【中小企業向け】小売業の海外進出にあたって考えるべき5つの事

小売業は海外展開が難しい業態だと言われ続けてきました。
しかし近年、日本国内市場の成熟化や少子高齢化の加速による事業環境の変化に直面する一方で、アジア諸国における中間層の拡大やデジタル技術の発展による参入障壁の低下など、新たな事業機会も生まれています。
こうした状況を背景に、海外展開を検討する企業も増加傾向にあり、その流れは中小規模の小売企業にも広がっています。

本記事では、海外展開を検討している中小規模の小売事業者に向けて、検討すべき5つの重要なポイントを解説します。

中小小売業が海外進出検討にあたって考えるべき点

この記事を読んでいる方々は、今後本格的に自社が海外進出をすべきかどうかを検討したいと考えている中小規模の小売業企業の経営層や経営企画、社長室の方々ではないかと思います。

海外展開は大きなビジネスチャンスを提供しますが、慎重な計画が必要です。来期の方針策定など、海外展開の是非についてざっくばらんに話し合うタイミングがあれば、ぜひ以下の5つのポイントについて議論してみてください。

1. 自社に最適な海外進出の方法は何か?

ビジネスにおいて、適切な時期に的確な投資を行うことは非常に重要です。しかし、必要性や優先順位を見極めずに投資を行うと、どれだけ資金があっても足りなくなります。特に海外でのビジネスが軌道に乗るまでは、投資を抑えたいと考える中小規模事業者も多いでしょう。

小売業では、海外進出を段階的に進めることでリスクを最小限に抑えることが可能です。

例えば、実店舗の海外出店をしたいと考えている場合でも、まずはECなどのデジタルチャネルでテストマーケティングを行う、代理店を通じて販売を試みる、展示会に出展するなど、リスクの低い方法を通じて現地の嗜好や文化を理解した上で、本格的な実店舗の設立に進むことも選択肢の一つです。

また、企業の海外進出は、信頼できる支援パートナー企業を見つけ、適切なサポートを得ることも重要です。

「自社に最適な進出方法は何か?」この問いは、パートナー企業やコンサルタントと共に検討することも可能ですが、現地で実店舗をすぐに開設したいのか、まずは国境を越えてオンラインで商品を販売する越境ECから始める形でも良いのか、といったようなイメージをまずは自社で描いてみることをお勧めします。
これにより、自社に最適なパートナー企業の選定にもつながります。

2. スピード感を持って取り組める社内状況か?

中小企業の強みの一つは、迅速な意思決定が可能なことです。大手企業にはないこの機動力は、海外展開において大きなアドバンテージとなり得ます。

中小企業庁が令和6年に発表した「今後の中小企業経営への提言及び中小企業政策の方向性」においても、中小企業・小規模事業者に期待される役割について次のように述べられています。

中小企業・小規模事業者は、所有と経営の一致という特性により、迅速な意思決定ができることから、ニーズに対応した戦略転換が容易であること、また、長期を見据えた企業行動が可能であることから、需要を供給に結びつける投資・イノベーションの担い手となる。

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/soukai/040/dl/001.pdf

資本力では大手に勝てなくとも、スピードを持って動くことで、大手よりも早く市場を確実に抑えることができるのは、海外進出に関しても同様です。

特に、海外進出支援会社やコンサルタントは、業務をサポートすることはできますが、意思決定そのものには介入できません。
海外進出にあたって、自社が全体的にスピード感を持って意思決定できるかどうか、自社のスピード感を妨げる決定的な障壁や要因がないかをまず考えてみてください。

例えば、本業が正念場で数カ月間意思決定ができず、動きが止まるような状況になると、機会損失に直結する可能性があります。3カ年計画や中長期経営計画などがあれば是非照らし合わせて考えると良いでしょう。

当社にご相談いただく企業様の中にも、「今後を見据えて海外進出すべきだと思うが、まだ競合が進出していないため、自社は海外進出が向いていないのでは」と不安を抱き、検討に踏み切れないケースが見受けられます。

しかし、調査を進めてみると、地域に根付いた業態のため、そもそも競合が海外進出を考えていなかっただけ、というケースも少なくありません。「今、自社が海外進出すればブルーオーシャンを切り開き、先行者利益を得られるのではないか?」と気になった際は、速やかに専門家に気軽に相談してみることが重要です。初動も含めて、スピード感を持って行動することが成功の鍵となります。

3. 自社のブランドやサービスに独自性はあるか?

日本国内での成功体験が、そのまま海外での成功に結びつくとは限りません。
例えば、「安さ」や「利便性」だけでは、現地企業との競争に勝つことは困難です。商品の見せ方や店舗の内装も含めた総合的なブランディングが必要です。

「中小企業白書」2020年度版によると、海外展開をしている企業は差別化に取り組んでいることが明らかです。第2部「新たな価値を生み出す中小企業」において、グローバル志向型企業は、海外市場への販売の有無により競争戦略が異なることが示されています。
小売業を含む非製造業の企業の中では、海外市場へ販売している企業は、販売していない企業に比べ、特定のターゲット市場を対象とした「集中戦略」を採用し、その中でも「差別化集中戦略」を取っている割合が高いことが分かります。差別化集中戦略とは、特定の市場をターゲットにし、低価格ではなく差別化を志向する戦略です。

これを読んで「うちはこれまで日本で安さを売りにしてきたから、海外進出は難しいのでは……」と不安になるご担当者様もいらっしゃるかもしれませんが、その心配は不要です。

例えば、ドン・キホーテの事例は非常に示唆に富んでいます。日本では「安さ」のイメージが強いドン・キホーテですが、海外では「ジャパンブランド・スペシャリティストア」として、日本産または日本市場向けの商品を低価格で提供するというコンセプトを打ち出し、ブランディングを確立しています。この戦略によって、同社は海外でも成功を収めています。

4. 現地のニーズへの適応力が自社にはあるか?

海外の現地市場の特性を理解し、サービスやマーケティング内容を適切に調整することは、海外進出において重要なポイントです。これはECサイト運営、代理店販売、実店舗運営といった業態を問わず共通しています。

1887年に京都府京都市で設立された株式会社木村桜士堂は、人形を中心とする工芸品や和雑貨の小売・卸業を営む従業員15名ほどの企業です。同社は米国、イタリア、フランス、中国などにも販路を拡大しています。
木村桜士堂は小規模ながらも、BtoCの展示即売会など海外展示会に積極的に出展し、消費者から直接ニーズを把握することで効果的なマーケティング活動を行っています。展示会への出展を重ねることでブース展示の方法を現地の好みに合わせて改善するなどし、結果として売上の拡大につなげています。

https://www.jetro.go.jp/case_study/2020/10069.html

中小企業においては、所有と経営が一致している場合、オーナー経営者が過去の成功体験に基づき『このポイントは譲れない』と固執することが少なくありません。しかし、それが海外展開の足かせとならないよう、現地市場に合わせた商品展開や柔軟な対応が求められます。

まずは自社が経営陣を含め、現地のニーズに対応できるカルチャーを持っているかを考えてみるとよいでしょう。

5. 核となる国内事業がおろそかにならないか?

海外展開に注力するあまり、核となる国内事業がおろそかになってしまうケースは少なくありません。これは特に中小企業にとって重要な検討ポイントとなります。

デロイトが2013年に発表した「Global Retail Expansion」レポートでは、北米の専門小売業者87社の10年間にわたる分析を通じて、この課題を具体的に指摘しています。例えば、ある高級宝飾品小売業者は、欧州やアジア太平洋地域への積極的な展開中に、米国旗艦店での売上が10%近く低下しました。アナリストはこの原因を、海外展開に注力するあまり、国内での商品構成や実行力が低下したことにあると分析しています。このレポートは2013年のものですが、その内容は現在にも十分通じるものです。

https://www2.deloitte.com/us/en/pages/consumer-business/articles/global-retail-expansion-shareholder-value.html

その他、海外展開に集中するあまり、国内事業がおろそかになるリスクとして以下のような例が挙げられます。

  • 優秀な人材を海外事業に配置することで、国内事業の運営が手薄になる
  • 海外展開に集中するあまり、国内市場での顧客ニーズの変化を見逃す
  • 限られた経営資源が海外に優先配分され、国内事業への投資が後回しになる

実際、日本の中小企業が海外展開を躊躇する最大の理由の一つは「適切な人材の不足」です。この課題に対しては、以下のような対応策が考えられます。

  • 海外進出支援の専門企業やコンサルタントとの連携
  • 段階的な展開計画の策定
  • 国内外の事業バランスを定期的に評価する仕組みの構築

重要なのは、海外展開を「追加の成長機会」として正しく位置づけ、核となる国内事業の競争力維持・強化とのバランスを取ることです。
特に中小企業の場合、限られた経営資源をどのように配分するかが慎重に検討されるべきです。

この点については、海外進出支援企業やコンサルタントの知見を取り入れながら進めていくことをおすすめします。

まとめ

海外展開は中小規模の小売業にとっても大きなチャンスですが、成功させるためには戦略的な検討が不可欠です。
自社に最適な進出方法や、社内体制、ブランドの独自性、現地市場への適応力など、さまざまな要素を十分に検討することが重要です。
また、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることで、成功への確率を大きく高めることができます。

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