近年、日本企業の海外進出が加速しています。特に、国内市場の縮小やグローバル競争の激化を背景に、新たな成長機会を求めて海外市場に目を向ける企業が増えています。海外進出にあたって海外事業計画書は、プロジェクトの成否を左右する重要な文書です。
本記事では、日本企業が初めて海外進出を検討する際に必要な「海外事業計画書」の基本について、これまでアジアを中心に多くの国で海外進出や海外でのビジネスに携わってきた担当者が、5W1Hのポイントで徹底解説します。
Contents
What:海外事業計画書とは何か?
まず、事業計画書とは、事業の戦略や実行計画、収支の見込みなどを記載した文書です。
海外事業計画書も基本的に同じで、海外進出の目的、戦略、予算、リスク管理などをまとめた文書です。具体的には、以下のような項目を含むことが一般的です。
- 事業概要
- 市場分析
- 競合分析
- 主要競合企業
- 戦略立案
- 財務計画
- リスク管理
その他、専門家と作成する場合には、専門家のアドバイスを入れることもあります。
ポイントを押さえていれば、項目は企業にとって最適な形に修正しても構いません。今からお伝えする計画書を作成する目的やメリットと照らし合わせながら、項目を考えていくと良いでしょう。
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Why:海外事業計画書の目的・メリットは?
一般的に事業計画書は、国内のビジネスにおいても多く作成されます。目的としては、資金調達の際に融資先へ提出することや、事業の将来を見通すことが挙げられます。
事業計画書を作成することで、銀行や投資家への説明がしやすくなる、投資対効果や今後の具体的な動きを明確にできる、目標管理ができるなど、様々なメリットがあります。
これは海外進出の際に作る海外事業計画書においても基本的には同じです。ただし、海外事業計画書特有のメリットとして以下も追加で挙げられます。
1. リスクの最小化
海外進出には、現地の法規制、文化の違い、競合環境など、多くのリスクが伴います。計画書を作成することで、これらのリスクを事前に洗い出し、対策を講じることができます。海外は国によって商習慣や法律も異なるため、海外進出は事業計画書段階でリスクを洗い出すことの恩恵をより多く受けることができます。
2. 戦略の明確化と成功率の向上
事業計画書を作成する過程で、自社の強みや弱み、現地市場での戦略を明確にすることができます。これは日本市場でも同じですが、海外の場合は国やエリアごとに市場環境や競争状況が異なり、選択肢も広がるため、慎重な分析が必要です。
競合やニーズ、市場動向や法規制、税務・会計リスク等の市況を、まずは徹底的に調査・分析し、把握することで、懸念点を明確にしてから、損益計算書や定性的な事業計画書の策定に着手し進めるという流れをしっかりと組むのであれば、事業計画書を通じて、ターゲット市場のニーズや競合優位性を整理し、自社にとって最適な進出国・進出形態を選定できます。加えて適切な市場参入手法を見極めることで、無駄なコストやリスクを回避し、海外進出の成功率を高めることができます。
有識者は見た!よくある失敗例と注意点
現地の法規制を十分に調査せずに、事業を開始しようとした結果、現地で事業許可が得られずに撤退や大幅な事業内容の変更を余儀なくされる事もあります。このような失敗は、市場調査を踏まえた計画書を作成し、事前に現地のリスクを洗い出していれば防げるものも多くあります。
海外の規制は国ごとに異なり、特殊な知識が求められることも多いため、専門家の助言を得ることをおすすめします。現地の法律やビジネス慣習に精通した専門家に相談することで、リスクを最小限に抑え、スムーズな進出を実現しやすくなります。
特に日本企業の進出が多いアセアン諸国等では法規制が整っていなかったり、ルール通りに従っていても公式ではない特殊な商習慣等があり、現地の商習慣等を理解していないとスムーズに当局の許認可が下りないケースやトラブルに発展するケースがよくあります。
Who:誰が作成すべきか?
企業や組織体制にもよりますが、海外事業計画書の作成は、以下のメンバーが中心となって進めることが多いです。
- 経営陣:進出の目的や戦略を決定するため、経営陣の関与が不可欠です。
- 事業開発担当者:市場調査や戦略策定を担当します。
- 財務担当者:資金計画や収益予測を担当します。
- 外部専門家:現地の法規制や市場環境に詳しいコンサルタントや専門家のサポートを受けることも有効です。
このプロセスでは、特定の個人が単独で進めるのではなく、複数の部門や担当者が連携しながら進めることが一般的です。担当者間で素案をもとに議論を重ねたり、企業規模が一定以上の場合は、担当者レベルから徐々に上層部へと協議が進んでいくケースも多く見られます。
この際に、海外事業に精通した有識者が社内に居ない場合は、海外市場に精通した外部専門家に事業計画書のチェックを依頼する事で、第三者目線で整合性を判断し、実現可否等を含めたヘルスチェックを行う事が出来ます。
特に初めての海外進出をする企業は往々にして非現実的な損益計算書を作成していたり、海外市場の商習慣や市場特性を考慮しない計算書を作成してしまう傾向が非常に高く、進出当初から大幅な事業計画の修正を余儀なくされるケースも少なくありません。
有識者は見た!よくある失敗例と注意点
海外進出の事業計画書は、専門のコンサルタントや企業と連携して作ることも多いです。メインの動きや作成そのものをそのような外部パートナーに依頼すること自体は全く問題ありません。
しかしながら、最終的なアウトプットに対して「なぜこの数値になっているのか?」など、内容についてきちんとステークホルダーに説明できるレベルまで理解する必要があります。そうしなければ、単純な数字遊びになり、事業計画書を作った意味がなくなってしまいます。
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When:いつ作成すべきか?
海外事業計画書は、以下のタイミングで作成するべきです。
- 進出の先の市場調査後、極力早めに着手する:
- 簡易的な事業計画書は市場調査前でも良いのですが、本格的な事業計画書は市場調査結果を基に作成するのが理想です。
- 市場調査を行わなくてもいいレベルの事業かつ社内に海外事業に精通した担当者がいる場合は、初期から事業計画書を作成する事もあります。
- 定期的な更新が必要:市場環境は常に変化します。計画書も定期的に見直し、最新の情報を反映させることが重要です。
- 特に経済成長スピードが速いアセアン諸国等は法規制や様々な事が日々変化します。この辺の経済成長や市況の移り変わりのスピードは日本とは全く異なりますので、柔軟性を持たせた事業計画書の作成と定期的なブラッシュアップは必須となります。
なぜ定期的な更新が必要なのか?
- 市場環境の変化
- 現地市場の需要、競合状況は常に変化します。例えば、新たな競合が参入したり、消費者の嗜好が変わったりする可能性があります。計画書を定期的に更新することで、これらの変化に対応することができます。
- 為替リスクの変動
- 海外進出の場合は、為替リスクの変動も考慮する必要があります。為替レートも常に変動します。計画書の財務計画を定期的に見直し、為替リスクを最小化することも大事です。
- 内部環境の変化
- 自社の経営状況や戦略が変わることもあります。例えば、新たな製品を開発したり、事業モデルを変更したりする場合、計画書を更新する必要があります。
不確実性の高い現代、計画の策定に膨大な時間を費やしすぎるとかえって成功確率が下がることもあります。重要なポイントを押さえたら、スピード感を持って行動に移す大胆さも重要です。
実際に動きながら、定期的に計画書を見直し、柔軟かつ迅速に対応していく。このサイクルを繰り返すことで、計画書を「生きた文書」として活用でき、貴社のビジネスの成功につながります。

Where:どこで作るのか?
海外事業計画書を作成する際は、どこで作成するかも重要なポイントです。基本的にはデスクリサーチを中心にオフィスで作成するか、現地視察をこの段階で取り入れるかという選択肢になります。
選択肢1:デスクリサーチを中心としたオフィスのみでの作成
リモートも含め、デスクリサーチのみで完結させる方法です。この方法では、オンラインの情報やデータを活用して市場調査や競合分析を行い、計画書を作成します。
メリット
- 情報の整理がしやすい:既存のデータや社内リソースを活用しやすい。
- コストがかからない:現地視察に比べて費用がかからず、手軽に始められる。
- チームでの議論がしやすい:経営陣や各部門の担当者が集まり、意見を出し合いやすい。
デメリット
- 現地の情報が不足しがち:オフィスだけでの作成では、現地のリアルな状況を把握しにくい。
- 机上の空論になりやすい:現地のニーズや競合環境を正確に反映できない可能性がある。
筆者としては、事業形態や進出・撤退のコストやリスクが低い場合、こちらの方法が適していると考えます。オフィスでのデスクリサーチを中心に進めることで、初期投資を抑えつつ、スピーディに計画を進めることができます。
他方で、社内に海外事業に精通した人材がおらず、かつ初めて海外進出をされる企業は、事業計画書の実現可能性の判断が難しい等の懸念点はあります。
また、必要に応じて、データを外部から購入する、現地調査を代行してもらうなど、精度を高めるための工夫を加えることも大変有効です。こうした手段をうまく活用すれば、限られたリソースでありながら、より実行可能で質の高い計画書を作成することができます。
弊社の海外現地訪問調査などのサービスや事例は以下をご覧ください。
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選択肢2:現地視察を兼ねた作成
現地視察を取り入れて計画書を作成するメリット、デメリットについて述べます。
メリット
- 現地のリアルな情報を収集できる:市場のニーズ、競合の動向、法規制などを直接確認できる。
- 現地パートナーとの関係構築:現地の企業やコンサルタントと直接会い、信頼関係を築くことができる。
- 計画書の現実性が高まる:現地の状況を踏まえた具体的な戦略を立てられる。
デメリット
- コストがかかる:渡航費や現地での活動費が発生する。
- 時間がかかる:現地視察の準備や実施に時間を要する。
How:具体的な作成ステップ
以下は、海外事業計画書を作成するための具体的なステップです。
- 目標設定:進出の目的を明確にする。
- 市場調査:現地の需要、競合、法規制を分析する。
- 戦略策定:マーケティング、販売、運営の計画を立てる。
- 財務計画:初期投資、収益予測、資金調達方法を記載する。
- リスク管理:想定されるリスクと対策をまとめる。
- ドラフト作成:テンプレートを活用して初稿を作成する。
- レビューと修正:関係者で内容を確認し、ブラッシュアップする。
書き方については、JETROによる進出計画案の策定の説明文も大変参考になります。
合わせてチェックしてみてください。
https://www.jetro.go.jp/theme/fdi/basic/plan.html
海外進出を成功に導くために事業計画書は極めて重要
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