―― 日本企業が押さえるべき手続き・期間・費用と“やってはいけない順番”
Contents
このページでわかること
- ベトナム・タイで日本企業の撤退・清算が増えている背景
- 「撤退を決める前」に必ず整理しておくべき論点
- ベトナム拠点・タイ拠点それぞれの撤退・清算の流れと実務ポイント
- 期間・費用の目安と、実務上“やってはいけない”撤退の順番
- Social Zeroがベトナム・タイの撤退・清算で伴走できる範囲

1. ベトナム・タイ撤退が増えている背景
ベトナムやタイは、製造業・商社・サービス業など、多くの日本企業が進出してきた主要マーケットです。
- ベトナム進出日系企業数:約2,500社
- タイ進出日系企業数:約6,000社
一方でここ数年、
- 人件費・賃料などコスト構造の変化
- 現地ローカル企業・中国企業との競争激化
- コロナ後のサプライチェーン再編(中国+1の再見直し)
を背景に、「縮小・統合・完全撤退」を検討する日本企業が増えています。
ここ数年の動きにおいても、日系大手企業のスバル・スズキ・パナソニック等のタイの生産撤退が相次いでいます。
ひと昔前まではタイは自動車の一大生産市場として裾野産業が拡大してきましたが、昨今では下請け企業の撤退も相次ぎ、生産市場としては厳しい側面が浮き彫りになりつつあります。
ただし、撤退=失敗ではありません。
ポートフォリオ再設計の一環として、早めに“痛みをコントロールする撤退”を選ぶケースも増えています。

2. 撤退を決める前に整理すべき3つの論点(共通)
2-1. 撤退の目的と“どこまで”撤退するか
- 完全撤退(法人を清算・閉鎖)なのか
- 生産だけ撤退して販売は残すのか
- 拠点統合(他国・他拠点に機能を集約)なのか
「何を残して、何をやめるのか」を明確にしないと、現場は動けません。
2-2. 撤退に伴うリスクとコスト
- 雇用契約(退職金・解雇補償・労働法上の義務)
- 賃貸契約・リース契約の中途解約条件・原状回復費用
- 取引先への債務・違約金リスク
- 税務・会計上の損失処理、親会社決算への影響(減損・清算損など)
数字だけでなく、ステークホルダー別の影響(従業員・取引先・行政)も整理します。
2-3. 「いつまでに/どの順番で」進めるか
- いつまでに営業をやめるか
- 新規投資・採用をいつ止めるか
- 人員調整・契約解約・清算手続きの順番
この順番を間違えると、
余計な解約金・訴訟・レピュテーションリスクを生みかねません。
◆参考記事:海外拠点の撤退・縮小ラインの決め方【失敗を資産に変えるための実務】

3. ベトナム拠点の撤退・清算の流れ
3-1. 全体のステップ(イメージ)
ベトナムの現地法人を例にすると、典型的には次のような流れになります。
- 日本本社での撤退方針決定(取締役会・経営会議 等)
- 現地取締役会・株主総会での清算決議
- 清算人の選任
- 投資登録証明書(IRC)・企業登録証明書(ERC)等の返上・変更申請
- 債務整理(取引先・金融機関・従業員)
- 税務署・社会保険機関・関係当局への届出・精算
- 清算報告書・最終決算の作成、清算結了登記
3-2. 実務上のポイント(ベトナム)
- 従業員対応
- 解雇・退職に伴う補償(退職金・未払給与・有給休暇の精算など)
- 労働局への届出、労働法に基づく手続き
- 税務・社会保険
- VAT・法人税・源泉税などの最終申告・納税
- 社会保険・健康保険の精算、加入解除
- 契約・資産
- 賃貸・リース契約の解約交渉、原状回復
- 固定資産・在庫の処分(売却・廃棄 等)
3-3. 期間・費用の目安(レンジ)
案件や業種により大きく異なりますが、イメージとしては:
- 期間の目安:12〜24ヶ月程度
- 費用:数百万円~ (※事業内容や事業規模、ペナルティ等により大きく変動)
- 費用の内訳:専門家費用(会計事務所・法律事務所)、官公庁手数料、退職金・解約金・原状回復費用など
◆ 参考記事: 現地法人の清算:撤退を決断する際に知っておくべきこと

4. タイ拠点の撤退・清算の流れ
4-1. 全体のステップ(イメージ)
タイの現地法人の場合、一般的には次のような流れです。
- 日本本社・現地での清算決議(取締役会・株主総会)
- 商務省(DBD:Department of Business Development)への清算登記申請
- 清算人の選任
- 官報での清算公告(一定期間、債権者への異議申立期間を設ける)
- 債務整理(取引先・銀行・従業員)
- 税務署(Revenue Department)への最終申告・精算/VAT登録の抹消
- 清算結了登記、最終報告
4-2. 実務上のポイント(タイ)
- 従業員対応
- タイ労働法に基づく解雇通知期間・退職金の支払い
- 労働局への届出や、従業員との和解・合意書作成
- 税務・社会保険
- 源泉所得税・法人税・VATの最終申告・納付
- 社会保険事務所への手続き
- BOI認可企業の場合
- 投資BOI(投資委員会)からの優遇措置を受けている場合、特別な報告・返上が必要となるケースあり
4-3. 期間・費用の目安(レンジ)
- 期間の目安:12〜18ヶ月程度。(ただし、BOIの有無や債務状況によって変動)
- 費用:数百万円~ (※事業内容や事業規模、ペナルティ等により大きく変動)
- 費用の内訳:専門家報酬、官報公告費用、退職金、契約解約・原状回復費用など

5. ベトナムとタイの撤退・清算を比較した“実務的な違い”
5-1. 行政・手続きの違い(ざっくり比較)
- ベトナム
- 投資登録(IRC)+企業登録(ERC)の二階建て
- 投資法・企業法に基づく手続き
- タイ
- 商務省(DBD)、税務署、BOI(該当する場合)との連携
- 官報での公告期間が実務上のネックになることも
5-2. 労務・雇用面の違い
- 退職金計算・解雇の正当事由の要件・通知期間など、日本と異なるルールが存在
- 日本本社の「期待値」とローカル法令のギャップを埋めることが重要
5-3. 税務・会計面の違い
- 清算損の扱い/グループ内での損失処理
- 移転価格税制やグループ再編の影響など、グローバル税務との接続も要検討

6. 実務上“やってはいけない”撤退の順番
6-1. ありがちなNGパターン
- 取引先や従業員への説明より先に、「突然の閉鎖」を通知してしまう
- 税務・社会保険の精算前に、資金を引き上げてしまう
- 賃貸契約条件(中途解約・原状回復)を確認せずに、「◯月で出たい」とだけ伝える
これらは、余計な解約金・訴訟・レピュテーション悪化につながります。
6-2. 推奨される進め方(高リスク順)
- 法的リスク(税務・労務・社会保険)を最優先で整理
- 取引先との債務関係をクリアにする(支払・返品・在庫処理など)
- 賃貸・リース・各種契約の解約交渉
- 資産処分(固定資産・在庫・備品 等)
- 最後に資金還流・清算結了
ベトナム・タイ共通するリスクとして、法人清算により従業員からの訴訟リスクが高くなる為、十分ケアと退職に向けた補償パッケージの提供を誠実に対応する必要があります。
6-3. 日本本社と現地側の役割分担
- 日本本社
- 撤退方針の決定/対グループへの説明・開示/全体スケジュール管理
- 現地拠点
- 当局対応/従業員・取引先への具体的な説明・交渉/実務手続きの実行

7. Social Zeroが伴走できること(ベトナム/タイの撤退・清算)
当社は、ベトナム・タイを含むアジア各国で、
現地法人の縮小・統合・撤退プロジェクトに伴走してきました。
支援できる範囲の一例:
- 撤退前の検討フェーズ
- 「完全撤退」「縮小・統合」「売却・M&A」など、選択肢の整理
- ベトナム/タイそれぞれでのスキーム案のたたき台作成
- 実務フェーズ
- 現地専門家(会計・法律事務所)との連携・ディレクション
- 従業員・取引先への説明シナリオ/Q&Aの設計
- 撤退後の「次の一手」
- 他国での再展開(中国+1/ASEAN他国 等)
- 販売網再構築/現地パートナーとの業務提携・M&A など
8. FAQ(よくある質問)
- Q1. ベトナム・タイの撤退・清算は、どれくらいの期間を見ておくべきですか?
-
A. 案件の規模や債務状況にもよりますが、一般的にはベトナムで12〜24ヶ月、タイで12〜18ヶ月程度を目安と考えるケースが多いです。税務調査でのペナルティやBOI認可の有無や、従業員・取引先との調整状況によって前後します。
- Q2. 撤退前に「一定期間の休眠」にして様子を見ることはできますか?
-
A. 形式的には休眠・活動停止のような状態を取ることも可能ですが、税務・社会保険・ライセンス維持コストが発生し続けるため、「本当に一時的な休止か」「実質的な撤退か」を早めに判断したほうが、トータルコストは抑えられます。
- Q3. 撤退・清算を決めたことは、どのタイミングで従業員や取引先に伝えるべきですか?
-
A. 労務・税務・契約の条件整理(退職金・解雇補償・解約条件など)の見通しが立った段階で、「突然の通告」にならないよう段階的に伝えるのが現実的です。法令上の通知期間もあるため、現地専門家と相談のうえ計画的に進めることをお勧めします。
- Q4. 撤退ではなく、現地法人を売却(株式譲渡)する選択肢もありますか?
-
A. はい。事業や人材・ライセンスに価値がある場合、「清算」だけでなく、現地パートナーや第三者への株式譲渡・事業譲渡・M&Aという選択肢も検討可能です。税務・法務の検討が必要になるため、早めにスキーム案を整理することが重要です。
- Q5. ベトナムとタイ、どちらの撤退のほうが“難しい”のでしょうか?
-
A. 単純な優劣はつけられませんが、タイは官報公告やBOIの有無によって期間が伸びるケースがあり、ベトナムは投資登録・企業登録の二層構造を適切に処理する必要があります。いずれも「国というより個別案件の条件次第」で難易度が変わる、というのが実務感覚です。
9. まとめ:撤退・清算を“最後の一手”にしないために
ベトナム・タイからの撤退・清算は、
単なる「撤退」ではなく、事業ポートフォリオを再設計するための一つのプロジェクトです。
- 撤退前に論点を整理し、縮小・統合・売却など他の選択肢と比較する
- ベトナム/タイそれぞれの事情に合わせて、手続きの順番を設計する
- 撤退後の「次の一手」(別国・別スキームでの再チャレンジ)まで見据える
こうした視点で進めることで、痛みを抑えつつ、次の成長につなげることができます。
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