【2024年最新】ベトナム市場調査のポイント – 調査設計から実践まで

はじめに

ベトナム市場の最新動向と特徴

ベトナムは東南アジアの中で最も魅力的な市場の1つとして注目を集めています。1億人規模の人口を有し、2045年にかけて急速な経済発展が維持されると見込まれています。特筆すべきは中間層の急速な拡大です。World Data Labの調査によると、ベトナムでは2024年にはさらに400万人が中流階級に加わり、2030年には2,320万人が増えると予想されています。

また、ベトナムの一人あたりGDPは4,200ドルを上回る見込みです(JETRO)。これは消費者の購買行動に大きな変化をもたらす重要な転換点とされています。

デジタル化による市場変化

デジタル化の進展は、ベトナム市場に大きな変革をもたらしています。We Are Socialの2023年のレポートによると:

  • インターネットユーザーは約7,800万人(人口の約79.1%)
  • アクティブなソーシャルメディアユーザーは約7,000万人
  • スマートフォン利用者は人口の約75.8%
  • インターネット利用時間は1日平均約6.5時間

特にEコマースの成長は目覚ましく、オンラインショッピングの普及率は98%に達しています。

なぜ今ベトナム市場調査が重要か

ベトナム市場に進出する上で、適切な市場調査は不可欠です。その理由として3つの重要な要因があります:

  1. 急速な環境変化への対応 ベトナムは市場環境の変化が非常に早く、法規定や制度も頻繁に改正されます。インターネットで得られる情報は必ずしも最新のものとは限らず、現地の実態を正確に把握する必要があります。
  2. 独自の消費者嗜好 ベトナム消費者の嗜好は日本とは大きく異なり、都市部と農村部での発展の差も顕著です。市場調査を通じて、ターゲット層のニーズを正確に把握することが重要です。
  3. 社内承認プロセスの基盤 市場調査のデータは、ベトナム事業の重要な意思決定や社内承認手続きの基盤となります。客観的なデータに基づく戦略立案と意思決定が求められます。

以上の要因から、ベトナム市場への参入や事業拡大を検討する企業にとって、適切な市場調査の実施は極めて重要な課題となっています。

ベトナム市場調査の基礎

市場調査

市場調査の必要性と目的

ベトナム市場調査は、市場環境とリスクを明確にし、具体的なアクションプランを描くために実施します。単なる情報収集ではなく、以下の具体的な経営判断に活用することが重要です。

市場調査は特に市場の不確実性が高いベトナムでは重要な役割を果たします。例えば、ベトナムの地方政府が公表する統計データは更新されていないケースも多く、実地調査なしでは正確な市場把握が困難です。また、消費者の嗜好も地域によって大きく異なり、全国一律のアプローチは適切ではありません。

調査の種類と特徴

マーケットリサーチ(市場環境調査) 業界の全体像を把握する基礎的な調査です。デスクトップ調査で仮説を構築し、ヒアリング調査で深掘りするアプローチが一般的です。市場規模、トレンド、競合状況などを包括的に調査します。

消費者調査 ターゲット層の具体的な理解を目的とします。ベトナムの消費者調査では、以下の手法が活用されています。

  • 定量調査:数値データとして分析(オンライン、電話、会場調査等)
  • 定性調査:深い洞察を得るための調査(インタビュー、グループディスカッション等)
  • 店頭調査:実際の購買行動の観察

企業調査(競合調査) ベトナム企業の信頼性確認や競合分析を行います。上場企業以外の情報入手が困難なため、現地に強いネットワークを持つ調査会社の活用が推奨されます。

費用・期間の目安

調査費用は案件の規模や内容によって大きく異なりますが、一般的な目安は以下の通りです:

  • 基本的な市場調査:数百万円
  • 詳細な消費者調査を含む包括的調査:1,000万円以上
  • 個別調査項目:10〜20万円から

期間:

  • デスクトップ調査:2〜4週間
  • 消費者調査:4〜8週間
  • 包括的な市場調査:2〜3ヶ月

法規制と許認可の確認ポイント

外資による市場調査実施にあたっては、以下の規制への対応が必要です:

投資法における規制 2021年施行の新投資法では、外国投資家は特定の事業分野を除いて国内投資家と同等の市場参入条件を得ることができます。ただし、59の制限分野と25の禁止分野があり、事前確認が必要です。

調査実施時の規制 調査会社を通じて実施する場合は、以下の点に注意が必要です:

  • 個人情報保護に関する規制への対応
  • 調査対象者からの同意取得
  • 調査結果の取り扱いに関する制限

なお、これらの規制は頻繁に改定されるため、実施時点での最新の法規制を確認することが重要です。

効果的な調査設計の進め方

調査目的の設定

市場調査の成否は明確な目的設定にかかっています。目的設定では「なぜ」「何を」「どのように」という3つの視点から具体化することが重要です。具体的な目的を設定することで、必要な調査項目が明確になり、効率的な調査実施が可能となります。例えば消費財市場への参入を検討する場合、「ベトナムの中間所得層における商品の受容性を確認し、適切な価格帯と販売チャネルを特定する」といった形で具体化します。

調査項目の選定

ベトナム市場では、市場規模・トレンド分析、消費者分析、法規制・参入障壁の3つの観点が特に重要です。市場規模については定量的な規模推計と成長予測、地域別の市場特性を把握します。消費者分析では年齢層や所得水準による嗜好の違い、地域による商習慣の差異を明らかにします。法規制については外資規制の有無や必要なライセンス、地方政府との関係性を確認する必要があります。

調査手法の選択

効果的な調査には複数の手法を組み合わせることが重要です。一般的にはデスクリサーチ、ヒアリング調査、実地調査を組み合わせて実施します。デスクリサーチでは政府統計や業界レポート、企業情報を収集し、ヒアリング調査では業界キーパーソンや流通関係者、消費者の声を集めます。実地調査では店舗視察や商品調査、価格調査を行います。これらの手法をバランスよく組み合わせることで、より正確な市場理解が可能となります。

調査範囲・サンプル数の決定

調査の範囲とサンプル数は、調査の目的や予算に応じて適切に設定する必要があります。全国調査が必要な場合もあれば、特定の都市に絞った調査で十分な場合もあります。定量調査の場合、統計的な信頼性を確保するために必要なサンプル数を確保することが重要です。一方、定性調査では少数のサンプルでも深い洞察が得られる場合があります。

オンライン・オフライン調査の使い分け

ベトナムではインターネット普及率が高く、オンライン調査が有効な手段となっています。特に都市部の若年層やデジタル製品・サービス、トレンド調査に適しています。一方で、地方部の消費者や高齢者層、伝統的な商習慣、流通構造の実態把握にはオフライン調査が必要です。両者を適切に組み合わせることで、より包括的な市場理解が可能となります。

特に注意が必要なのは、オンライン調査だけでは把握できない現地の商習慣や人間関係の機微です。実地でのヒアリングや観察を組み合わせることで、より正確な市場理解が可能となります。また、調査手法の選択には、対象とする製品・サービスの特性や、ターゲット層のデジタルリテラシーも考慮する必要があります。

ベトナム市場調査会社の選び方

取引先との握手

信頼できる調査会社の条件

市場調査会社の選定は、調査の質と結果に直結する重要な判断となります。信頼できる調査会社の条件として現地でのネットワークの深さが最も重要な要素となります。特にベトナムでは、トップダウンで物事が決まることが多く、経営者層とのコネクションを持つ調査会社でなければ、質の高い情報収集は困難です。また、ベトナムの商習慣や文化的背景を理解し、適切なコミュニケーションができる現地スタッフの存在も不可欠です。

主要な調査会社の比較

ベトナムの市場調査業界は、大きく3つのカテゴリーに分類されます。

グローバル調査会社

世界的な調査会社の現地法人です。高い調査品質と豊富な実績を持ちますが、費用は比較的高額です。多国間での比較調査や大規模プロジェクトに強みがあります。

ローカル大手調査会社

ベトナム国内で多くの実績を持つ地場の調査会社です。現地ネットワークが強く、中規模案件での費用対効果が高いとされています。特に消費者調査や流通調査に強みを持ちます。

専門特化型調査会社

特定の業界や調査手法に特化した調査会社です。専門性の高い調査や小規模案件に適していますが、包括的な市場調査には不向きな場合があります。

選定時のチェックポイント

市場調査会社を選定する際は、以下の観点から総合的に評価することが重要です。

実績と専門性

対象とする業界での調査実績、特に日系企業向けの支援実績を確認します。また、調査責任者の経験や専門性も重要な判断材料となります。

調査体制の充実度

調査担当者の質と数、地方都市でのネットワーク、データ分析能力などを確認します。特に地方都市での調査が必要な場合は、現地での調査体制の充実度が重要となります。

コミュニケーション能力

日本語での報告や資料作成が可能か、緊急時の対応体制が整っているかなど、プロジェクト管理面での能力も重要です。

見積り依頼時の注意点

見積り依頼の際は、調査の目的と期待する成果物を明確に伝えることが重要です。見積り金額の差は主に以下の要因によって生じます

調査スコープの違い

同じ調査項目でも、調査会社によって想定する調査範囲や深度が異なることがあります。特に定性調査のサンプル数や、ヒアリング対象の質に大きな差が出やすいため、具体的な調査スコープを明確にする必要があります。

調査手法の違い

オンライン調査とオフライン調査、デスクリサーチとヒアリング調査など、調査手法の組み合わせによって費用は大きく変動します。見積り時には調査手法の詳細を確認し、期待する調査品質との整合性を確認することが重要です。

成果物の違い

報告書の言語(日本語・英語・ベトナム語)、報告形式(文書・プレゼンテーション)、分析の深度などによって費用は変動します。必要な成果物を事前に明確化することで、適切な見積り比較が可能となります。

調査項目別のポイント

市場環境調査のポイント

ベトナムの市場環境調査においては、統計データの扱いに特に慎重な姿勢が求められます。市場規模の推計では、単一のデータソースに頼ることなく、複数の手法を組み合わせることが不可欠です。政府統計、業界団体データ、主要企業の売上データを突き合わせ、さらに専門家へのヒアリングで検証するといった複合的なアプローチが効果的です。特に新興市場や非公開データが多い分野では、現地の業界関係者からの情報収集が重要な役割を果たします。

競合分析の方法

ベトナムの競合分析では、企業の所有形態に注目することが肝要です。国営企業は政府との関係が強く、規制産業での影響力が大きいものの、意思決定の遅さが特徴です。外資系企業は技術力や資金力で優位性を持つ一方、規制や許認可の影響を受けやすい傾向にあります。地場民間企業は機動力があり市場変化への対応が早いものの、財務基盤が弱い企業も存在します。

競合情報の収集では、各社の公開情報に加え、取引先や元従業員へのヒアリング、製品・サービスの実地調査を組み合わせることが有効です。特に価格戦略や販売チャネル戦略については、実地調査による検証が不可欠となります。

消費者調査の実施方法

ベトナムの消費者調査において最も重要なのは、地域特性と所得層の違いを適切に考慮することです。ハノイとホーチミンでは消費者の嗜好が大きく異なり、同じ都市内でも所得層による違いが顕著に表れます。調査設計においては、購買意思決定プロセスの理解と情報収集行動の把握が重要です。価格感度や品質への要求水準は、所得層や年齢層によって大きく異なり、特に中間層の台頭により、プレミアム製品への需要が急速に高まっている点に注目が必要です。

流通調査のコツ

ベトナムの流通構造は、近代的な流通チャネルと伝統的な流通チャネルが混在する特徴を持ちます。特に地方都市では伝統的な流通チャネルの影響力が依然として強く保たれています。流通調査では、各チャネルの取扱商品、価格帯、顧客層、成長性について詳細な調査が必要です。特に最近は、Eコマースの急成長により、オンラインとオフラインの融合が進んでいることにも注意を払う必要があります。

マージン率、支払条件、返品規定、販促支援などの取引条件は、チャネルによって大きく異なります。特に大手小売チェーンとの取引では、様々な協賛金や販促費用が要求されることが一般的です。これらの取引条件の実態を把握することは、市場参入戦略を立案する上で重要な要素となります。また、流通業者との関係構築においては、現地の商習慣や文化的背景への理解も欠かせません。

典型的な失敗事例

失敗事例

場調査における失敗の多くは、ベトナム市場特有の性質を理解していないことに起因します。

過度なデスクリサーチへの依存

インターネット上の情報や既存レポートのみに頼った調査は、現実との大きなギャップを生みます。特にベトナムでは、公式統計と実態が大きく異なることが多く、現地での一次情報収集が不可欠です。

文化的な誤解による判断ミス

例えば、アンケート調査において、ベトナム人は目上の人や知らない人に対して否定的な回答を避ける傾向があります。そのため、単純な質問票調査では実態を正確に把握できないケースが多発する可能性があります。

不適切なサンプリング

都市部の高所得層のみを対象とした調査結果を、全国に一般化してしまうような誤りなど

このような偏ったサンプリングが原因で、市場規模を実態の2倍以上に見積もってしまうようなケースなども発生する可能性があります。

事前に防ぐべきリスク

法規制関連のリスク 調査実施にあたっては、個人情報保護法や統計法など、関連する法規制の確認が必要です。特に外資系企業による調査では、許認可の要否を事前に確認することが重要です。

データの信頼性リスク

情報提供者の信頼性確認や、複数のソースによるクロスチェックが必要です。特に価格情報や市場シェアなどの定量データは、必ず複数の情報源で検証することが推奨されます。

コミュニケーションリスク

言語の違いによる誤解を防ぐため、調査設計段階での入念な確認が必要です。特にアンケートの設問文や選択肢は、現地スタッフによるダブルチェックが推奨されます。

トラブル発生時の対応

調査中のトラブルに対しては、以下のような対応が推奨されています。

データの信頼性に疑義が生じた場合

  • 直ちに追加検証を実施
  • 必要に応じて代替データソースの確保
  • クライアントへの速やかな報告と対応策の提案

調査協力者とのトラブル

  • 現地の商習慣や文化的背景を考慮した対応
  • 必要に応じて現地パートナーを介した調整
  • 代替の調査対象の確保

また、予期せぬ環境変化への対応 も重要です。コロナ禍のような予期せぬ事態が発生した場合は、調査手法の柔軟な変更が必要になります。例えば、対面調査からオンライン調査への切り替えや、サンプル数の見直しなどが考えられます。

調査会社とのトラブルも契約書での役割分担や成果物の明確化、マイルストーンの設定など、事前の取り決めを詳細に行うことで、多くのトラブルを防ぐことができます。また、重要な局面では必ず書面での確認を行いましょう。

最後に

SocialZeroでは過去13年間にわたり、10か国以上でのプロジェクト管理、海外現地法人の立ち上げ、多国籍チームの組織作りとマネジメント、外国籍スタッフの採用及びトレーニング、海外事業の再生、日系企業の海外進出を責任者として担当した経験のあるコンサルタントが在籍しています。海外市場調査についても各国に最適化した対応が可能です。海外進出を見据えた市場調査も可能ですので、ぜひご相談ください。

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