ベトナムM&A市場2024年動向と2025年予測からスタートアップ・中小規模企業による買収戦略を考える

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ベトナムでは近年、M&A市場が活発化しています。特に、海外の外資企業とのM&Aが進展しており、東南アジアへの進出を目指す企業が、ベトナム企業を買収し傘下に収める動きも多く見られます。

この記事では、アジアでのビジネスに長年携わり、現在もベトナムを拠点に活動している筆者が、2024年のベトナムM&A市場の動向と2025年全体方針予測を踏まえ、ベトナムでのM&Aを検討しているスタートアップや成長途上のベンチャー、地場に根付いている中小企業がどう取り組んでいくべきかを考えていきます。

2024年のベトナムのM&Aの数値データ

まず、ベトナムの2024年のM&A市場のデータについて述べます。

ベトナム外国投資庁によると、2024年の外国企業による直接投資は件数・金額ともに前年を上回りました。
2024年の対内直接投資(認可ベース、速報値、出資・株式取得を除く)は、新規・拡張の合計で4,914件(前年比4.6%増)、認可額は336億8,805万ドル(10.0%増)でした。

https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/01/71ad810e0073abdb.html

KPMGによる「Vietnam M&A 2024: Blossoming Opportunities Rooted in Solid Foundations」にて公開されている2024年1~9月期におけるベトナムのM&A市場のハイライトデータは以下です。

Vietnam M&A 2024: Blossoming Opportunities Rooted in Solid Foundationsによるベトナムハイライト
  • M&A取引総額:32億米ドル
  • 取引件数:220件以上
  • 主要3セクター(不動産、消費財、産業財)の取引額構成比:88%
  • 開示取引の平均取引額:5,630万米ドル
  • 最大取引額:9億8,200万米ドル
  • 前年同期比成長率:45.9%増

出典:KPMG Vietnam M&A 2024: Blossoming Opportunities Rooted in Solid Foundations

2024年1〜9月期のベトナムにおけるM&A市場は、東南アジア市場全体が停滞する中で、特筆すべき成長を示しました。タイ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピンの合計取引額が前年比11.3%減少する中、ベトナムは45.9%の成長を達成しています。

ポイントをいくつかピックアップしてみていきましょう。

ベトナム地元企業が牽引した大型M&A

M&A市場が2024年の9ヶ月間で前年比45.9%の成長となったベトナムですが、この成長を牽引したのは、ベトナム国内での大型取引です。

Vingroup(ビングループ)はベトナムを代表する財閥グループで、不動産、リゾート開発、教育事業、自動車産業など多角的に事業を展開するコングロマリットです。
同社は2件の大型取引(合計約14億米ドル)を実施し、それは市場全体の約半分を占める規模となりました。

国内取引が取引額の50%以上を占めたことは、地元企業が積極的にM&Aを活用して成長を図っていることを示しています。

この傾向は、ベトナム企業が自社の競争力を強化し、市場での地位を確固たるものにするための取り組みであり、ベトナム国内市場の成熟度が高まっていると理解してよいでしょう。

また、Vingroupはベトナム全国での豊富なリソースや財源を基に大規模開発や大規模事業を手がけており、Vingroup主導のもとベトナム全土で日系大手企業が参画したスマートシティの実証実験が行われています。
積極的なM&Aを図って更なる事業拡大を図る一方で、市場の成熟と共にこのような資本力のある大手企業の更なる躍進が目立ちます。

不動産・消費財・工業セクターの活発化

2024年1〜9月のM&A取引は、不動産(53%)、産業財(21%)、消費財(14%)の3セクターで全体の88%を占めています。

前年と比較すると、消費財と産業財セクターが金融サービスとヘルスケアに代わって主要な貢献セクターとなり、不動産は引き続き最大のシェアを維持しています。

特に不動産セクターは、政府の新たな土地法の施行や企業債市場の緩和により、投資家の信頼が回復し、取引が活発化しました。

消費財セクターでは、Masan Group(マサングループ)を中心とした取引が目立ちました。
Masan Group(マサングループ)は、ベトナムを拠点に小売や消費者向け製品などを展開している大手企業です。
同社に対する米国のBain Capitalの投資は、市場に大きなインパクトを与えました。

これまでベトナムは、安価な労働力を持つ生産拠点としての位置付けが強く、主に製造業に関するM&A案件が多かった国でした。

しかし近年の不動産や消費財セクターの活発化は、国内の中間層の増加による業界の成長などがデータに現れていると考えることができます。
ベトナムの消費市場の成長可能性と、外国投資家にとっての魅力的な投資機会を示しています。

筆者は現在もベトナムを拠点としていますが、ホーチミン等の大都市中心部では、コロナ前よりは落ち着いたものの、不動産価格の上昇が続いており、商業への影響も見え始めています。ホーチミン中心の一等地に店舗を構えるナショナルブランドの旗艦店のような店舗の相次ぐ移転も不動産価格の上昇による家賃高騰で立ち退きを余儀なくされています。

またコンドミニアム等の建設も大都市圏を中心に引き続き建設ラッシュが継続しており、商業もよりトラディショナルからモダンへと移り変わっている様子を目にしています。

2025年のベトナムのM&A方針予測

結論から申し上げると、2025年のベトナムM&A市場はさらなる活発化が予想されています。2024年に見られた国内企業主導のM&A活動に加え、外国投資家の関与が増加し、より多様な取引が実現する可能性が高いとされています。

外資規制緩和による外国企業進出が加速

ベトナム政府は外資規制緩和を進めており、実際、多くの外国企業がベトナム市場に進出しています。この流れは今後さらに強化され、M&Aの機会が広がると予測されています。特に製造業やIT分野を中心に、外国資本の流入が積極的に受け入れられています。

IT・テクノロジー分野のM&A活発化

そのため、ITやテクノロジー分野では、企業の合併や買収が活発化するでしょう。既存企業の競争力強化や新技術の導入を目的としたM&Aが増加し、ベトナムの技術革新がさらに加速することが期待されます。

政府が進めるDX投資によって、ベトナムでは優秀なIT人材も増加しています。

今後、ベトナムは純粋なIT開発部門としてだけでなく、AIなどの先端技術研究の拠点としても注目されると考えられます。

ベトナム現地企業と外国企業の連携の増加

現地の成長企業と外国企業との連携によるM&Aが増加し、より多様な取引が実現することが予想されます。これにより、ベトナム企業はグローバル市場での競争力を強化し、外国企業は現地市場への参入が容易になるでしょう。

経済成長と国内市場の拡大

2025年にはベトナムの経済成長が続き、国内市場の拡大が期待されています。
これに伴い、企業のM&A戦略には新たな視点が求められます。
単に市場シェアを拡大するだけでなく、グローバル競争において競争優位性を確保するため、より戦略的なM&A活動が必要となります。

スタートアップ等、中小規模企業のベトナムM&A戦略はどうすべきか?

上場している大手企業や知名度の高いメガベンチャー企業ではなく、資金や人材リソースが限られているスタートアップやベンチャーをはじめとする中小規模企業は、この状況を踏まえて、ベトナムにおけるM&A戦略をどのように進めるべきでしょうか。
これについて考えていきましょう。

ベトナム企業に価値提供できる差別化ポイントを明確にする 

2025年のM&A市場は活発化が予想され、大手投資ファンドによる案件も増えています。このような状況では、買収金額だけで競争するのは難しく、ターゲット企業にとって「この会社なら一緒になりたい」と思えるような付加価値を示すことが重要になります。

特に中小規模の企業にとっては、単純な資本力だけでなく、技術力・ノウハウ・市場開拓力などを強みとしてアピールする戦略が求められます。

現地のローカル情報に精通した人物からの情報収集が必要

M&A市場が活発化するにつれ、買収候補をネットのリサーチだけで探し、直接アプローチする方法は非効率になっています。
特にベトナムでは未上場企業の情報がネット上にあまり出回っていないため、日本語や簡単な英語で検索できる情報では競争が激しく、すでに他社と交渉が進んでいるケースも少なくありません。

そのため、買収候補企業を探す際は現地のネットワークを持つコンサルタントやM&Aアドバイザーと連携し、自社の強みや要望に合った企業をリストアップしてもらうのが有効です。

コスト削減や販路拡大のために安易にベトナムを選ばない

ベトナムでは近年、物価や人件費が上昇しています。
特にホーチミンやハノイでは優秀な人材の採用競争が激化し、求める人材の確保が難しくなっています。
また、ベトナム市場への販路開拓も、以前のように「日本製」というだけで自動的に売れる状況ではなくなりました。

そのため、M&Aの候補国を選定する際に「とりあえずベトナム」とするのはリスクが高いでしょう。
筆者はベトナムでの外資企業による人材獲得競争の激化を実際に見てきた経験からも、この点には慎重になるべきだと考えています

M&A先の国を決めてから企業選定に進む場合、まずは「本当に自社の戦略に適した国なのか」を十分に精査することが重要です。

ベトナムのローカル企業のDD(デュ-デリジェンス)は特に慎重に

ベトナムでは現在においてもローカル企業では二重帳簿があったり、表面的な経営数値には現れない財務・税務リスクを抱えている事も珍しくなく、国際基準で見た場合にリスクが大きい場合もある為、慎重に精査をする必要があります。

最近では日本企業からのベトナム企業M&Aの問い合わせも増える一方で、ベトナムの商習慣やリスクを考慮せずに交渉を進めてしまうと、思わぬ落とし穴にかかる事も想定されます。この点は日本でM&Aを行うよりもリスクが高く、慎重に進めるべきという前提を持つべきです。

また、最近では、オフショア開発企業等IT企業のM&Aも増えていますが、資産となる人材の質も見極める必要があります。その対象企業に自社が求める層の人材がいるのかや、統合後にすぐ離職する事はないのか、プロジェクトを上流から対応できる人材や回せる人材がいるのか。定量的な数値のみでなく、定性的な部分も分析する事が重要となります。

ベトナム現地企業のM&Aをお考えなら、早めの行動が鍵

2024年のベトナムM&A市場は大きく盛り上がり、2025年もさらに活発化すると予測されています。だからこそ、スタートアップや成長途上のベンチャー企業、中小企業にとっては、競争が激化するレッドオーシャンの中で戦略的に動くことが不可欠です。

M&Aは自社との相性も重要な要素となるため、まずは信頼できる海外進出コンサルタントに相談し、小さく動きながら方針を探るのが良いでしょう。貴社のベトナム企業とのM&Aが成功することを願っています。

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