、全土に広まりました。19世紀にフランスの植民地であった時期に、宣教師がキリスト教の布教と共にコーヒーを持ち込んだとされています。現在でもベトナムにはフランス植民地時代の建築物が多く、ホーチミン市の観光名所で最も有名なサイゴン大聖堂もその時代に建築されました。
当時は、現在のようなおしゃれなモダンカフェではなく、細い路地に椅子だけが置かれたカフェが主流でした。このため、現代においても細い路地裏に小さなイスとテーブルだけのローカルカフェが多く存在するのは、当時の名残とされています。また、ベトナムはコーヒーが育つのに適した土壌を持ち、コーヒーの生産量は世界で第2位となっています。
ベトナムにおけるカフェの役割
ベトナムのカフェは、コーヒーを楽しむ場であるだけでなく、社交の場やビジネスシーンでも重要な役割を果たしています。
ベトナムのコーヒーは、日本のようにドリップされたものがすぐに提供されるのではなく、ローカルカフェでは特有の抽出方法で提供されます。まず席に着いてからコーヒーが提供され、抽出が終わるまで約5分間じっくりと待つ必要があります。また、ベトナムのカフェではコーヒーを注文すると、チャーダーと呼ばれる蓮の葉のお茶がセットで付いてくるのが一般的です。このように、じっくりと時間をかけて1杯のコーヒーを味わいながら、コミュニティ内でさまざまなコミュニケーションが生まれています。
朝や夕方には近隣のビジネスパーソンがローカルカフェで打ち合わせをしながらゆっくりとコーヒーを楽しみ、午後には近所の老人が集まるコミュニティの場となります。そして、夕方以降は学生たちが集まり、友人とのおしゃべりを楽しむ場としての役割を果たしています。
このように、ベトナムのカフェ文化は、日本を含む先進国とは異なり、より時間をかけてコーヒーを楽しみながら、さまざまな世代でのコミュニケーションを促進する、ベトナム特有の社交の場としての伝統を持っていると言えます。
極小スペースで営むオシャレなローカルカフェ”ANH/アン”
狭さが隠れ家のようなオシャレな空間を演出しています。ホーチミン最大の日本人街であるレタントンエリアの路地裏を進むと、素通りしてしまいそうな建物の合間に佇むカフェを見つけました。興味本位で中を覗いていると、奥から店主が出てきて「ここはカフェですよ」と声をかけてくれました。
人がギリギリすれ違えるほどのスペースには、長細い通路に8席ほどの椅子が並んでおり、若い店主が座るように促してメニューを出してくれました。私が日本人だと気づくと、さまざまなお店の紹介や自身の話をしてくれました。「元々は不動産会社で働いていたけど、今はゆっくりリラックスしたいと思ってここでカフェを始めたんだ」と教えてくれました。
現在、ベトナムの不動産市場は完全にバブルの様相で、近年さまざまな大きな問題が業界内で起きています。ホーチミンの中心部などでは商業向け不動産の賃料が高騰し、いくつもの外資系大手が移転を余儀なくされています。その影響で立地の良い高額物件は空室が目立つようになりつつありますが、不動産を所有するオーナーは元々富裕層で、賃貸収入を得ずとも成り立つため、値下げをしない傾向があります。その結果、比較的安価な物件に需要が流れ、より空き物件が減少しています。
近年は、ベトナム特有の細長い建物を古いまま活用した、モダンなレストランやバー、カフェが流行しています。一見古く薄暗いアパートの中にオシャレなバーがあったり、モダンとトラディションを融合させた空間づくりが人気を集めています。この点は、日本の都市部では近代的な建築物が多いため、我々日本人にとってとてもオシャレな印象を受けます。
立地と面積から凡その賃料を分析してみる
このエリアはホーチミン市1区の日本人街であるレタントンの一角という好立地ですが、細い路地にはあまり飲食店がなく、人通りも少ない上に、大通りからは中の様子をうかがい知ることはできません。同エリアの大通りに面した店舗用の賃料相場は、1㎡あたり30USDから50USDですが、このオシャレな極小カフェの立地条件を考慮すると、1㎡あたりの賃料はおそらく約10USDと推測できます。また、カフェの面積は約10㎡であるため、毎月の賃料は約100USDとなると推測しました。現在の為替レートで円換算すると、約15,700円です。
次に、メニューの価格から客単価を割り出してみましょう。
ベトナムカフェの客単価を算出してみる
コーヒー系のメニューの平均価格
- Mサイズ商品: 約30,000ドン(約185円)
- Lサイズ商品: 約40,000ドン(約247円)
ティー系のメニューの平均価格
- 約33,000ドン(約204円)
全商品の平均価格は約212円と算出されました。
ベトナムカフェの月次の客数を算出してみる
次に、客数と営業日数から月次の客数を割り出します。
オーナーに1日あたりの客数と営業日数を聞いてみたところ、以下の回答が得られました。
金曜日以外の平日では客数は約50人、金曜日は約90人。
営業日は平日のみで、土日祝日は休業。
以上の情報から、営業日数は月に約20日間となり、1日平均客数は58名と計算されます。
最後に月商を割り出してみる
1商品あたりの平均価格は約212円、そして1日平均客数は58名。
したがって、1日あたりの売上は12,296円と算出されます。これを基に月商を計算すると、245,920円となりました。
店主がどの程度の給与を取っているかは不明ですが、固定費やその他の経費を考慮して利益を導き出してみます。
- 月商: 245,920円
- 家賃: 15,700円
- 光熱費: 4,000円
- 飲料容器: 23,200円 (1個:20円 × 1,160個)
- コーヒー豆やミルク等: 34,800円 (1杯:30円 × 1,160杯)
これらの経費を合計すると、店主の人件費を含めない月次の想定利益は168,220円となります。
これはあくまで試算ですが、固定費が低く、これだけ集客ができていれば、かなりの優良店であると言えるでしょう。
実際には、この店主は不動産会社で働いていたため、実際の賃料はローカルの繋がりを活かしてもっと安く借りている可能性があります。しかし、路地裏の超低コストの固定費でローカルカフェを運営している場合、集客ができれば利益率は高くなります。
さらに、こちらのカフェではSNSを通じて集客を行っており、Grab(日本のUberEatsのようなサービス)での配達も行っています。また、出店コストについても内装費用は高くても10万円もかからないだろうと推測できます。このため、ローカルのスモールビジネスとして非常にユニークな優良店であると言えるでしょう。実際に、この店主は別のカフェの開店準備を進めているそうです。
日本企業のような外資系企業がベトナムに進出する際、基本的にはローカルのスモールビジネス規模で事業計画を立てることは少ないと思います。しかし、このカフェのようなローカルのスモールビジネスを分析してみると、多くの参考になる点があります。筆者自身もベトナムのローカルカフェが好きで、日々通う立場としてこの情報は価値があります。
また、別のベトナムでのローカルビジネスの例として、以前筆者がベトナムの現地法人の事業再生に携わっていた際、働いていたベトナム人のアシスタントは、その会社での給与が約10万円でした。
しかし、彼女は個人で洋服をデザインし、OEMでベトナムで現地生産した商品をFacebookで個人販売するECビジネスを行っており、驚くことに月商で100万円ほどの売上を上げていました。その後、EC販売を継続しながら実店舗を4店舗開店し、事業拡大を図りましたが、結果的に家賃や固定費の高さから利益が出ず、店舗事業を撤退しEC販売のみに切り替えました。
昨今のベトナムの不動産市場を考慮すると、進出する際には家賃などの固定費を抑える工夫が重要であることに改めて気づかされます。特に、損益分岐点を下げることはキャッシュフローの観点からも重要な取り組みです。
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