海外拠点の「立ち上げ方」については多く語られますが、
「撤退・縮小ラインの決め方」については、議論されることが少ないのが現実です。
- 赤字が続いているのに、撤退を言い出せない
- 規模縮小が必要と分かっていても、社内政治で先送りされる
- 結果として、人もブランドも疲弊してから“後手の撤退”になる
という状況は、国や業種を問わず頻繁に起きています。
「平成20年度中小企業海外事業活動実態調査」によると、海外展開企業の15%が撤退を経験したことがある。と回答しています。
■ 直近2020年から2025年のデータでは、以下の国での撤退が増えております。
1位:中国
2位:香港
3位:ロシア
本記事では、経営層向けに、
- なぜ日本企業は海外拠点の撤退・縮小を決められないのか
- 進出前・運営中に決めておくべき「撤退・縮小ライン」の考え方
- 実際に撤退・縮小を進めるときのステップ
- 撤退を“失敗”で終わらせず、「次の海外戦略の資産」に変える視点
を整理します。

Contents
なぜ海外拠点の撤退・縮小は決めづらいのか
感情・メンツ・社内政治の壁
- 「海外進出プロジェクト」を旗振りした役員・責任者のメンツ
- 「失敗を認めたくない」という心理
- 現地駐在員・現地社員への情
これらが絡み合い、合理的判断よりも感情が優先されることで、
- 「もう少し様子を見よう」
- 「来期までは我慢しよう」
が繰り返され、タイミングを逃すケースが多く見られます。
撤退ラインを最初に決めていない
進出時に、
- 投資額
- 売上目標
- 損益のタイムライン
は決める一方で、
- どの条件になったら縮小・撤退を検討するか
という「出口条件」が設計されていないケースがほとんどです。
結果として、
- 順調にいっても
- うまくいかなくても
その場の議論次第で判断が揺れる、**「基準なき継続・撤退」**になってしまいます。
社内人材では適切な判断が難しい
よくあるケースとして、
- 社内に海外事業のヘルスチェックが出来る人材が居ない
- 徹底すべきか否かの合理的な判断軸が無い
という状況になり、
- なんとなくダラダラと事業を続けてしまう
この様な企業も存在します。

撤退・縮小ラインは「進出前」に設計する
1. 収益・キャッシュフロー面のライン
最低限、以下のような数字は進出前に決めておくべきです。
- 投資総額の上限(◯年で◯億円まで)
- 営業損益のタイムライン(例:
- 1年目:赤字◯◯まで許容
- 2年目:売上◯◯、赤字◯◯以内
- 3年目:損益トントン or 黒字化 など)
- キャッシュバーン(毎月の持ち出し額)の上限
- ユーザー数増加率
- 最初の2年の最低ライン(年〇〇%成長など)
「このラインを下回り続けた場合は、縮小・撤退を検討する」という**“条件付きGO”**にしておくイメージです。
この最低ラインの数字は、海外現地で事業を開始する前に厳密に計算する事は難しい場合があります。
その為、進出前の段階では、凡その現実的な数字を算出して目安とします。
稀に経営者が行うミスとして、鼓舞する為に、現実的に達成不可能な数字を目標値としてしまう。
これでは、逆に現地事業が開始してから
到底達成が出来ない数値を追う現場のモチベーションが下がる要因にもなりかねません。
2. 戦略的価値のライン
損益だけでは測れない価値もあります。例えば:
- 重要顧客との関係維持
- (例:日本の重要顧客の海外事進出に伴い、現地取引と関係性を保つために同時に進出)
- ↑よくあるケース:大手広告代理店が大口顧客の海外進出と一緒についていく等
- グローバルブランドのプレゼンス
- (例:海外に出ている事自体が、ブランディング戦略上重要)
- 他国展開とのシナジー(サプライチェーン・BPO拠点など)
- (例:1か国で採算性を見るのではなく、グローバル全体でシナジーを目論む)
こうした戦略的価値が、
- 立ち上げから◯年時点で
- どの程度具体化しているべきか
も、定性的・定量的に言語化しておきます。
※「海外進出プロジェクトを成功させる「上流〜下流」設計ガイド」については、こちらの記事で解説しています。

「縮小」「撤退」「モデル転換」の3つを分けて考える
海外拠点の選択肢は、単に「続ける/やめる」だけではありません。
1. 縮小(スリムダウン)
- 拠点規模(人員・オフィス)を縮小
- 商品・サービスラインアップを絞り込む
- 高コストな活動(展示会乱発・不要な広告など)を削減
まだ可能性はあるが、現状の規模・構えが大きすぎる場合に有効です。
2. 撤退(クローズ)
- 現地法人の清算・撤退
- 取引先・顧客への対応
- 人員の退職・異動・補償
事業としての継続性・可能性が低いと判断される場合に選択しますが、
きちんとしたプロセスで行えば「再挑戦のための整理」として機能します。
※ただし、多くの国では現地法人の撤退には多くのコストと時間を要する為、撤退→清算とするか、一時的に休眠とするか、検討する必要があります。
3. モデル転換(スキーム変更)
- 100%子会社 → 代理店・ディストリビューター経由へ
- 自社直営 → ライセンス・フランチャイズモデルへ
- フル機能拠点 → BPO/開発一部残し など
事業のやり方を変えることで、投資・リスクを抑えつつ市場プレゼンスを維持する選択肢です。

撤退・縮小を実行する際のステップ
ここでは、実際に「縮小 or 撤退」を決めた後の実務ステップを整理します。
ステップ1:現状把握とステークホルダー整理
- 財務状況(BS/PL/CF)の確認
- 契約関係(顧客・パートナー・オフィス・リース等)の洗い出し
- 関係者(社員・駐在員・本社部門・大口顧客等)のマッピング
ステップ2:基本方針の決定(経営レベル)
- 縮小/撤退/モデル転換のいずれにするか
- スケジュール感(◯カ月〜◯年)
- 追加投資が必要か/抑制するか
ステップ3:人に関する対応
- ローカル社員の処遇(退職・異動・再配置等)
- 駐在員の帰任・配置転換
- 必要な場合の退職金・補償・サポート
ここは、**「社内にどんなメッセージを残したいか」**の観点も重要です。
ぞんざいな扱いは、将来の海外採用・ブランドにも悪影響を与えます。
※拠点閉鎖に伴う労務対応「ベトナムの場合」:
従業員への労働契約終了の通知:
- 原則:閉鎖の決定日から7日以内。
- 実務上:30日~45日前に通知が望ましい (*労務トラブルを防ぐ為)
支払い義務:
- 契約終了日から14日以内に、未払い給与・退職手当の支給を実施
- 2009年以降の雇用期間:勤続1年につき0.5ヶ月分の給与
- 法定退職金に加えて、円満な労使関係を維持するために追加補償金(通常1〜3ヶ月分)を支払うのが一般的
社会保険手続き:
- 契約終了後:速やかに手続きを完了させる
従業員への労働契約終了の通知:
この費用の試算も早い段階で算出して検討する必要があります。
※ベトナム法人撤退ガイドは、こちらの記事で解説しています。
ステップ4:顧客・パートナーへの対応
- 主要顧客への個別説明
- 代替サービスの案内(他拠点対応・パートナー紹介 等)
- 代理店・ディストリビューターとの契約整理
「終わり方」が今後の評判・再進出に直結するため、
短期的コストだけでなく、中長期のブランド影響を踏まえた対応が求められます。
ステップ5:資産・知的財産・ノウハウの取り扱い
- 在庫・設備・IT資産の処分/移管
- 顧客データ・ノウハウ・マニュアルの回収・整理
- 商標・ドメイン・ライセンス等の権利関係の整理
ここをきちんとやるかどうかで、「撤退が次の海外戦略の資産になるか/ならないか」が決まります。

撤退・縮小を“失敗”で終わらせないために
ポイント1:プロジェクトとして正式に位置づける
- 「なんとなくフェードアウト」ではなく、
しっかりとした**プロジェクト(計画・責任者・KPI・スケジュール)**として扱うことが重要です。
ポイント2:学びを形式知化する
- なぜうまくいかなかったのか(仮説ではなく、データとヒアリングに基づいて)
- スキーム・人材・ガバナンス・市場選定など、どこにボトルネックがあったのか
- 次の海外プロジェクトで「何を変すべきか」
を、社内で共有できるレベルまで落とし込みます。
この振り返りを詳細かつ正確に行う事は、最も重要なプロセスとなります。決して組織内で犯人捜しのような最悪のプロジェクトにならないように、必要に応じて専門家を交えて適切な振り返りを行う事が、次につながる重要な資産となります。
ポイント3:現地関係者への敬意と配慮
- 現地社員
- パートナー企業
- 顧客
への丁寧な対応は、**将来の再進出・別国展開の際の“無形資産”**になります。
※「失敗事例から学ぶフィリピン進出:日本企業が陥りがちな5つの落とし穴と対策」については、こちらの記事で解説しています。

Social Zeroが支援できること:再設計とクローズの「第三者視点」
当社 Social Zero では、
- 既存海外拠点の「現状診断」
- 縮小・撤退・モデル転換のシナリオ比較
- ステークホルダー別のコミュニケーション設計
- 実務プロセス(人・契約・資産・顧客対応)のプロジェクトマネジメント
- 現地法人の清算作業
- 次の海外戦略への「学び」の整理
といった形で、再設計とクローズの両面を第三者視点でサポートしています。
「本当は見直したいが、社内だけでは言い出しづらい」
「進出時の前提が変わっており、今の戦略が最適か自信がない」
といった段階からでも、
まずは「棚卸し」と「選択肢の整理」からご一緒できます。
まとめ:海外拠点の撤退・縮小は“最初から設計しておくもの”
- 海外拠点の撤退・縮小は、「失敗の尻ぬぐい」ではなく、戦略の一部として設計すべきもの
- 進出前に撤退・縮小ラインを決めておくことで、感情や社内政治に左右されにくくなる
- きちんとしたプロセスで行えば、撤退自体が「次の海外戦略の資産」になる
御社が今、
- 既存の海外拠点をどうするか迷っている
- 縮小・撤退を検討しているが、社内で議論が前に進まない
- これからの進出に向けて「撤退設計も含めた戦略」を固めたい
という状況であれば、一度外部と一緒に設計し直してみる価値があります。
※「日本企業のためのフィリピン進出ガイド」については、こちらの記事で解説しています。
海外拠点の撤退・縮小ライン設計に関する個別相談はこちら
御社の現状とお考えを伺ったうえで、
現実的な選択肢と、最も筋の良い進め方をご提案いたします。
※「ベトナム進出成功の鍵」については、こちらの記事で解説しています。



