海外進出を検討されている零細企業、中小企業の経営者の皆様にとって、最も気になるのは「他社はどのように成功しているのか」や「類似企業事例をもとに自社のベストプラクティスを知りたい」といった点ではないでしょうか。
本記事では、JETROによる新輸出大国コンソーシアム「海外展開成功事例集」から、福岡の零細企業から世界展開を実現した株式会社ジウン(現フジデノロソリューションズ株式会社)の事例をピックアップして、弊社の視点で考察していきます。
参考:JETRO新輸出大国コンソーシアム「海外展開成功事例集」
Contents
【会社概要】福岡発の世界60万人が使用する医療システム
株式会社ジウン(現フジデノロソリューションズ株式会社)は、2000年7月に福岡県福岡市で創業されました。ちなみに創業当時は「有限会社ジウン福岡」という有限会社でした。
同社は医療用画像管理システムPACSの開発・販売およびクラウドサービスを提供しており、クラウド型医療画像管理・閲覧システム「SonicDICOM® PACS」は、世界200カ国以上の病院や研究・教育機関で利用されています。
2019年3月に資本金を3000万円に増資し、フジデノロ株式会社のグループ企業となり、2021年には社名を「フジデノロソリューションズ株式会社」に変更しました。
しかし、当時、海外展開を始めた時期は従業員数約7名の超小規模企業でした。
海外進出の契機:国内規制強化が転機に
同社は、法改正という自社ではコントロールできないピンチを、チャンスに変えました。
予期せぬ法改正による国内販路の制限
同社の海外展開の背景には、国内での薬事法改正が大きく関係しています。同社のコーポレートサイトの沿革には、2013年11月に以下の記載があります。
ウェブベースの医療画像管理システム「SonicDICOM® PACS」を開発し、海外向けに販売を開始
https://fujidenolo-s.co.jp/company/
この海外展開の時期と、以下の板崎取締役のメッセージから、平成25年11月27日の薬事法等の一部改正が影響していたと推察されます。
厚生労働省 薬事法等の一部を改正する法律について
当時、医療分野においては、従来はソフトウェアのプログラム単体では薬事法の規制対象外とされていました。
しかし、法改正により、プログラム単体でも医療機器として規制対象となるよう変更されました。これにより、医療用プログラムの開発・販売が厳格に管理されるようになり、企業は法的な要件を満たすための新たな対応を求められることになりました。
何年もかけて開発し、ようやく従来の医療画像管理・閲覧システム「DICOMサーバー&DICOMビューア」を上回るプログラムを完成させて、いざ、販売に踏み切ろうとした矢先。国内での薬事法が大幅に改正され、私たちのシステムは国内での販路が断たれたのです。
一般的に医療用のサーバー&ビューアは、病院で使用される様々なメーカーのCTやレントゲンの画像を一括で管理し、閲覧できるシステムとなっています。専門のスタッフでないとインストールするのが難しく、さらに使用者それぞれのパソコンでセッティングしなければなりません。
一方で、私たちが新たに開発した「PACS」はサーバーにインストールすれば、サーバーと同期したすべてのパソコンやタブレットで閲覧できます。画期的でシステム設定の費用削減にも貢献できる。私たちの期待を背負った商品だったのです。そこへ突然の法改正。今後4年間は販売できないという現実が重くのしかかりました。
直面した課題
この法改正により、同社は以下の重大な課題に直面することとなりました。
- 薬事関連の業態許可取得に3年
- さらに認証取得に1年の期間が必要
- 認証取得までの4年間、事業継続が困難
このような状況の中、同社はJETROと連携し、活路を海外市場に見出すこととなります。
【海外展開の取り組み】価値を殺さないスモールスタートの選択
SonicDICOMは、イタリア、ナイジェリア、香港、インドネシア、米国、韓国、ブラジルなど200カ国以上に展開していますが、その海外展開の手法は非常に示唆に富んでいます。 板崎取締役のインタビューでの以下の発言から、その戦略を読み解いていきます。
事業を存続させるには海外で販売するしかありません。しかし、各国に赴いて交渉するにはコストがかかりすぎるし、何より、英語が堪能な社員がいません。
どうしたら現地に行かず、英語を話さずにシステムを販売することができるのか。考え抜いた末、利用者それぞれがWeb上からシステムをダウンロードし、クリックでセットアップできるプログラムに変更しました。また、問い合わせ手段をメールに限定し、届いた質問には翻訳スタッフだけが対応することにしました。
できないことは諦め、できることをする。この大胆な決断が功を奏し、海外向け「SonicDICOM® PACS」は世界中で約200カ国・地域でダウンロードされ、60万人を超えるユーザーを獲得するに至りました。
①人材調達を最小限に抑えた対応
まず、海外進出における人材採用を最小限に抑えた点は、同社の戦略の要となっていると考えられます。上記発言からは、新規採用に頼らず既存の体制で運用をカバーしていく方針が読み取れます。
海外進出に際して新規採用を行うことは、コストと時間の両面で大きな負担となります。また、多くの企業が海外事業の知見不足を補うために採用を行いますが、その知見不足ゆえに適切な人材を見極められず、期待値とのミスマッチが生じるケースも少なくありません。
同社はこうしたリスクを避け、JETROなど外部パートナーを効果的に活用しながら、自社の強みを活かせる領域に集中するアプローチを選択しました。この判断は、当時の従業員規模を考慮すると、海外展開全体のスピード感を生み出すことにもつながったと考えられます。
②デジタル化とDXの両輪による展開基盤
「現地に行かない海外進出」の実現は、デジタル化とDXのアプローチによって可能になったと考えられます。
重要なのは、アナログからデジタルへの移行であるデジタル化と、デジタル技術を活用したユーザー体験やビジネスモデルの変革を指すDXを組み合わせた点です。
「Web上からのダウンロードとクリックだけでセットアップできるプログラム」という仕組みは、Adobeなど外資系クラウドツールの導入フローに似ています。こういったツールでは、導入時に企業へ問い合わせることは少ないのが一般的ですが、同社もこれと同様の状況を実現しました。
さらに、問い合わせ手段をメール対応のみに絞った判断も注目すべきポイントです。多言語対応の電話サポートには膨大なリソースが必要で、メール対応に限定することで、効率的な運用体制を整えています。
カスタマーサポートやカスタマーサクセスは外注するケースも多いですが、多言語スタッフの確保は難しく、日本語対応の人材よりもコストが高いことから、メール対応に限定する判断は良い選択であったと言えます。
③UX向上と現地化の徹底による価値提供の最大化
ソフトウェア提供における成功の鍵は、優れたUXの実現にあります。先述のメール対応への限定は効果的な施策である一方、運用方法によってはビジネスにネガティブな影響を及ぼす可能性もあります。
例えば、インストールの手順がわかりづらい、ソフトウェアが使いづらいなどでユーザーにストレスを与え、その上で問い合わせはメールのみ、さらにメールフォームの入力項目が多いとなれば、インストール前のユーザー離脱に直結してしまいます。
同社はこうしたリスクを認識した上で、そもそも必要以上の問い合わせが発生しないよう、UXの向上に努めたと推察されます。
さらに、現地化への積極的な取り組みも重要なポイントです。
JETROの資料に記載されている「アラビア語圏では文章は右から左に読み、パソコンのタブやクローズボタンは一般的なパソコンとは全て反対」という対応は、単なる言語対応を超えて、現地の文化や習慣に即したUXを提供する姿勢を示しています。
実際、同社の英語版のサービスサイトを見てみると、右下の吹き出しをクリックすることで、すぐにフォーム送信が可能となっています。
Screenshot
このようなUX設計からも、グローバル展開において細部へのこだわりを感じ取ることができます。こうした細かな工夫の積み重ねが、60万人を超えるユーザーを獲得するという成果につながっているのでしょう。
まとめ
株式会社ジウン(現フジデノロソリューションズ株式会社)の事例は、国内規制をチャンスに変え、海外進出を成功させた事例です。
従業員数がわずか7名の小規模企業でも、効率的な運営体制や、デジタルの活用、UXの工夫によって世界規模のユーザーを獲得しました。
この事例は、海外展開を検討している零細・中小・スタートアップ等、大手企業以外の企業にとって、実現可能なベストプラクティスを示しています。
海外進出へのご相談はSocialZeroへ
当社では、企業の海外進出を総合的にサポートする「海外進出支援サービス」を提供しています。10年以上にわたる海外進出支援の実績を持ち、17カ国以上での支援経験があるコンサルタントが在籍しています。初回のヒアリングも無料で行っておりますので、まだ具体的な計画がない段階でもお気軽にご相談いただけます。
どんな段階であってもアドバイス、お手伝いできるので、まずは以下のフォームからお気軽にご相談ください。