interviewee:STAR KITCHEN代表 荒島氏
大学卒業後に日本で外資系コンサルティング企業へ就職後、2013年にベトナム初となるジャパニーズクッキングスクールを創業。その後スイーツの卸販売事業を手がけベトナムの各主要コンビニエンスストアへ卸販売を展開。現在ではホーチミン市随一のショッピングセンターである高島屋で大人気ベトナムお土産屋事業を手掛ける。
本日はお時間をいただきありがとうございます。まず初めに、貴社のお取り組みについてご紹介いただけますか?
STAR KITCHEN自体は、2013年からベトナムで運営しています。もともとは富裕層向けの料理教室を始めましたが、料理教室は今年の7月に閉鎖しました。料理教室を展開する中で、ケーキが人気となったため、洋菓子製造・販売事業を始めました。2016年の高島屋開店当初から、ここにSTAR KITCHENのお店を出しています。
その後、コロナを機に業態を変え、高島屋店舗はいわゆるケーキ屋さんから外国人観光客向けのお土産屋へと切り替えました。
また卸事業に関しては、当初洋菓子製造・販売事業を始めた後に、ファミリーマートさんからお声がけいただき、日本人街の1店舗から販売することからコンビニへの卸事業がスタートしました。現在は、セブンイレブンやミニストップなど日系コンビニに加えて韓国系のGS25などにもケーキやカットフルーツ、パンなどの製造卸を行っています。
こちらの店舗は日本人とベトナム人、その他の外国籍のお客様の割合はどの位ですか?
当店舗のお客様の割合は、日本人が約6割で、台湾、シンガポール、マレーシアなどの方々が約3割です。日本人マーケットだけでは規模が小さいため、他国の観光客もターゲットにしています。例えば中華圏の観光客は、ベトナムでも”爆買い”するお客様も多く、客単価が高く日本人の約3倍の購入をしていただいています。
例えばベトナム観光総局2024年10月までのデータでは台湾人だけでも日本人の約1,7倍にあたる約100万人がベトナムを訪れており、外国人マーケットとしては韓国人が年間約400万人、台湾人が約120万人、その他の中華系が約300万人、日本人が60万人ほど来ています。したがって、これらの国からの観光客に注力しています。これらの国々の方々は日本のお菓子が好きなので、日本人がベトナムでこの事業を展開していることがブランディングにつながっています。
観光に対する期待としては、中華圏の方々は日本人と近い感覚を持っているように感じます。例えば、SNSでのマーケティングでも、台湾や中華系の方が親和性が高く、日本人観光客が求めているものと同じものを求めているようです。具体的には、ローカルマーケットやベトナムのローカル文化などです。一方、韓国人の場合は安価なビーチリゾートを求めてダナンなどを訪れ、2区の欧米人街のオシャレなカフェなどが人気です。このため、韓国向けにはKakaoTalkでのインフルエンサーによる韓国語のブログなどが主流となっています。
確かに、最近ではダナンで韓国人観光客が非常に増えており、ダナンを訪れる韓国人が非常に多いですね。同じビーチリゾートのニャチャンも、以前はロシアからの直行便が多くロシア人観光客が多かったですが、今では中国人観光客が多くなっていますね。
当社ではお土産屋を直営店以外にもベトナム各地で約40店舗に卸していますが、ニャチャンにはお土産屋が少ないです。また、中華系のツアー会社と提携し、お土産商品を中華圏の観光客にガイドを通じて販売してもらっています。バスツアーでガイドの方が車内でお土産を販売してくれるのですが、大変好評をいただいており、中国人のお客様は特に大量に購入してくれる傾向があり、個人でも10個以上購入されることがあります。
ベトナムでは店舗の集客施策はどうされているんですか?
ベトナムでの店舗集客施策については、高島屋を訪れるお客様の自然な集客に加えて、SNSやSEOに力を入れています。
具体的には、Instagramやブログが集客において大きな役割を果たしています。ブログでは特定のキーワードで1位を獲得するなど、コツコツとSEOに取り組んだ結果、徐々に効果が出ています。ブログを見て来店される方が増えているのも事実です。
また、Googleマップで調べて来店されるお客様も多く、Googleマップのレビューの向上にも注力しています。過去に行った日本人を対象としたアンケート調査では、「どこで知りましたか?」という質問に対し、回答の約3割がInstagram、さらに約3割がブログ経由、約2割がGoogleのレビュー、残りの2割がガイドブックや口コミによるものでした。
これらの施策を通じて、効果的な集客を行っています。
STAR KITCHENさんの高島屋の店舗でGoogleMapのレビューを見ると、368件のレビューで星5つなのは本当に凄いですね。レビュー母数が多くなってくると星は多少は下がりますが、このレビュー数で星5つはなかなか見ないですね。購入客にレビュー依頼等もされているんですか?
そうですね。STAR KITCHENの高島屋の店舗で368件のレビューをいただき、星5つを維持しているのは確かに素晴らしいことです。多くのレビューがある中で高評価を維持するのは難しいですが、お客様にレビューをお願いすることも行っています。
来店されたお客様全員に自然にレビューを書いていただくのは難しいため、レビューを書いていただいた場合にはお茶とクッキーをサービスとして提供しています。また、特に海外ではGoogleマップなどで事前に情報を調べることが一般的なので、レビュー自体を増やす工夫にも力を入れています。もちろん、いただくレビューは本当に感謝の気持ちから書いていただけるように心がけています。
STAR KITCHENさんの商品は、デザイン的にも色々と目に留まる商品が多いですが、特に人気商品は何ですか?
こちらのバインミーラスクは特に人気があります。バインミー自体は、ベトナムで主に朝ごはんとして食べられるバケットのサンドイッチのような食べ物で、日本でも広く知られています。一箱で6種類(コーヒー、マンゴー、ココナッツ、フォー、パクチー、胡椒)の味を楽しめるのも魅力です。
当店の商品は、ベトナムらしさを引き立てるパッケージデザインにもこだわっています。ベトナムのカオスな旅先らしさや独自の文化を反映したデザインにより、購入された方が贈る相手に対してベトナムの魅力を語れるよう工夫されています。
以前は、ベトナムにはあまり良いお土産がなく、ベトナム人目線でデザインされたパッケージは外国人観光客には伝わりづらいことが多かったです。しかし、外国人の視点から見ると、ベトナムには独自の文化が多く、それをパッケージデザインに取り入れることで外国人の目に留まるようになっています。これは、ベトナム人から見ると日常の一コマであるため、気づきにくいデザインであり、差別化の重要なポイントだと思います。
このように、商品を通じてベトナムの文化をお土産として楽しんでいただけるように努めています。
ベトナム各地で商品販売されていますが、どのようにベトナム各地に広がっていったのでしょうか?
ベトナム各地での商品販売は、主に飛び込み営業から始めました。初めに商品を各地で積極的に宣伝し、その後、徐々に広がっていきました。また、メディアに取り上げられることも多く、そうした影響で取引先からお声がけいただくこともありましたが、基本は営業活動に力を入れています。
特に、当店が高島屋に店舗を持っていることが、営業活動における信用や信頼の構築に大いに役立っています。高島屋に入店できていることが、営業時のハードルを下げていると思います。仮にゼロからお土産屋をスタートしていたら、高島屋への出店は難しかったでしょうが、初めに洋菓子製造・販売事業を運営してブランドを認知してもらった結果、高島屋に入店できたのだと思います。
いきなり無名の状態で飛び込み営業を行っても信頼を得るのは難しいため、その点では徐々に信頼を築き、知名度を高めていくことが重要でした。これにより、今のように多くの地域で商品を展開できるようになりました。
ベトナムで事業をされていて苦労した点は色々とあると思いますが、トップ3の苦労点を教えて頂けますか?
まずは、料理教室のマーケットの限界に直面し苦労しました。初めに運営していた料理教室は、ビジネスのボリュームを出すほどのマーケットがありませんでした。例えば、一度チーズケーキを習ったお客様が何度も来ることはなく、商品サイクルが短くて厳しかったため、最終的に物販に切り替え、洋菓子製造・販売事業に業態転換しました。
ケーキ市場のニーズの誤算にも苦労しましたね。洋菓子製造・販売事業に業態転換した理由は、ベトナムには魅力的なケーキ店が少ないと感じていたからです。経済発展とともにケーキへのニーズが増えるだろうという仮説を持って挑戦しましたが、実際にはベトナム人は健康志向であまり甘いものを食べないことに気づくまで7年かかりました。
その間、高島屋やスターバックス、コンビニにケーキを卸していましたが、市場で広がりが見られなかったため、ニーズについての自己バイアスを再認識しました。これは事前の調査では分からなかったことでしたが、検証できた点で良かった部分もあります。
また、ベトナム市場は思った以上に小さいと感じています。具体的には、セブンイレブンは約120店舗しかない一方で、隣国のタイでは約15,000店舗あります。「これからのマーケット」と言われ続けているベトナムですが、実際にはそこまで大きな市場はまだ無いと感じています。
確かにベトナムはこれからの国だって言うのは、20年くらい前から言われていますよね。20年位前に最初のベトナム投資ブームが来て、その後10年位前に第2のベトナム投資ブームが来て、今またベトナムが注目されていますが、全てのフェーズでベトナムはこれから伸びる市場と言われているのはよく聞きます。
市場が成長していることは確かですが、現時点ではベトナム市場一本で捉えるには、あまり大きな規模にはなりにくいと感じます。ベトナム市場単体での参入障壁は低く、競争も激しいですが、その分出口戦略が遠く感じられます。そのため、ベトナム市場をサポートする周辺国、例えばシンガポールやマレーシアとの連携を考えることが望ましいと思います。
具体的な例を挙げると、飲食店の展開についても、ベトナムの場合、ホーチミン市とハノイ市に1店舗ずつ出しているケースが多く見られます。しかし、タイなどではバンコクだけで10店舗以上を展開する企業もあります。これは、その国の中間層と富裕層のボリュームが異なることが影響していると思います。
このように、ベトナム市場には成長の可能性がある一方で、他国と比較すると課題も多く、市場を真剣に捉えるには戦略的なアプローチが必要ですね。
そうですね。バンコクに行くとそもそも物価全然違いますし、今バンコクでごく普通の生活しても東京と変わらないくらいの費用かかりますし、中間層と富裕層のボリュームが全然違いますね。
その点で、ベトナムの富裕層はどこにお金を使っていると思いますか?
住まいや服、教育、医療といったベーシックニーズが優先され、その後に余裕ができた段階で食にお金をかけることが多いです。
また、ビザの関係で個人旅行が難しいこともあり、ベトナム人の価値観はやや偏りがちです。これにより、良くも悪くもローカルな文化やライフスタイルに強く根ざしている部分があります。海外での経験が少ないため、異文化に対する理解や受容度が低い傾向が見られ、その結果、ローカル感が強いのだと思います。
一方、タイ人のように日本の地方に何度も旅行をする人々は、グローバルスタンダードに慣れており、広い視野を持っています。このような文化的背景の違いは、食や商品に対する嗜好や価値観にも影響を及ぼしていると思います。
このような文化的な差異を念頭に置きながら、ベトナム市場へのアプローチを考えることが重要ですね。
最後に、これからベトナム市場に進出する日本企業に対して何かアドバイスを頂けますか?
まず、ベトナムは成長の可能性が非常に大きい国ですが、その成長には時間がかかることを念頭に置くべきです。日本での事業計画を3年で立てると仮定した場合、ベトナムではその3倍の時間がかかる可能性があると思っておく方が良いでしょう。したがって、長期的な事業計画を立てることが重要です。
私自身も、3年で実現できると思った事業がコロナの影響もありましたが、現時点で10年を要しています。ベトナムには市場成長の潜在力はありますが、急成長を期待しすぎるとギャップに戸惑う可能性があります。
したがって、時間をかけて根気強く取り組む姿勢が求められます。
また、文化的な違いや市場特性を理解し、柔軟に対応することも不可欠です。現地の消費者の好みやニーズを把握するために、リサーチを怠らず、実際に現地での経験を重ねることが鍵となります。
本日はお時間を頂きましてありがとうございました。
STAR KITCHEN
ホーチミン高島屋直営店
ホーチミン高島屋地下2階(B2)
92-94 Đ. Nam Kỳ Khởi Nghĩa, Bến Nghé, District 1
月-木 9:30~21:30 /
金-日 9:30~22:00