海外現地法人の人事・評価制度は日本とどう変えるべきか【フィリピン含むASEAN実例】

海外現地法人の運営で、最もトラブルが起きやすいテーマのひとつが「人事・評価制度」です。

  • 給与テーブルや昇給スピードが現地相場とかけ離れている
  • 日本本社の評価制度をそのまま当てはめて、優秀な人材ほど辞めていく
  • 拠点長・マネージャーにどこまで権限を渡すべきか決められない
  • 成長機会を与えているつもりだが、ハイパフォーマーが辞めていく

といった悩みは、フィリピンを含むASEAN各国で共通して見られます。

これは、現時点でのASEAN諸国へ進出する日本企業の多くが現地での採用に苦労している実態があり、これらの原因は日本式の人事評価制度による弊害となります。

また、日本国内においても外国籍のホワイトカラーが日本企業に定着できないのは、この日本式の人事評価制度や商習慣が原因となりますが、海外現場においても同様の事が起きています。

本記事では、

  • 海外現地法人の人事・評価制度がなぜ「日本のまま」では機能しづらいのか
  • フィリピンを中心としたASEANでの実情と、よくある失敗パターン
  • 現地法人に合った人事・評価制度を設計するためのポイント
  • Social Zero が関わったフィリピン現地法人の改善パターン

を整理します。


なぜ海外現地法人の人事・評価制度は日本と同じでは機能しないのか

年功序列・終身雇用前提の制度設計が前提から合わない

日本の典型的な人事・評価制度は、

  • 長期在籍を前提とした年功序列
  • 新卒一括採用&社内育成前提
  • 評価の“結果”よりも「プロセス」や「姿勢」重視

といった文化をベースに作られていることが多く、
転職を前提としたキャリア市場+成果志向が強い海外現地法人とは相性が良くありません。

「昇給スピードが遅い」「評価基準が見えない」と感じられる

フィリピンやASEANでは、

  • 年1回の少額昇給
  • 昇格に長い時間がかかる
  • 評価基準が不透明

といった状態は、「評価されていない」「キャリアが見えない」「成長・キャリアアップ機会が無い」と受け止められやすく、優秀な人材ほどより条件の良い他社へ気軽にジョブホップしてしまいます。

拠点長の裁量が小さく、現地事情を反映できない

日本本社で一元管理される人事・評価制度のもと、

  • 現地の市場相場や慣習に合わない報酬テーブル
  • 拠点長が自由に昇給・昇格を決められない
  • 人事権が本社に集中している
  • 現地の商習慣や文化を理解していない本社が、人事・評価制度を作っている

といった状況が続くと、
現地の経営チームが「自分たちの組織」としてコミットしづらくなるという問題も生じます。

※特に海外進出初期フェーズでは、経営の意思決定において自社の製品やサービスの営業活動等により意識が向き、ソフト面の組織構築や人事・評価制度等は重要視せずに、後から整えようという意識になりがちな為、曖昧orマッチしない制度のままスタートしてしまいがちですが、ここが非常にリスクの大きい分かれ目になります。


フィリピンを含むASEANの「人・評価」に関する共通傾向

1. 若く、転職を前提としたキャリア観

フィリピン・ベトナム・インドネシアなど多くのASEAN諸国では、

  • 平均年齢が若い
  • 経済成長とともに雇用機会が増えている

こともあり、

  • 良い条件・成長機会があれば転職する」のが自然
  • 数年ごとにキャリアアップ転職を重ねるケースも一般的
  • モチベーション向上が高い人材ほど、自分の仕事に成長機会を求める

という前提があります。

2. 給与アップ・役職アップ・成長機会がモチベーションに直結

は、海外現地法人の人事・評価制度において極めて重要です。

「頑張っても上がらない」「誰がどう評価されているのか分からない」「日々の業務がルーティン化し、成長機会が感じられない」組織では、優秀層から辞めていくケースが多く見られます。

3. フィードバックとコミュニケーションの頻度

  • 定期的な1on1や評価面談
    • 入社1ヶ月間は週次の上長1on1、それ以降は月次の1on1
  • フィードバックのわかりやすさ
    • 明確な評価制度の基づいたフィードバックを行い、従業員の要望を聞く
  • 意見が通りやすい職場環境とコミュニケーション機会
    • 直の上司やリーダー等に自分の意見が言いやすいコミュニケーション設計

は、エンゲージメントに直結します。

「評価は年1回、しかもフィードバックが曖昧」という日本式運用をそのまま持ち込むと、
**現地メンバーから見て“何を頑張れば良いのか分からない組織”**になりがちです。

“昇給や昇進は短期的な効果”

“仕事の成長機会やチームビルディング(職場環境)は長期的な効果”

このように、短期的な効果と長期的な効果の特徴がある施策をうまく組み合わせていく事がカギとなります。

※フィリピンの人件費と人材採用に実態に関しては、こちらの記事で解説しています。


海外現地法人向け 人事・評価制度の設計ポイント

ここからは、「海外現地法人 人事・評価制度」を再設計する際の実務ポイントを整理します。

1. 職種・レベル別の給与レンジを「現地相場」で定義する

  • 職種(エンジニア/営業/バックオフィス等)
  • レベル(ジュニア/ミドル/シニア/マネージャー)

ごとに、

  • 現地の給与レンジ(P◯〜P◯/月 など)
  • 同業・同規模企業と比べた位置づけ(中央値/上位◯% 等)

を把握したうえで、**「狙うべきポジション」**を決める必要があります。

例(フィリピンIT人材の場合):

  • ジュニア:月2〜3.5万PHP
  • ミドル:月3.5〜5万PHP
  • シニア:月5〜8万PHP

自社は「市場の上位◯%を取りたいのか/中央値付近か」を決め、
昇給の余地も含めてテーブルを設計します。

※特にどの市場においてもIT人材は各企業が積極的に採用を行う売り手市場となり、進出直後の知名度が無く、組織がまだ小さいフェーズでは、相場より高い水準で採用オファーを出さないと人材採用は難しくなる傾向にあります。

2. 昇給・昇格のスピードとルールを明文化する

  • 昇給タイミング(基本は年2回 + プロジェクトボーナス / パフォーマンスボーナス等)
  • 昇給の幅(目安レンジ:ASEAN諸国では年7%~12%が目安)
  • 昇格条件(役割・スキル・成果ベースでの基準)

を、現地メンバーにもわかる形で人事評価テーブルを提示します。

特にフィリピンのような成長市場では、

  • 「早期昇格・高パフォーマンス人材への報いるスピード」

が、離職率と直結します。

3. 役割グレードと評価項目の“現地向け再設計”

日本本社の職種定義やグレードをベースにしつつも(※活用できる内容であれば)、

  • 現地法人に必要な役割(例:ローカルマネージャー/英語ブリッジなど)
  • ポジションごとの明確な責任と役割
  • 現地のメンバーの意見を取り入れた内容

を反映した、現地版のジョブグレード定義が必要です。

評価項目も、

  • 日本特有の抽象的な表現の評価軸

は取り入れるべきではありません。

より有効な評価項目として、ポジションごとの

  • 顧客価値への貢献
  • チームへの影響力
  • スキル・成果

をシンプルに反映し、明確な達成基準で設計が望ましいです。

例として、ITエンジニアの評価項目の場合は、

ポジション責任と役割基本給役職手当共通能力
テックリード10項目3段階で変動50,000PHP10項目
シニアエンジニア5段階評価テーブル5段階評価ごとに変動20,001~40,000PHP5項目
ミドルエンジニア3段階評価テーブル3段階評価ごとに変動15,001~20,000PHP5項目
ジュニアエンジニア3段階評価テーブル3段階評価ごとに変動5,000~15,000PHP5項目

このように、明確に役職ごのと各段階で、責任と役割、それに伴う基本給と役職手当、共通能力を1つのテーブルで明確かつ詳細に記載する事で、自分が何を達成すれば上野ポジションに行けるのかが明確になります。

4. ボーナス・インセンティブ設計

  • 会社業績連動ボーナス
  • 個人 or チーム成果連動インセンティブ
  • 特定プロジェクト完了時の一時金(成功報酬)

など、固定給+変動給のバランスを検討します。

営業・CS・BPO・ソフトウェア開発など、職種別にインセンティブの形を変える必要がありますが、

  • 「頑張れば〇〇程度の上乗せがあり得る」

というイメージが持てることが重要です。

これは、年度予算を決める段階で会社として出せる額の上限を設けて、収支計画等に反映し、実際に事業推移を基に額を取り決めます。

※外国籍人材のコミュニケーション等については、こちらの記事で解説しています。


オンボーディングとカルチャー設計が離職率を決める

入社後3〜6カ月の設計が鍵

海外現地法人では、

  • 入社後の期待値共有
  • 業務プロセスのトレーニング
  • チームとの関係づくり
  • 責任と役割の明確化

を丁寧に行わないと、最初の数カ月でミスマッチ感が高まりやすいです。

フィリピンなどジョブホップ文化があるASEAN市場では、

  • 「思っていた会社と違う」「やりたい仕事じゃない」と感じた時点で、早期転職に動く

のが一般的であり、日本のように「とりあえず数年は我慢してみる」という感覚はほぼ無いと言えます。

カルチャーを“言語化”する

  • どんな価値観を大事にしているのか
  • どう振る舞ってほしいのか
  • 禁止事項・NG行動は何か

を、言語化し共有することで、人事・評価制度に“魂”を入れることができます。

「日本本社の暗黙知」をそのまま持ち込むのではなく、
現地メンバーとも対話しながら作り上げていくプロセスが重要です。

特に現地法人の初年度は従業員数も少なく、カルチャー自体が定まっていない環境となります。

当社の経験上、この初期フェーズでは、縛りすぎずにコミュニケーションの創出機械を意識的に多く設けて、従業員同士やマネジメントとの距離が近しい環境を作る事が重要となります。

例として、毎週1回はチーム全員でランチを食べてアクティビティを行ったり、互いを知るタッチポイントを増やします。

その後、徐々に従業員が増えてくると、ローカルマネージャーがより従業員と近しいポジションでコミュニケーションを主導して、ポジティブなカルチャーの構築をする為に、現地法人の代表は様々なサポートを行います。


本社制度との“折り合い”をどうつけるか

どこまで現地最適化してよいのか

よくある悩みは、

  • 「本社と現地法人の制度差をどこまで認めてよいのか」
  • 「日本人駐在員とローカルスタッフの待遇差をどう扱うか」

といった点です。

現実的なラインとしては、

  • 評価制度・報酬テーブル・昇給スピードは現地最適化
  • ただし、
    • コンプライアンス
    • コアバリュー(大事にする価値観)
    • 重要ポジションの承認ルール
      はグローバル共通

という形で「2階建て」の設計にすることが推奨されます。

※重要な事として、現地法人の人事評価制度は離職率等にも大きな影響を与える為、

日本本社の制度とは乖離して、現地法人は独自の制度をゼロベースで構築する

という方針を取り決める事を推奨します。

日本人駐在員とのバランス

  • 日本人駐在員は「本社側の条件」
  • ローカルスタッフは「現地市場の条件」

で決めざるを得ない部分はありますが、

  • 情報格差を小さくする(説明責任を果たす)
  • ローカル側にも明確なキャリアパスを用意する

ことで、不公平感を最小化できます。

また、シンガポール等の日本よりも人件費水準が高い国を除き、

ASEAN諸国では日本人駐在員の給与はなるべく開示せず、

現地法人の給与と日本本社の給与の2ヵ国で給与支給がある場合は、

現地法人の給与のみローカル評価制度内で調整できるようにし、従業員に開示する必要はありません。


フィリピン現地法人の事例:離職率を“3分の1”にしたパターン

当社 Social Zero が関わったフィリピン現地法人では、

  • 立ち上げ初年度から
    • 職種別・レベル別の給与テーブル
    • 評価項目・評価プロセス
    • 昇格ルール・キャリアパス
      を現地向けに設計
  • 評価・フィードバックを四半期単位で実施
  • 高パフォーマンス人材の昇格・昇給をスピーディに実行

といった施策を行った結果、

  • 日本本社よりも低い離職率を実現
  • 採用競争環境の中でも「選ばれる会社」としてブランドを構築

しました。

ポイントは、**「最初の1年で“人事・評価制度”に投資したこと」**です。これにより、ジョブホッピングが当たり前の文化を持つ国でも、“転職するよりこの会社に残る方が良い”と思わせる環境を構築しました。

どれだけ従業員教育をして組織強化を図ろうとも離職率が高い状態の場合は、教育コストに対するリターンが得られず、また人の入れ替わりが多い事で生産性も向上せずに、人材投資が出来なくなってしまいます。

これでは、中長期的に組織が作れず、事業拡大にもつながらない為、経営視点で見ても投資が難しい状況となってしまします。


Social Zeroが提供する「海外現地法人 人事・評価制度」支援

当社 Social Zero では、フィリピンを含む海外現地法人向けに、

  • 現地市場調査(給与・人材動向・競合の制度)
  • 現地法人の役割設計と組織デザイン
  • 人事・評価制度の設計(給与テーブル/評価項目/昇格ルール等)
  • オンボーディング・カルチャー浸透の仕組みづくり
  • 本社との整合を取りつつ、裁量・権限設計を行うPMO

まで、一気通貫で支援しています。

「今の制度をそのまま海外に持ち込んで大丈夫か?」
「フィリピン/ASEAN現地法人では、どこまで変えるべきか?」

といった段階からでも構いません。

※アジア諸国への進出については、こちらの記事で解説しています。


まとめ:海外現地法人の人事・評価制度は「現地最適化 × 本社ガバナンス」

  • 海外現地法人では、日本と同じ人事・評価制度はまず機能しない
  • 現地相場に合った給与レンジ、スピード感のある昇給・昇格、わかりやすい評価基準が必須
  • オンボーディングとカルチャー設計が、離職率と組織の強さを左右する
  • 一方で、コンプライアンスやコアバリュー、重要ポジションの承認ルールは本社主導で守る必要がある

「すべて日本式」でも「すべて現地任せ」でもなく、
“現地最適化”と“本社ガバナンス”のバランスをどう設計するか

が、海外現地法人の人事・評価制度における最大のテーマだと言えます。


  • 既に海外現地法人があり、人事・評価制度や離職率に課題を感じている
  • これからフィリピン/ASEANに進出するにあたり、最初から適切な制度設計をしたい
  • 本社制度との整合を保ちつつ、現地最適化のラインを決めたい

といったニーズがあれば、ぜひ一度ご相談ください。

海外現地法人の人事・評価制度に関する個別相談はこちら

※フィリピンやベトナムへの進出に関しては、こちらの記事で解説しています。

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