なぜスタートアップの海外進出は重要なのか。具体的に展開が進まない理由と解決策

スタートアップの海外進出は、多くの企業にとって魅力的な選択肢ですが、私自身ベンチャー企業出身として、数多くのスタートアップと協働してきた経験から、彼らが海外進出の重要性を理解しながらも、実際に踏み出せない複雑な課題に直面していることを肌で感じてきました。

本記事では、日本のスタートアップ企業の海外進出における重要性、多くの企業が進出に踏み切れない理由、そしてこれらを踏まえた効果的な取り組みについて詳しく解説します。

海外展開には主に2つの目的があります。一つは海外市場へ商品やサービスを展開する「販路拡大」、もう一つは工場設立等による「コスト削減」です。本記事では「販路拡大」の観点に絞って議論を進めます。

スタートアップが海外進出すべき理由

日本の人口減少、少子高齢化、ITの急速な発展など、日本企業がグローバル市場へ進出すべき理由は多岐にわたりますが、スタートアップ特有の海外進出の意義に焦点を絞って整理していきます。

大きな市場での急成長を狙うことができるから

スタートアップは限られた資源と短期間での成長が求められます。国内市場だけでなく、規模が大きく成長率の高い海外市場に進出することで、短期間で大きな市場シェアを獲得できます。

具体的な事例として、株式会社ゼロボードの海外展開が挙げられます。
同社は、2021年の設立後わずか2年で急速な海外展開を実現しました。2023年にはタイに現地法人を設立し、主要なタイ企業とパートナーシップを締結して、現地でのサービス浸透に注力しました。
さらに、2024年3月にはインドネシアの工業団地における温室効果ガス排出量可視化ソリューションの実証実験を開始するなど、グローバル展開を加速させています。

日本国内市場での成長が順調なタイミングに戦略的に海外展開に投資することで、グローバル単位でのビジネス展開ができている良い例です。

https://www.zeroboard.jp

https://www.zeroboard.jp/news/1099

https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2024/c92625e79e279c05.html

現地ニーズに素早く柔軟に適応できるから

スタートアップの強みは、ビジネスモデルやサービスを迅速に変更できる柔軟性です。海外進出を通じて新市場のニーズに触れることで、製品を素早く最適化できます。

株式会社ジウンの事例が参考になります。
同社は、国内の医療用画像管理システム規制の強化が転機となり、海外展開に踏み切りました。
結果として同社の提供サービスである「SonicDICOM® PACS」は、現在200カ国以上の病院や研究・教育機関で利用されています。
同社は、各国の現地文化にプロダクトをしっかりと適応させているのが特徴です。
例えば、アラビア語圏では、文章の読み方から画面のユーザーインターフェース設計まで、現地の文化や習慣に合わせて細部にわたりカスタマイズしています。

一見細かいようですが、現地へのローカライズは海外展開をする上で大変重要です。このような現地化は、スタートアップ企業がより迅速に、柔軟に対応できることも多くあります。これは大手企業にはないスタートアップの強みだとも考えられます。

https://fujidenolo-s.co.jp/

競争環境の少なさを活用することができるから

国内で競争が激しい分野でも、海外には未開拓の市場が存在します。先行者利益を得ることで、早期に競争優位を確立することが可能です。

興味深い事例として、オイシイファーム(Oishi Farm)が挙げられます。
同社は、日本生まれの甘いイチゴを工場生産することで注目を集めている、アメリカ・ニューヨークを拠点とする植物工場ベンチャー企業です。同社は「販路拡大のための海外進出」とは異なり、創業当初から海外を拠点としているケースではありますが、参考になる点が多いため紹介します。

日本ではかつて植物工場ブームが早くから訪れていました。
その一連のブームを経て、国内の業界では「植物工場は技術的に興味深いものの、農作物の価格が短・中期的に高くなるため採算が取り辛い」という認識が広がりました。
一方で、海外では日本より10年遅れて植物工場ブームが到来。同社は日本でのこの一連の経験を踏まえ、高価格でも付加価値の高いイチゴに特化した事業モデルを構築し、大きな成功を収めています。

同社は2024年現在、総額約200億円(日本円換算)のシリーズB資金調達を完了しました。さらに2025年には、首都圏に世界最先端の植物工場を研究開発する拠点「オープンイノベーションセンター」を設立予定であり、今後のさらなる成長が期待される企業です。

https://oishiifarm.co.jp

自分たちのビジネスをグローバルな視点で俯瞰し、どの市場で戦うべきかを見極めた結果、海外市場を主軸とする選択は、スタートアップ企業にとって極めて合理的な戦略といえます。ビジネスモデルやプロダクトが特定の海外市場でより高い競争力を発揮するなどがあれば、その市場に注力することは成長を加速させる効果的な手段となります。

補足:海外進出は投資家の興味と評価向上につながることも

スタートアップにとって資金調達は成長の鍵です。
海外進出によってグローバル市場での成功可能性を示すことができれば、国内外の投資家からの評価が高まり、資金調達の規模や条件がより有利になる可能性があります。

資金調達のためだけに海外進出を行うのは、本来の目的を見失っており手段が目的化しているため選択すべきではありません。
しかしながら、スタートアップの経営者は、このような傾向が実際にあることを認識した上で、戦略的な判断を行う際の一つの要素として捉えておくと良いでしょう。

海外進出になかなか踏み切れないスタートアップの現状

日本のスタートアップは、自社にとって海外進出が適していることを理解していても、実際に踏み切れない企業が多く存在します。筆者の経験を踏まえ、その理由を以下に述べます。

変数が多く、不確実性が高いため

スタートアップの特徴は、常に変化する外部環境と内部状況への迅速な対応です。
日々の状況変化に適応し、自社の成長を維持することに全力を注ぐあまり、中長期的な戦略投資が後手に回るケースが頻繁に見られます。
目の前の課題解決に集中するあまり、将来の大きな機会を見逃してしまうリスクがあります。

資金とリソースに限りがあるため

スタートアップは、資金とマンパワーに限りがあります。
そのため、国内の既存事業に目が向きがちです。順調に既存事業が成長している場合、その事業の更なる顧客獲得のために広告予算を投下し、即戦力となる人材の採用に多くのリソースを割くなどです。
これらの取り組み自体は決して悪いことではありません。

しかし、国内市場でのシェア拡大に固執するあまり、グローバル市場における成長の可能性を狭めてしまっている企業が少なくありません。
限られた視野で事業を捉えるのではなく、より広い市場機会を検討することが重要です。

ステークホルダーが多く利害が一致しないため

スタートアップの海外展開をさらに困難にしている要因の一つは、投資を行うステークホルダーの保守的な姿勢です。ベンチャーキャピタル(VC)や投資家は、スタートアップの海外展開に対して慎重な判断を下すことが少なくありません。

特に、投資家が短期的な投資回収に強く関心を寄せている場合、近視眼的な投資戦略が採られ、スタートアップのグローバル展開への挑戦が抑制されるケースも見受けられます。このような状況は、スタートアップにとって大きな課題となり得ます。

海外進出の実現に向けてスタートアップが今できること

スタートアップ企業の海外進出の実現に向けて、どのようなアプローチが効果的でしょうか。

現状を踏まえると、「海外進出による自社へのリスクを最小限に抑えながら、経営リソースを過度に圧迫しない取り組み」が現実的な対策や方針だと考えます。

大きく海外展開に舵を切るとなる場合も、まずはステークホルダーとの議論が重要になります。「海外進出による自社へのリスクを最小限に抑えながら、経営リソースを過度に圧迫しない取り組み」に今から自社の経営メンバーで着手し海外進出の商機や進出の合理性を探ることで、ステークホルダーとの議論においても質や深みが増すでしょう。

以下に、具体的な3つのアプローチを提案します。

コミュニティを活用し、知見を蓄積する

スタートアップや海外進出に特化したコミュニティに経営層が主体的に参加することは、費用対効果が高く、リスクも最小限です。インターネット上では見つけにくい情報も、実際に直接対話することで、海外進出を進めている企業の貴重なインサイトを得ることができます。

例えば、Puzzle Ring Factoryが主催している『海外進出コミュニティ』は、スタートアップとベンチャーキャピタルの枠を超えたネットワークを構築し、成功事例と失敗から学ぶ教訓を共有しています。このようなコミュニティでの知識交換を通じて、海外進出の成功確率を高めることができます。

https://www.puzzle-ring-factory.com/community

金銭的・事業的リスクの少ない方法で進出する

まずは、オンラインを最大限に活用し、越境ECでの市場参入をするなども一つです。
また、海外向けのサービスサイトを試験的に立ち上げ、市場の反応を確認するのも良いです。例えば、現地言語に対応したサービスサイトを準備し、一定の引き合いが見込めるまで商品販売を控えるアプローチも一案です。(ただし、各国の販売免許や資格については事前に綿密な調査が不可欠)

多くのスタートアップが取り入れているリーンスタートアップの考え方やアプローチを活用し、柔軟かつ慎重に前進することが重要です。

毎月少額・短時間の投資で海外進出に取り組む

海外進出は通常、経営層を中心に意思決定されますが、多くのスタートアップの経営メンバーは日常業務に追われ、十分な時間を確保するのが困難です。そのため、事前に大きな時間枠を設けても、実際には他の緊急対応に追われてしまうことがよくあります。

毎月一定の少額と短時間を海外進出の準備に投資することで、継続的かつ現実的なアプローチが可能になります。

まとめ

日本のスタートアップ企業の海外進出は、企業成長における重要な戦略的選択肢です。多くの企業が進出に躊躇する背景には、高いリスクと複雑な市場参入プロセスがあります。筆者の経験・知見をもとにこれらの課題に対する現実的かつ実行可能なアプローチを提示しました。

海外展開については、従来型の一般的な方法が成長途上のスタートアップ企業にとって高いハードルとなっている場合も多いです。
そのため、自社の具体的な状況を正確に分析し、自社が海外進出を着実にかつ持続可能な形で推進していくことが重要です。

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https://social-zero.com/news/20241126/

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