バングラデシュのオフショア開発等IT拠点設立のメリットや成功ポイント

最近、アジアの主要国では人件費の高騰をリスクと捉える日系企業が増加しています。例えば、ベトナムでは2018年から2023年にかけて、月額基本給が約20~30%上昇し、2013年から2023年の10年間では2倍以上に達しています(2023年の為替差を考慮し、日本円換算)。

このような背景から、バングラデシュの人件費の安さが際立ち、オフショア拠点や海外進出を考える企業にとって、ますます魅力的な選択肢となっています。


同国政府は「スマートバングラデシュ」や「デジタルバングラデシュ」といった政策を推進し、プログラミングやソフトウェア開発のスキルを持った人材の育成に力を入れています。
さらに、バングラデシュのIT人材は英語が流暢で同国内のオフショア開発企業は、ヨーロッパに主なクライアントを持つ企業も多いです。
また国内には約60万人のITスキルを持つフリーランサーがいるとされており、グローバルプロジェクトの知見と豊富な若い労働力と国を挙げたIT教育の推進によって、今後も優秀な若手IT人材が増加すると期待されています。

もちろん、ベトナムやフィリピンにも優秀なIT人材は豊富にいます。しかし、ベトナムやフィリピンなどの進出先として人気の国ではすでに人材の争奪戦が始まっており、特にベトナム等では企業の優秀なIT人材確保が一層困難になっています。そのため、人材確保においてまだ競争が激化していないバングラデシュが、新たなオフショア開発拠点の候補地として注目されています。

この記事では、バングラデシュの最大手IT/BPO企業の1社とパートナーシップを締結しており、これまで多くの現地オフショア開発企業に携わったきた当社の知見をもとに、バングラデシュのオフショア開発拠点を設けるノウハウをご提供致します。

バングラデシュIT開発拠点設立のメリット

バングラデシュに、オフショア開発などのIT開発拠点を設立するメリットを述べていきます。

人件費が安価でコストに優位性がある

コスト削減は、多くの企業がオフショア開発に求める必須要件と言えます。
バングラデシュは人件費が非常に安価な国です。バングラデシュのオフショア開発の人件費は、日本の約2分の1ほどとなります。

例えば、日本のSESで月70〜90万円の人材が、バングラデシュのラボ型開発だと人月30〜40万円になります。また、日本で直接雇用した場合に月給30万円程度の人材が、バングラデシュでは月給10〜13万円のレンジになるイメージです。バングラデシュ現地のIT開発企業のCTOクラスでも、日本円で20万円台から30万円台の給与レンジとなります。

他のアジア諸国と比較しても安価なバングラデシュ

ベトナム、フィリピン、インドだけでなく、その他のアジア主要都市と比べても群を抜いて人件費が低い傾向があります。
現時点でアジア主要都市の中でダッカより人件費が低いのは、ミャンマーのヤンゴンとスリランカのコロンボだけです。

オフショア開発市場の競争が激化しているインドやベトナム等では、日本企業等の外資が進出する際には、年間の昇給率を10%を超えてくる水準で上げないと良い人材の定着は難しくなってきているのが現実です。

その点、それらの国よりもさらに給与水準の低いバングラデシュでは、採用面での競争優位性や定着に競争性を持たせる為に仮に同水準の昇給率を維持しても給与ベースが低い為に、コストの優位性は高いと言えます。

ITスキルを持つ人材が豊富

バングラデシュ全国では、200万人を超えるIT就業人口がいるとされ、2025年には300万人まで加速すると言われています。

また、ソフトウェア開発ではお馴染みのソースコードをオンライン上で共有・管理をするツールを提供しているGitHubの発表データを見ると、2022年の第3四半期から2023年の第3四半期を比較すると、バングラデシュのエンジニアのアカウント数が最も上昇率が高い事が分かり、バングラデシュのアカウント数だけで945,696名のエンジニアがGitHubのアカウントを持っています。

2022年の第3四半期から2023年の第3四半期での年間のGitHubアカウント増加率 
データ参照元:https://restofworld.org/2024/github-developer-bangladesh-nigeria-pakistan/

一方で、日本は同時期(*2023年の第3四半期)のGitHubのアカウント数は2,886,350とバングラデシュの約3倍のアカウント数があり、今後2030年代まで人口が伸び続ける事が予想がされるバングラデシュでは、その数は更に今後伸びていくと予想できます。

2023年第3四半期の国別GitHubアカウント数
データ参照元:https://restofworld.org/2024/github-developer-bangladesh-nigeria-pakistan/

大学や専門学校での積極的なIT教育

バングラデシュには、ダッカ大学、バングラデシュ工科大学(BUET)、ノースサウス大学など、IT教育を提供する多くの大学があります。これらの大学は、コンピュータサイエンス、情報技術、ソフトウェアエンジニアリングなどの分野で学士や修士のプログラムを提供しており、専門学校や技術教育機関でも、IT関連のコースが多数提供されています。バングラデシュ全国で見ると、100以上の大学や1,400以上の単科大学でIT教育プログラムが提供されています。

また、国としてIT産業に力を入れているバングラデシュでは、毎年1万人以上のIT人材が市場に参入していると言われています。政府の支援が拡充してきており、IT人材の増加が見込まれる一方で、国内でのIT人材の企業側の受け入れキャパがまだ少なく、優秀なIT人材の国外流失も危惧されています。

そのためにバングラデシュ政府は、IT産業における外資系企業の優遇策を設けており、IT人材の受け皿となる企業の誘致を推進しています。

積極的な政府の支援

バングラデシュは政府が積極的にIT投資をしています。いくつか施策を紹介します。

デジタルバングラデシュ・スマートバングラデシュ

デジタルバングラデシュは、2008年に当時のハシナ首相が選挙マニフェストの一環として名言し、2009年から2021年までの13年間で技術的な後進国のバングラデシュを大規模なデジタル化に変革すべく歩みを続けてきました。
その結果として、この13年間で国民一人当たりのGDPは4倍にまで成長し、バングラデシュはのインターネット普及率は100倍に増加し、多くのバングラデシュ人が情報や教育、娯楽、ビジネス、貿易等にインターネットの活用が出来るようになり、また政府と民間のデジタル導入により大きな発展がなされた事が証明されました。

スマートバングラデシュは、2021年から2041年までの20年間で、IT産業をバングラデシュの現在の主要産業である縫製・繊維産業に次ぐ主要産業に成長させるべく、IT産業支援や人材育成を推進しています

投資促進制度やインセンティブ

外資系企業に対する優遇措置として、バングラデシュでは様々なインセンティブを提供しています。

デジタルバングラデシュ政策の一環として、バングラデシュ全土にハイテクパークを設置しており、下記の減税措置を受ける事が出来ます。


経済特区およびハイテクパークデベロッパー会社

設立から10年間法人税100%減税
設立11年目法人税70%減税
設立12年目法人税30%減税

経済特区内に設立した企業

設立から3年間法人税100%減税
設立4年目法人税80%減税
設立5年目法人税70%減税
設立6年目法人税60%減税
設立7年目法人税50%減税
設立8年目法人税40%減税
設立9年目法人税30%減税
設立10年目法人税20%減税

ハイテクパーク内に設立した企業

設立から7年間法人税100%減税
設立8~10年目法人税70%減税

 参照元:JETRO https://www.jetro.go.jp/world/asia/bd/invest_03.html

親日国で勤勉な国民性

なぜバングラデシュ人は親日で勤勉なのでしょうか。これには歴史的な背景も関係しており、一つずつ説明していきます。

日本とバングラデシュの関係性

もともとバングラデシュはアジアでも有数の親日国として知られています。
その背景には、1971年にバングラデシュがパキスタンから独立した際、日本が先進国の中で最初に独立を承認したことがあります。
また、ODA(政府開発援助)を通じて、バングラデシュのインフラ開発などを長年支援してきたことも挙げられます。

また、2023年4月に当時の岸田総理に招待され、バングラデシュの当時のハシナ首相が来日し、バングラデシュの独立以来の両国の長きにわたる友好関係に基づき、両国で2014年に立ち上げた「包括的パートナーシップ」に基づく両国の著しい進展の達成を確認しました。
加えて2022年に、日本とバングラデシュは外交関係樹立50周年を迎え、二国間関係を「戦略的パートナーシップ」に格上げされています。

実際にバングラデシュに行くと、バングラデシュの方々は我々が日本人だと気付くと非常に親切にしてくれます。特に、昨今のバングラデシュのIT企業は日本市場参入や日系企業との取引に非常に関心が高く、企業間でのコミュニケーションでも非常に友好的な対応をしてくれます。

おおらかで日本人に近いパーソナリティ

ベンガル人が88%と人口の大部分を占めるバングラデシュでは、我々日本人から見ると隣国のインドの人々と見た目は似ているものの、実際にバングラデシュとインドを訪れてみると、両者の違いは歴然です。

インドに渡航された事がある方はイメージが沸くと思いますが、インド人は非常にアグレッシブな印象があります。空港を降り立った瞬間からオートリクシャやタクシー等の客争奪戦が激しく始まり、ビジネス面でもパーソナリティはアグレッシブで熱量が高い印象を受けます。

一方で、バングラデシュはこちらから話しかけないと現地人から話しかけられることもほぼ無く、海外の空港でよく見かけるタクシーの客引きもほとんどありません。

また、現地のバングラデシュ人は非常に穏やかで大人しく、どこかシャイで我々日本人と近いパーソナリティを持つ印象を受けます。
私はこれまでバングラデシュ現地で様々な企業を訪問し、現地企業の経営陣や従業員の方々と交流する機会をいただきました。また、ローカルエリアのマーケットなどでも現地の人々と触れ合いましたが、どの層の方々も総じて穏やかな印象を受けました。

一方でこちらから話しかけたり困っていると助けてくれる方も多く、日本人が現地で住んでビジネスをしていくと想定した場合に、まだインフラが整っていない等のハード面は別として、コミュニケーションやマネジメント面では相手の文化を尊重し違いを受け入れる事が出来れば、比較的ハードルは高くないと思われます。

バングラデシュエンジニアの人月単価と技術力

エンジニアの単価や技術力は開発拠点を設けるにあたって事前に把握しておきたいポイントでしょう。
続いて、バングラデシュエンジニアの人月単価と技術力について見ていきましょう。

人月単価の現状

エンジニアの平均人月単価の具体例を述べます。

「ラボ型契約でのエンジニア単価」

ジュニア~ミドルレベル30万円~35万円
ミドルレベル35万円~45万円
シニアレベル45万円~60万円

人月単価はエンジニアの経験年数やスキル、開発言語によって変動はありますが、上記の費用感が現在の多くのバングラデシュのオフショア開発企業の人月単価となります。

実際に委託をする際には、そのエンジニアのスキル感やご自身の会社でのプロジェクトにマッチするか見極める為に、最小単位でのトライアル開発を行う等でスタートしてみるとミスマッチがあった際にもリスクヘッジになります。

この最低契約人月等は、バングラデシュのオフショア開発企業では多くが交渉出来るため、トライアルで試したい旨を伝えると基本的には受け入れてくれる企業が多いでしょう。

留意点として、トライアルでの見極めをする際には、1か月で見極めるのは難しく、ソフトウェア開発現場では、一般的にチームの生産性は徐々に上がっていくため、コミュニケーションやフローの見直しを図り改善をしていく必要があります。

仮にトライアル期間で何かしらの懸念点が出た際には、エンジニアのスキル以前に正しいコミュニケーションが出来ているか、ドキュメントに不備はないか、認識齟齬が発生していないか等の振り返りを詳細に行う事が、生産性や品質を向上させる上で重要な要素となります。

逆に、その振り返りや改善が出来ないとどのようなエンジニアがアサインされても生産性や品質の改善には結びつかない為、特に初めてのオフショア開発をされる企業は、その点を留意点として事前に認識を持つ必要があります。

技術力の向上とトレンド

最近の技術トレンド(開発言語)についてです。
バングラデシュで人気のプログラミング言語は以下となります。

PythonC#
JavaScriptSwift
JavaGo
KotlinRuby
CRust
C++R

また、近年著しいAI市場の隆盛により、AI市場について知りたい方も多いと思います。
下記のグラフの様にバングラデシュのAI市場規模は、2023年以降毎年30%ほど市場規模が拡大していくと予想されています。AI市場規模の拡大と共に、国内でのAIエンジニアの増加も想定されます。

    データ参照元:Statista    https://www.statista.com/outlook/tmo/artificial-intelligence/bangladesh

バングラデシュでの事業成功のためのポイント

最後に、バングラデシュにオフショア開発などのIT拠点を設けるにあたって、成功のためのポイントをお伝えします。

文化的理解とコミュニケーション面での工夫

まず初めに我々日本企業が海外進出をする際には、進出国の文化の尊重と理解が重要な要素となります。

例えば、バングラデシュは国民の90%以上がイスラム教徒となり、現地のオフショア開発企業等でもお祈り部屋やお祈りの時間を設ける等の配慮は必要となります。また家族との時間を大切にする国民性でもあり、その時間を無理に奪ってしまうような働き方は馴染みません。

プロジェクトの進め方でも文化的な理解の違いはあり、何を求めているのかその基準やスケジュール等を明確に提示して理解度合いを見極める必要があります。例えば、両国間でプロダクトの開発をしていても、日本と海外の一般的なエンジニアでは様々な基準が異なります。

例として、“品質や納期の根本的な捉え方”があります。これは海外では、50%〜70%の出来のプロダクトでも素早くリリースして、徐々にブラッシュアップをしていく。という方が一般的であり、日本とは対称的です。
また、納期も海外では目安と捉える傾向があり、対照的に日本では納期は絶対という認識がありますが、そのような点でも基本的な認識に違いがある為、事前に認識のすり合わせを行う必要があります。

また、コミュニケーション面においても特にソフトウェア開発の現場では、日本特有のハイコンテクストなコミュニケーションはプロジェクトの失敗要因になりかねません。海外では日本人同士の“行間を読む”ような曖昧な表現でのコミュニケーションでは意図が伝わらない為に避けるべきコミュニケーションとなり、特に業務に於いては明確に5W1H等を意識しながら具体的なコミュニケーションを心がけると相手に伝わりやすく認識齟齬が発生しづらくなります。

優秀な人材が定着するための施策を実行する

バングラデシュを含むオフショア開発企業にとって優秀な人材の定着は、開発品質向上だけでなく、中長期的な組織強化や事業拡大に必須の取り組みであり、その為に企業として取り組むべき施策はいくつもあります。

例を挙げると、優秀な人材ほど向上心やパフォーマンスが高い為、より良い環境やより速い昇進・昇給のチャンスを求めます。また、優秀な人材は競合他社からの引き抜きも多い為、ここで日本企業特有の年功序列の昇進・昇給の人事評価制度を取り入れると、優秀な人材の定着はまず不可能であると言えます。

特に商習慣が特有な日本企業の海外進出においては、現地の商習慣や人材の特徴等に合わせ、市場にアジャストした評価制度の構築が必要になります。

また、エンジニアであれば新しい技術に触れる機会や、適切な福利厚生、本人のキャリアプランを叶えられるような環境づくりが定着を促します。

しかしながら多くの企業では、海外進出初年度で充実した制度作りや福利厚生の提供は難しい事が多く、徐々に構築しながら現地の従業員の声を取り入れた制度設計を行う事で、より従業員に受け入れられやすく人材の定着に繋がる施策となります。

現地パートナーとの協力の重要性を理解し推進する

バングラデシュのような将来性の高い市場は、現時点において中長期的な市場拡大によるチャンスは大きいものの、ソフト面・ハード面共に先進国のように整っている訳ではない為、現地のパートナーのサポートを得ながら市場に参入する事で、参入障壁の緩和を得られる機会となります。

現地法人の登記やライセンス、各種契約、採用等はいきなり自社で単独で行うにはリスクが高く、大幅な時間がかかったり、スムーズに行かない事も多くなると予想されます。そのような手続きは、バングラデシュに精通しているパートナーが行う方が効率的である為、役割分担を行い自社では事業の構築・推進にリソースを注げるようにするべきと考えられます。

まとめ

バングラデシュは、低コストで豊富なITスキルを持つ人材を擁し、政府の積極的な支援を受けながらIT産業の発展に注力しています。そのため、オフショア開発や海外進出を検討する企業にとって、今後ますます注目される市場と言えるでしょう。特に、人件費が安価で競争が激化していない点は、大きな魅力です。

しかしまだ日本企業の進出先として成熟している市場でないため、成功するためのポイントをしっかり押さえて、必要に応じて信頼できるパートナーと一緒に進めていくのが良いでしょう。

当社はバングラデシュにおける豊富な経験と実績を活かし、現地でのオフショア開発拠点設立や人材確保をトータルでサポートします。新たな可能性を切り拓くために、ぜひご相談ください。

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